薄層クロマトグラフィー(TLC)は、溶媒を下から吸わせることで極性の差によって有機化合物を分離してくれます。しかしながら有機化合物はほとんどの場合無色なので、見えるようにする(可視化する)ために色んな検出法が用いられます。TLCの検出法は大きく2通りに大別されます。
1. 非破壊的検出法
TLCにスポットした有機化合物を破壊することなく(非破壊的)に検出する方法です。基本的にはUVを当てて観測する方法などの化学反応を用いないものですが、ヨウ素に関しても検出後にすぐ抜けてくれる場合がほとんどなので、そちらも非破壊的な検出法に含めます。
UVによる検出
短波長(254nm)と長波長(365nm)がある。芳香族などの共役化合物が検出可能です。
UVを利用したTLC(薄層クロマトグラフィー)の検出法と原理
ヨウ素による検出
有機化合物全般の検出に使えます。
ヨウ素を使ったTLC(薄層クロマトグラフィー)の検出法と原理
水による検出
ほとんどの場合やりませんが、他に方法がないときは試してみましょう。特に目的物が疎水性が高い場合(有機化合物は基本的には疎水性)なら水をはじいてうっすら見えることがあります。また、スポットの濃度をかなり濃くするとTLCの凹凸で判断できることも(稀ですが)あります。➡ちなみに化合物によってはその化合物に特有の検出法があったりするものなので、特殊な化合物を使っている場合にはその化合物に詳しい人に聞くと意外と良い検出法があるかもしれません。
2. 破壊的検出法
TLCにスポットした有機化合物を化学反応で別の化合物に変換することで(破壊的)検出する方法です。一般的には有機化合物の炭素や特定の官能基と反応して色が変化する試薬を用います。また、この場合に反応を促進するのと溶媒を揮発させるために加熱を行います。一般的には加熱の温度は200℃程度で行います。加熱にはホットプレートやヒートガンが使われます。破壊的検出ではTLCプレートとしてガラスあるいはアルミ素材のみが使えます。プラスチック素材の場合は熱に耐えられない可能性があるので注意しましょう。
リンモリブデン酸
有機化合物全般に使えます。特に水酸基が見やすいですが、バックグラウンドに緑色がついてしまうので少し見にくいです。
リンモリブデン酸によるTLC(薄層クロマトグラフィー)の検出と原理
アニスアルデヒド
有機化合物全般に使えます。官能基によって色が変わるので比較しやすいですが、バックグラウンドの色が濃いのが難点。
アニスアルデヒド・バニリンによるTLC(薄層クロマトグラフィー)の検出と原理
セリウム-モリブデン酸アンモニウム(CAM)
有機化合物全般に使えます。普通のリンモよりバックグラウンドの色が付きにくいので見やすいです。普通のリンモと同様、特に水酸基が見やすいです。青リンモとも呼ばれます。
YellowCAM
セリウムーモリブデンアンモニウム(CAM)の改良版?です。万能発色試薬で有機化合物全般に利用することができます。CAMとは異なり背景やスポットが黄色っぽくなりますが、熱しすぎても背景が真っ青になって見えなくなるということがないので扱いやすい発色試薬です。
改良リンモリブデン酸
リン酸と硫酸を加えて調製したリンモリブデン酸は感度も向上し、背景も白色系で見やすいのが特徴です。スポットの濃淡で化合物の量を見るには普通のリンモリブデン酸のほうが分かりやすいです。感度の高さ、試薬調達のしやすさ、使い勝手をとってもお勧めの発色試薬です。
10%硫酸
10%硫酸水溶液は最も手軽で簡単に調製できる万能検出試薬です。有機化合物全般に使用可能です。有機化合物のスポットは、白のバックグラウンド上に黒いスポットとして表れます。
ニンヒドリン
ニンヒドリンでは含窒素化合物(主に1級、2級アミン、アミド)が検出できます。スポットは紫と黄色でバックグラウンドも薄く見やすいです。
ニンヒドリンによるTLC(薄層クロマトグラフィー)の検出と原理
ドラーゲンドルフ試薬
ドラーゲンドルフ試薬はニンヒドリンでは見にくい第3級、第4級アミンを検出する発色試薬です。ニンヒドリンと使い分けることで、アミンの級数がわかります。
ドラーゲンドルフ試薬 (TLC発色試薬)の作り方と原理と使い方!
ジニトロフェニルヒドラジン
アルデヒドやケトンの検出ができます。
DNP(2,4-ジニトロフェニルヒドラジン)ケトンとアルデヒドの発色試薬
塩化パラジウム
硫黄化合物、ホウ素化合物の検出ができます。スポットは茶色から黒色ででます。
塩基性過マンガン酸カリウム
5%程度のKMnO4溶液を噴霧する。万能発色試薬で赤紫色の地色に黄褐色のスポットが現れる。
塩基性過マンガン酸カリウム(KMnO4):万能なTLCの発色試薬
ブロモクレゾールグリーン
酸性物質(COOH)を検出することができる。水:メタノール(1:4)溶液に0.3%のブロモクレゾールグリーンを溶かした溶液100mLに対して、30%NaOH水溶液をパスツールで8滴加えて調整する。緑-青の地色に黄色のスポット。
塩化鉄(II)
フェノール性水酸基の検出に用いられる。1%水溶液を使用する。種々の色で焼ける。
塩化鉄(III):フェノール検出用TLC発色試薬の原理と作り方
ローダミンB
脂質や可塑剤など長鎖アルキル基を含む疎水性の化合物の染色。UV365 nmで深赤色の蛍光が観察できる。
ローダミンB:脂質や可塑剤の検出!TLC発色試薬の調製法と特徴
クルクミン
クルクミンはホウ酸誘導体を赤色のスポットに染めることができる発色試薬です。鈴木宮浦カップリング反応をやったときに使うとどのスポットがホウ酸誘導体なのか一目で判断できます。クルクミンの代わりにターメリックパウダーを使っても検出できるとか?
発色試薬について詳しいサイト
TLCの記事まとめはこちら
https://netdekagaku.com/tlcarticle_matome/
Chemistry Libretexts – 検出法と原理について画像で分かりやすく載っていて便利です。
Matsuoka’s Lab WebPage TLC用発色液の調製法と用途 – 検出法について表でまとめてあります。
Kanai Laboratory ラボマニュアル – TLC Column Chromatoの所にあるTLCレシピが、発色試薬のレシピが網羅されており、非常に便利です。印刷して持っておくと発色試薬を調整するのに楽です。
九州大学分子触媒化学研究室 – 昔のログ?が残っています。発色試薬について詳しく書いてあります。
ほろ酔い化学者のブログ TLCの発色剤 – 著者の使用したことがある発色剤について使用感も含めて書いてあります。
全てのTLCの記事は以下のリンクから!