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有機合成の脱水で用いられる乾燥剤の基本とまとめ

有機化学実験において水分は微量であっても悪影響を及ぼすため、乾燥することは非常に重要です。例えば多量の水分が残っていた場合、乾燥させきれず正確な重さが計れなかったり、潮解性の化合物は水を含んでいた場合などは物性が変わってしまいます。また、結晶に水分が含まれた場合、正確な融点の測定などができないなどの問題があります。

有機合成において一番水分が問題になるのは、有機金属試薬を用いるような禁水反応などで、水が微量含まれているかどうかで反応の進行が決定されてしまうほどです。

このような状態を避けるために、反応の後処理や反応の直前に水を取り除くことが必要です。

そこで用いられるのが乾燥剤であり、各乾燥剤の性質を知り、試料の含水量や望みの乾燥度に応じて乾燥の手法と乾燥剤を使い分けるのが重要になってきます。この記事では乾燥剤を中心として、有機実験で用いられる脱水手法についてまとめます。

乾燥剤に必要な条件と特徴

有機化学実験で用いられる乾燥剤は、多様な用途に合わせて多種の乾燥剤が存在しており、その使用方法について知る必要あります。一般的に乾燥剤として使用するためには以下の条件が必要です。

乾燥剤に必要な条件

  • 吸湿性が強い
  • 乾燥速度が早い
  • 取り扱いが容易
  • 反応性でない
  • 使用後に除去できる

また、このような性質を持つことから取り扱いには気を付ける必要があります。→吸湿性物質の取扱いについてはこちら!


乾燥剤の種類

研究室で一般的に用いられる乾燥剤をその脱水乾燥のメカニズムで分類すると①化学的乾燥剤、②物理学的乾燥剤の二種類に大別できます。

化学的乾燥剤

化学的乾燥剤は、その名前の通り化学的性質を利用して脱水を行う乾燥剤のことです。化学的乾燥剤の中でも、いくつか脱水のメカニズムが異なるものがあり、それぞれ無水無機塩、酸・塩基、水と激しく反応するものに分けることができます。

無水無機塩

無水無機塩を用いる際の乾燥の原理は以下の要素で評価できます。

  • 溶液中の水を結晶水として取り込める水分子の数
  • 平衡まで達するまでの速さ
  • 結晶水の結合の強さ

これらの乾燥剤は主に分液後の有機層の脱水乾燥に用いられます。

乾燥を行なう際の操作としては、一般に液量の1/20から1/30程度の固体乾燥剤を直接溶液中に入れ、振り混ぜて乾燥剤の様子を注意深く観察します。このとき、固まりになってしまうため、最初は少しずつ乾燥剤を加えます。乾燥剤が湿っているか、粗い固まりになっているように見えたら更に少量を加えます。乾燥剤によっては数時間放置するのが望ましいですが、反応の後処理など実際の実験操作では、例えば硫酸マグネシウムを用いた場合10分程度、硫酸ナトリウムを用いた場合は20~30分程度は放置し、ひだ折りろ紙、あるいは綿栓によりろ過します。硫酸ナトリウムのように比較的粒子が大きい乾燥剤の場合は、緩く栓をした綿栓ろ過で素早くろ過できます。

主な用途: 分液後の脱水乾燥

乾燥剤許容能速さ強さ
CaCl2高い強い
MgSO4高い速い強い
Na2SO4極めて高い遅い弱い
CaSO4低い極めて遅い極めて強い
K2CO3

表1.  分液用乾燥剤と乾燥能力

塩化カルシウム(CaCl2): 塩化カルシウム管として気体の乾燥にもよく利用されます。乾燥が比較的速いです。しかしながら古いものを使うと微粉末が詰まってろ過が遅くなることがあります。また、塩化カルシウムは水だけでなくアルコールも吸い取るので、その場合は適しません。(残留水分量: 0.4 mgH2O/l dry air, 乾燥能力: 0.2 gH2O/g desiccant) 2)

塩化カルシウム管の作り方と使い方、使いみちと役割、ソーダ石灰管?

炭酸カリウム(K2CO3): 炭酸カリウムは塩基性乾燥剤のため、溶液に含まれている酸を中和して取り除けるという利点があります。しかしながらカルボン酸などの酸性化合物や脂肪族ニトロ化合物とは反応してしまうため、使用には適しません。(残留水分量: 0.2 mgH2O/l dry air, 乾燥能力: 0.96 gH2O/g desiccant) 2)

硫酸ナトリウム(Na2SO4): 芒硝(ぼうしょう)とも呼ばれます。中性のため、ほぼ全ての化合物に対して使用することができるため一般的によく用いられます。吸水速度が遅いことと、32℃以上になると可逆反応が起きることがデメリットです。(残留水分量: 12.0 mgH2O/l dry air, 乾燥能力: 1.2 gH2O/g desiccant) 2)

硫酸マグネシウム(MgSO4): 吸水速度が速く、硫酸ナトリウムと並んでよく用いられます。粉末が小さく表面に化合物が吸着されやすいので、ろ過の際にきちんと洗いこみを行う必要があります。ルイス酸性があるのである種のアミノアルコールやジオールに対してはキレートになってしまい回収できなくなります。(残留水分量: 1.0 mgH2O/l dry air, 乾燥能力: 0.2-0.8 gH2O/g desiccant) 2)

硫酸カルシウム(CaSO4, ドライライト): 吸水速度はとても速く、吸水力も強いですが吸水できる量は少ないです。溶液に入れて使用する場合は、硫酸ナトリウムなどである程度事前脱水してから使うと良いです。(残留水分量: 0.004 mgH2O/l dry air, 乾燥能力: – gH2O/g desiccant) 2)

一般的な研究室では、分液後の乾燥剤としてよく用いられ、その中でも特に硫酸ナトリウムあるいは硫酸マグネシウムが頻繁に用いられています。どちらとも研究室でよく使われていますが、普段使いの乾燥剤としては、硫酸ナトリウム派か硫酸マグネシウム派かに分かれます。

硫酸マグネシウムと硫酸ナトリウムの違いは?乾燥剤における硫酸ナトリウムと硫酸マグネシウムの違い

酸・塩基

酸や塩基は, 水が加わると直ちにイオン化し溶解します。特に強酸や強塩基の場合は、そのイオン化能が高いために、空気中の水蒸気を吸い取って水溶液の状態になります。このようなメカニズムで脱水を行う乾燥剤には、濃硫酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどがあります。

主な用途: 空気中の水分の乾燥 ➡️ デシケーターや真空トラップ

濃硫酸(H2SO4): 吸湿力が強く安価なため古くから用いられています。ガスの乾燥の時は硫酸をくぐらせます。その際は気泡を読みガスの通過量を知ることができます。また、乾燥に使用した硫酸の容量の増加で吸湿力の減少の程度も見当をつけることができます。デシケーターに用いる際は、シャーレの中に入れ、その表面にポリエチレンまたはテフロンのシートを浮かせます。(残留水分量: 0.004 mgH2O/l dry air, 乾燥能力: – gH2O/g desiccant) 2)

水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH): 濃硫酸に匹敵する吸湿力を持ちますが、吸湿容量は大きくありません。強塩基の化合物であるので、酸、アルデヒド、ケトンなどその他の酸性物質の乾燥には使用できませんが、アニリン、キノリンなどの塩基性化合物の乾燥には使用できます。(KOH 残留水分量: 0.3 mgH2O/l dry air, 乾燥能力: – gH2O/g desiccant, NaOH 残留水分量: 0.16 mgH2O/l dry air, 乾燥能力: – gH2O/g desiccant 2)

水酸化カリウムの性質と反応

水と反応する乾燥剤

1%以下の水分までの脱水、および完全に脱水が必要なときには、金属ナトリウム、水素化リチウムアルミニウムなどの水と反応し、水素を発生して脱水する強力な乾燥剤を用います。ナトリウムや水素化リチウムアルミニウムを乾燥剤として用いるときには、水分が多量にあると爆発や火災の原因になるので、塩化カルシウムや硫酸ナトリウムなどで予備乾燥した後に用いた方が安全です。また、発火性の乾燥剤は使用後、廃棄の際にはヘキサンなどで希釈した後、エタノール中に少しずつ入れて完全に分解したのを確認してから廃棄します。

主な用途: 有機溶媒の脱水 (五酸化二リンはデシケーターやガラスオーブン)

ナトリウム(Na): エーテル系溶媒を中心としてよく用いられます。脱水の際には同時に指示薬としてベンゾフェノンを加えるため、目視で脱水状態が確認できます。また、ナトリウムとベンゾフェノンにより発生したベンゾフェノンケチルは水だけでなく、過酸化物とも反応するため、過酸化物も除去できます。ジクロロメタンやクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、アルコールやケトンとは反応するので用いられません。

→ナトリウムとベンゾフェノンで脱水溶媒を作る方法

水素化カルシウム(CaH2): 比較的マイルドな乾燥剤なので他のものよりも安全です。塩基性の溶媒によく用いられます。しかしながら溶媒に不溶なので脱水速度が遅いこと、酸素を除くことができないのがデメリットです。また、過酸化物の除去もあまりできないようです。その場合にはLAHのほうが向いているかもしれません。

水素化カルシウム CaH2 (カルハイ)のつぶし方 (後処理)

水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4): 強力な還元剤であることから、ナトリウムと同様に脱水のみでなく不純物を除去することができます。使用する際は、水含有量が0.1%以上のものに使用すると激しく反応し爆発する危険があるので注意したほうがいいです。その場合は、事前乾燥するのが有用です。古くなりすぎた溶媒類(水や過酸化物が多い)は発火しやすいため危険です。よく使われるTHFの乾燥にも向いていません。脱水剤としては積極的には利用しないほうが良いでしょう。一方で、少量の過酸化物であればこれを除去できるので有用です。LiAlH4について知りたい場合は以下のリンクを見てください。

水素化アルミニウムリチウム (LiAlH4、LAH)を用いた還元

五酸化二リン(P4O10): 名称としては五酸化二リンですが、分子の状態では十酸化四リンで存在します。高い脱水能を有していて、水と反応してメタリン酸になって、液体になるので目視で乾燥状態が判断できます。上に記載した金属試薬とは異なり、激しい反応ではなく、安全なのでデシケーター等で用いられます。(残留水分量: 0.001 mgH2O/l dry air, 乾燥能力: 0.5 gH2O/g desiccant) 2)

物理的乾燥剤

シリカゲル、アルミナ、モレキュラーシーブスは、多孔質の空孔を持っていて、その空孔に液体や気体を吸着することができます。それぞれの空孔のサイズを調整することで、水のみを溶媒から吸着させることができるので、乾燥剤として機能します。

主な用途: 有機溶媒の脱水、デシケーター、反応中の乾燥

シリカゲル: 主に気体やデシケーターの乾燥剤として用いられます。表面にある多孔質の空孔に吸着させるだけでなく、ゲル表面に存在するシラノールによる水和によっても脱水しています。吸着は室温以下でないと行われないので注意が必要です。塩化コバルトが指示薬として入った青色シリカゲルを用いると吸着度合を目視で判断できます(青:無水, ピンク:吸着)。ピンク色になってしまった場合は、110℃で乾燥すると再生することができます(乾燥機に長時間入れておいてもよい)。 青色シリカゲルは、コバルト塩が入っており、溶け出して溶媒を汚染する可能性があるのでデシケーターなど直接溶媒に入れないもののみに使用する方が良いです。(残留水分量: 0.03 mgH2O/l dry air, 乾燥能力: 0.20 gH2O/g desiccant) 2)

→青色シリカゲルの成分は?使い方、復活再使用はできるの?

アルミナ: 酸化アルミニウムのことです。主にデシケーターの乾燥剤として、あるいはカラム管に詰めて簡易的に脱水乾燥するのに用いられている。乾燥前に175℃に加熱した後、真空中で冷ますことで活性化させておくと乾燥剤として使用できます。(残留水分量: 0.003 mgH2O/l dry air, 乾燥能力: 0.2 gH2O/g desiccant) 2)

モレキュラーシーブス: アルミノケイ酸塩(ゼオライト)の乾燥剤です。細孔の径や型によって3A, 4A, 5A, 13Xなどがあります。3AのAはÅ(オングストローム)ではなくゼオライトの型で、13XはX型のゼオライトで空孔の直径が10Åのものであるので勘違いしないようにしましょう。モレキュラーシーブスの乾燥能力は理論的には自重の約20~25%ですが、実際には、有機溶媒に計算量の3~4倍くらいのモレキュラーシーブスを加えて、時々撹拌しながら24時間位静置します。時間は溶媒の種類によって変わりますが、乾燥させにくいものは数日行います。再生法としては、表面にアルコール等が残っていると加熱処理の際引火するおそれがあるため、まず風乾させて表面に付着した溶媒を除去します。次に150~180℃ で2、3時間加熱し、300℃ で3、4時間加熱した後、デシケーターに入れ冷却します(Wako)。モレキュラーシーブスは700℃ 以上で構造異常が起こるので加熱時は注意する必要があります。

モレキュラーシーブを用いた乾燥法まとめ

参考文献

1) 日本化学会、丸善、第5版 実験化学講座5-化学実験のための基礎技術-, 2009, 38-41

2) ナカライテスク「乾燥剤の種類と乾燥能力」, <https://www.nacalai.co.jp/information/trivia2/01.html> 2019年3月30日アクセス

減圧乾燥 化学実験における乾燥のやり方

乾燥剤における硫酸ナトリウムと硫酸マグネシウムの違い

モレキュラーシーブを用いた乾燥法まとめ

脱水溶媒の作り方

ディーン・スターク装置の原理と脱水反応

水素化カルシウム CaH2 (カルハイ)のつぶし方 (後処理)

青色シリカゲルの成分は?使い方、復活再使用はできるの?

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