TLCの発色試薬はたくさんありますが、どれを使ったらよいかわからない!
そんな方のために合成系・有機化学系研究室に必携の発色試薬を化合物の例を踏まえて紹介します。
NMRやマススペクトル、IR、元素分析などを使わなくてもTLCがあれば迅速に、安全に、簡便に多くの構造情報を得ることができます!
大学、高校や中学校の科学部・サークル、趣味の化学実験、夏の自由研究などでもTLCは大活躍!
おすすめなTLCのスポット検出方法をランキング形式で紹介
TLCは分析手法としてとても優秀です。発色試薬はさらにTLCの有用性を高めてくれます。
TLCの基本や原理は以下の記事を参考にしてください
そもそも発色試薬を使わない人も多いですが、せっかく展開したTLCを発色試薬で焼かないのはもったいないです。
ここではおすすめなスポットの検出方法を紹介します!
蛍光物質を含むTLCではUV検出が最も簡便で便利ですが、それ以外の検出方法を紹介します。
1位:リンモリブデン酸
リンモリブデン酸は調製が簡単(エタノールに溶かすだけ)で様々な有機化合物に対して有効で使いやすい発色試薬です。発色試薬の中にはなれないと真っ黒に焼けてスポットが見えなくなることもありますが、リンモリブデン酸はそんなことはほとんどありません。
試薬の安定性も高く長期保存可能なので常備発色試薬として適しています。非の打ち所がなく、平均的な性能を持つためリンモリブデン酸が堂々の第一位です。
万能なために見落としがちですが、リンモリブデン酸でも焼けにくい化合物があります。極性基が少ない化合物(ステロイド類や可塑剤とか)は焼けにくい印象があります。どのくらいのスポットがあるのか?を考えてTLCを展開し、数がおかしかったり、スポットの展開する位置が変な時は焼けていない化合物があるかもしれないので注意しましょう!
リンモリブデン酸によるTLC(薄層クロマトグラフィー)の検出と原理
2位:ヨウ素
ヨウ素は焼く必要がなく、さらにヨウ素で染色した後に放置しておけば別の染色液で染色することができるのが利点です。簡単に作ることができるので作らない理由がありません。シリカゲルとヨウ素を入れて密閉しておけば、秒で染色できるのでとても便利です。感度も結構高くヨウ素でしか染色できない化合物もあります。一方で化合物によっては染色しにくかったり、定量性が低かったりするので別の染色液の使用は必須だと思います。
ヨウ素を使ったTLC(薄層クロマトグラフィー)の検出法と原理
3位:改良リンモリブデン酸
1位のリンモリブデン酸と2位のヨウ素は万能ですが、感度が低めです。感度の高い発色試薬としてはCAM、YellowCAM、アニスアルデヒドなどがありますが、調製のしやすさ、簡便さ、試薬の安定性などを考慮すると改良リンモリブデン酸が最もお勧めです。感度も高くほとんどの有機化合物は発色します。
個人的にはリンモリブデン酸よりも改良リンモリブデン酸のほうがおすすめです。
4位:アニスアルデヒド
アニスアルデヒドは化合物によってスポットの色が変化するのが最大の利点です。色でどんな化合物か判断できることがあります。特に展開溶媒を変えて検討した時にスポットの順番が入れ替わったりすることがありますが、アニスアルデヒドで焼けばスポットの色や焼け方でそのあたりが判断できます。特に複数のスポットがたくさんあるときにアニスアルデヒドは重宝します。感度も高いですが、欠点は試薬の安定性が低く長期保存がしにくい点、たくさん使うのに調製がやや面倒である点、焼きをミスすると真っ赤になってスポットが見えなくなる点など欠点も結構たくさんあるのが玉にきずです。匂いも結構あって嫌な臭いではないですが、ずっと嗅いでいると気持ち悪くなるのが残念なところです。
私はリンモリブデン酸(改良リンモリブデン酸)→アニスアルデヒドというようなステップで使ってました。
アニスアルデヒド・バニリンによるTLC(薄層クロマトグラフィー)の検出と原理
5位以下の総評
他にも万能発色試薬はたくさんあります。10%硫酸、CAM、YellowCAM、バニリン、過マンガン酸カリウム、水などです
水、10%硫酸は簡便に作れますが、感度の面で問題があります。スポットを結構濃く打つ必要があります。硫酸はシンプルですが結構使えますが、とくにこれを使う理由はないですね。
バニリンはアニスと似ています。バニリンは固体で秤量しやすく、アニスアルデヒドと同じように使えます。バニリンのほうが広範な有機化合物に使え、保存性も優れるという意見もあります。個人的にはバニリンもすぐに劣化してました。
CAMは感度は高いのですが、焼くのをミスすると真っ青になって見えなくなります。また、スポットの色と背景が被るので見にくいのも欠点です。この点でYellowCAMは優秀ですが、改良リンモリブデン酸のもっと使いやすいです。
塩基性過マンガン酸カリウムも万能発色試薬ですが、割と不安定でダメになりやすく、感度も他の試薬と比べて良かった印象はないです。
官能基検出のための発色試薬!
化合物の合成は「官能基の変換」ともとれます。反応前後の官能基の違いをTLCで区別できれば反応が進行したかどうか?目的の化合物ができたどうか?を知ることができます。
特に有用な試薬はアミノ基検出試薬のニンヒドリン、アルデヒド・ケトンを検出するDNPです。
アミノ基検出試薬ーニンヒドリン
アミノ基は生理活性物質などに良く含まれる重要な官能基です。アミノ酸やアルカロイドにもアミノ基は含まれています。第二級、第三級アミンなどの検出は苦手でこれらの検出にはドラーゲンドルフ試薬が向いていますが、基本はニンヒドリンです。第一級アミンはニンヒドリンと反応して紫色っぽく焼けます。
ニンヒドリンによるTLC(薄層クロマトグラフィー)の検出と原理
アルデヒド・ケトン検出試薬ーDNP
アルデヒドやケトンはアルドール反応やウィティヒ反応など有用な反応の原料になるため重要です。DNPを使えば黄色いスポットとして簡単に検出可能です。例えばアルコールをデスマーチン試薬などで酸化してアルデヒドを合成するときは、アルコールはDNPと反応しませんが、アルデヒドはDNPと反応して黄色のスポットになるため、反応が進行したかどうか?どのスポットがアルデヒドかを知ることができます。
DNP(2,4-ジニトロフェニルヒドラジン)ケトンとアルデヒドの発色試薬
硫黄の検出ー塩化パラジウム
塩化パラジウムは選択性は高くありませんが、硫黄系の化合物は良く焼けます。きいろっぽくなることが多いかな?という印象です。硫黄を含む化合物と含まない化合物とではスポットの色などが変わるのでそれで判断します。
カルボン酸・スルホン酸の検出ーブロモクレゾールグリーン
カルボン酸やスルホン酸などの酸性物質の検出にはブロモクレゾールグリーンが使えます。エステルから酸に変換するときは極性が大きく変わるのでRf値から化合物の推定は可能なことが多いですが、ブロモクレゾールグリーンを使えば色調の変化として検出することができます。
ホウ酸の検出ークルクミン
ホウ酸誘導体は鈴木宮浦カップリング反応に使います。クルクミンを使うと赤色のスポットとして検出できます。
入手性が高い検出試薬
1位:水
水はどこでもあります。有機化合物の多くは水をはじくため有機化合物のスポットがはじかれて検出することができます。しかし、結構濃く打たないと見えにくいことも多く、また、TLCの品質も高くないとわかりにくいです。自分で作ったTLCなどは見にくいです。
2位:10%硫酸
バッテリー溶液や金属洗浄用の試薬として10%硫酸アマゾンにも売っていて簡単に手に入れらます。ペーパークロマトグラフィーには使えませんがTLCには使えます。TLCも高価ですがアマゾンで購入可能です。
10%硫酸でもたいていの有機化合物を検出可能です。自由研究や科学部の研究でも使えるとおもいます。濃度が低いとは言え硫酸は非常に危険な試薬です。目に入れば失明の危険があるので適切な設備のある場所、知識を持つ大人がいる環境で取り扱いましょう。
3位:ヨウ素
ヨウ素は非常に有用な発色試薬です。ヨウ素をヨウ化カリウムなどから取り出す実験は学生実験などでもやる場所があるかもしれません。実習研究としても面白いかもしれません。ヨウ素は昇華するため簡単に精製できます。これを使ってTLCの染色を行うと面白いかもしれませんね。
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