化学

モレキュラーシーブを用いた乾燥法まとめ

精密な有機合成を行うには適切な脱水乾燥が必要となることが多いです。特に乾燥剤を用いた手法は簡便で良く用いられます。

今回はその中でも物理的な乾燥剤であるモレキュラーシーブの使い方と有効性について解説します。

モレキュラーシーブとは?

モレキュラーシーブ(molecular sieve)はゼオライトを主成分とする乾燥剤です。

モレキュラーシーブの使い方

モレキュラーシーブは使用法として①有機溶媒用の乾燥剤に用いる場合②反応に用いる場合があります。

有機溶媒の乾燥に使用する

モレキュラーシーブスの乾燥能力は理論的には自重の約20~25%ですが、実際には、有機溶媒に計算量の3~4倍くらいのモレキュラーシーブスを加える必要があります。有機溶媒の乾燥に関しては①静置法②カラム法の二種類の方法があります。一般的には静置法を用います。カラム法の方が乾燥力が高く、素早く乾燥できる利点がありますが、水分含量が多い溶媒には適しません。その場合は事前乾燥しておく必要があります。それぞれの手法のやり方について下記に示します。

静置法
  1. 有機溶媒にモレキュラーシーブを加える。
  2. 時々撹拌しながら放置する(24時間→乾燥しにくいものは数日置く)。常に撹拌する場合はもう少し早くても問題ありません。

カラム法
  1. モレキュラーシーブをカラムに充填する。
  2. 乾燥したい有機溶媒を流す。
  3. 初留を除去する。
  4. 初留後の溶媒を分取する。

反応に使用する

モレキュラーシーブは有機溶媒の脱水に使用するイメージが強いですが、反応中にも使用できます。反応に用いられる場合としては反応中の脱水を行う場合とモレキュラーシーブの反応性を利用する場合があります。

モレキュラーシーブの種類

モレキュラーシーブには、それぞれ型が存在しています。細孔の径や型によって3A, 4A, 5A, 13Xなどがあります。3AのAはÅ(オングストローム)ではなくゼオライトの型で、13XはX型のゼオライトで空孔の直径が10Åのものであるので勘違いしないようにしましょう。

タイプ 3A 4A 5A 13X
吸着される分子 H2O, NH3, He (有効直径 < 3Åの分子) 3Aで吸着される分子, H2S, CO2, C2H6, C3H6, CH3OH, C2H5OH, C4H6 (有効直径 < 4Åの分子) 4Aで吸着される分子, n-パラフィン, n-オレフィン, n-C4H9OH (有効直径 < 5Åの分子) iso-パラフィン, iso-オレフィン, ジ-n-ブチルアミン, 芳香族 (有効直径 < 10Åの分子)
吸着されない分子 CH4, CO2, C2H2, O2, C2H5OH, H2S, C2H4 (有効直径 > 3Å) C3H8, コンプレッサー油, 環状炭化水素 (有効直径 > 4Åの分子) iso-化合物, 4員環化合物 (有効直径 > 5Åの分子) (C4F9)3N (有効直径 > 10Åの分子)
代表的な用途 小さい分子の乾燥 (メタノール, エタノール, アセトン, アセトニトリル) およびガス(エチレン, ブタジエンなど)の乾燥 一般の有機溶媒の乾燥(キシレン, クロロホルム, ニトロメタン, DMSOなど) および天然ガス, 液相飽和炭化水素, 天然ガスからCO2の除去 大きい分子の有機溶媒(THF, ジオキサンなど)およびナフサ, ケロシンからn-パラフィンの回収 非常に大きな分子の有機溶媒, および脱硫, 乾燥, 水分とCO2の同時除去, 炭化水素の吸着

溶媒別モレキュラーシーブの種類

上記に記載した通り、有機溶媒にはそれぞれ適切なタイプのモレキュラーシーブを用いる必要があります。モレキュラーシーブは適切なサイズを選ぶことで、水分だけでなく添加物等の除去(例: ジクロロメタンやクロロホルムに安定剤として含まれているメタノールやエタノール)も可能です。下記に有機溶媒に適したタイプのモレキュラーシーブの表を記載します。

有機溶媒 通常の水分量(wt%) 乾燥後の水分量(wt%) タイプ
Acetonitrile 0.05-0.2 0.003 3A
Benzene 0.07 0.003 4A
CCl4 0.01 0.002 4A
Chloroform 0.09 0.002 4A
Cyclohexane 0.009 0.002 4A
Dichloromethane 0.17 0.002 4A
Diethyl ether 0.12 0.001 4A
Diisopropyl ether 0.03 0.003 4A
DMF 0.06-0.3 0.006 4A
Dioxane 0.08-0.28 0.002 5A
Ethanol 0.04 0.003 3A
Ethyl acetate 0.015-0.21 0.004 4A
Methanol 0.04 0.005 3A
2-Propanol 0.07 0.006 3A
Pyridine 0.03-0.3 0.004 4A
THF 0.04-0.2 0.002 5A
Toluene 0.05 0.003 4A
Xylene 0.045 0.002 4A

モレキュラーシーブの再生法(活性化法)

モレキュラーシーブは再生して何度でも使用できるのが利点です。また、新品であった場合でも試薬メーカーで売られているような一般的な容器に入っている場合は水分が時間と供に入ってきてしまうので、活性化(再生)する必要があります。再生の手法もいくつかあるのでまとめます。

一般的な再生法(メーカー推奨)

まず一般的な再生法としては、使用後のモレキュラーシーブの溶媒を洗い流した後 (EtOHなどの溶媒+水等)、風乾し乾燥機等で予備乾燥を行います。その後は各々メーカーによって違うので、それぞれまとめます。

  • 富士フィルム和光純薬 – 150-180℃で2-3時間加熱後、300℃で3-4時間加熱する。1)
  • ナカライテスク – 200-250℃で加熱する。乾燥しにくい溶媒(極性溶媒等)の場合は真空中あるいはガス流域下で300-350℃で加熱する。2)
  • 関東化学 – 200-250℃で1-2時間加熱する。3)

各々乾燥に必要な温度等は異なりますが、加熱後はデシケーターで保存します。

電子レンジを用いた簡便な再生法

モレキュラーシーブは活性化に時間がかかるため、上記のようなメーカー推奨の再生法などの準備が必要ですが、電子レンジを用いることで時間を短縮できます。元東京大学の菅敏幸先生(現 静岡県立大学)が紹介されていますが 4)、こちらでもいくつかのコツを含めて紹介したいと思います。

まず乾いたナス型フラスコに必要量のモレキュラーシーブを入れ、電子レンジで加熱します(500Wで1分-1分30秒程度)。軍手をしてナスフラスコ内のモレキュラーシーブを素早く攪拌した後、再度電子レンジに入れて加熱します。この操作を合計3回繰り返します。フラスコに二方コックを付けて、ポンプで減圧して水を飛ばします。この際に、最初の一瞬フラスコ内部が曇って水蒸気が確認できた場合は、冷えてから電子レンジの操作を繰り返します。内部が曇らなかった場合はフラスコを減圧状態のまま室温まで冷やします。十分に冷却したら、アルゴンで置換して保存するか、溶媒に直接加えて使用します。

モレキュラーシーブスのデメリット

モレキュラーシーブスは強力な脱水作用を持ちながら安全な脱水剤であることから非常に重宝されていますが、多少のデメリットがあります。一つは原料であるゼオライトの粉末が混入する可能性があること、モレキュラーシーブに安定剤が吸着されることによって、溶媒の安定性が失われる場合があること、反応の触媒となりうるため分解反応等を促進させる可能性があることなどがあります。モレキュラーシーブを加えて溶媒を長期間保存する場合はこうしたデメリットを考慮しておく必要があります。いずれにしても蒸留したり、脱水した溶媒はなるべく早く使い切るようにしたほうがよいでしょう。事故例として、トリクロロエタンの脱塩素化による爆発、ニトロメタンの分解、臭化ベンジルの自己縮合などがあります。

参考文献

1) 富士フィルム和光純薬株式会社「お問い合わせQ&A Qモレキュラーシーブスについて」, <https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/question/013351.html> 2019年3月30日アクセス

2) ナカライテスク「乾燥剤の種類と乾燥能力」, <https://www.nacalai.co.jp/information/trivia2/01.html> 2019年3月30日アクセス

3) 関東化学「モレキュラーシーブ」, <https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/%E3%83%A2%E3%83%AC%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%96_RGA-03.pdf> 2019年3月30日アクセス

4) 管敏幸, 友岡克彦「反応脱水溶媒」, <http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~fukuyama/dassuiyoubai/dassuiyoubai.htm> 2019年3月30日アクセス

5) Wikipedia「モレキュラーシーブ」, <https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%AC%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%96> 2019年3月30日アクセス

 

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専門: 有機化学