脱保護条件でまとめるアルコールの保護基
ヒドロキシ基はアミンと同様に非共有電子対による反応性(求核性・塩基性)があるため、意図しない反応を抑えるために保護することが多いです。ヒドロキシ基はアミノ基と同様に極性が高いことから精製が難しくなります。保護することで極性を低下させ、精製を簡単にすることも狙えます。複数の保護基を導入する予定がある場合は脱保護条件を基準に比較するとよいです。
酸性条件で脱保護される保護基
酸性条件で脱保護される保護基として代表的なものはアセタール系とシリルエーテル系の保護基があります。
THP基(テトラヒドロピラニル基)
THP基は塩基、酸化や還元条件において安定ですが、酸性ではすみやかに脱保護されます。THPは安価で使いやすいですが、不斉炭素があるためキラルなアルコールを保護するとジアステレオマーが生じてNMRが見にくくなることが欠点です。
MOM基(メトキシメチルエーテル基)
THP基と同様にアセタール系の保護基で酸性に弱く、塩基、還元、酸化条件に強いです。MOM基は小さいので立体障害の大きいアルコールに好適です。
Tr基(トリチル基)
トリチル基はトリチル系の保護基です。トリチル基はフェニル基の安定化のためカルボカチオンが生成しやすく、酸性で脱保護されやすいです。MMTrやDMTr基はフェニル基上にメトキシ機が置換されたもので、メトキシ基が多いほど酸による脱保護が起こりやすいです。
t-Bu基(tert-ブチル基)
tert-ブチル基は酸性条件で脱保護できる保護基で、脱保護で生じる副生成物がガスであるため後処理が容易であるメリットがあります。塩基性条件、酸化・還元条件、求核剤などに安定です。
TMS, TES, TIPS, TBS基(トリアルキルシリル基)
シリルエーテル系の保護基は酸性条件で脱保護されます。これらの保護基はケイ素上の置換基の種類によって性質が大きくことなりますが、ケイ素上の置換基が大きく嵩高くなるほど丈夫になります。種類によりますが、塩基性条件にはTBS,TIPS,TBDPS基は耐え、酸化や還元条件には強いです。
塩基性条件で脱保護される保護基
塩基条件で脱保護できる保護基として有名なものはアシル系の保護基です。
Ac基(アセチル基)
アセチル基は酸化条件には強いです。酸性条件も多少は耐えますが、塩基性条件や還元条件には弱く外れます。試薬が安価でマイルドに保護・脱保護できます。
Pv基(ピバロイル基)
ピバロイル基はアセチル基よりも嵩高いため、基質アルコールの立体障害の違いを利用して選択的に空いているアルコールを保護できる特徴がある。また、Pv基の嵩高さゆえにアセチル基よりも塩基加水分解に耐える。t-BuOKやMeONa等の塩基あるいは還元剤LAHを用いて脱保護する。
p-トルエンスルホニルカルバマート基
ピリジン-メタノールといった弱塩基性条件では脱保護されますが、強塩基条件では脱保護されません。S. Manabe, M. Yamaguchi, Y. Ito, Chem. Commun. 2013, 49, 8332.
還元条件で脱保護される保護基
2,4,6-トリメチルベンゾイル基
メシチルベンゾイルクロライドはアルコールと反応してエステルを生じます。このエステルは塩基加水分解に対して安定です。一方で、LiAlH4で簡単に外れる保護基として有用です。
Bn基 (ベンジル基)
ベンジル基は酸性や塩基、酸化に強いです。接触水素化など還元条件には弱く脱保護されます。
Bz基(ベンゾイル基)
ベンゾイル基はアシル系の保護基ですが、酸、塩基性条件に安定で、こうした条件で脱保護するには加熱高濃度条件が必要です。一般的にはLAHなどの還元剤を用いて脱保護されることが多いです。
酸化条件で脱保護される保護基
PMB基(p-メトキシベンジル基)
PMB基はベンジル基と同じベンジルエーテル系の保護基なので、接触還元によって脱保護され、酸性や塩基性条件には強いです。一方で、DDQなどの酸化剤で脱保護されるのが特徴です。また強いルイス酸でも脱保護されます。
その他の条件で脱保護される保護基
MTM基(メチルチオエーテル基)
MTM基は塩基性条件や求核剤に安定で、かつ他のアセタール系保護基よりも酸性に強いという特徴を持っています。脱保護はHgやAgイオンなどにより脱保護します。
MEM基(メトキシエトキシメチル基)
MEM基はアセタール系の保護基で、有機金属試薬等の求核剤や酸化剤、塩基性条件に安定で、中程度の酸性条件にも耐えるため、THPやTBS共存下MEMを残して脱保護できます。その一方でルイス酸のZnBr2、TiCl4によって容易に切断されるという特徴があります。
TBS基(tert-ブチルジメチルシリルエーテル基)
TBS基は最もよく利用される保護基の一つで、酸性条件には弱いですが、その他の条件には安定な保護基です。脱保護方法として、フッ化物イオン(F–)を利用する方法は穏和かつ選択性の高い脱保護が可能となるため有用です。
Allyl基 (アリル基)
アリル基はエーテル系の保護基です。アリル基の見た目どおり、臭素などの求電子剤や接触水素化ではアルケンが侵されるので適しません。酸化条件にも弱いです。一方で、酸性、塩基性条件には耐えます。Pd(PPh3)4を用いた金属触媒的脱保護法などで脱保護します。意外と使い所は難しいかも?