アリル基(Allyl基)による保護
アリル基はエーテル系のアルコールの保護基で、同じエステル系の保護基であるアセチル基などと比べて、酸・塩基加水分解条件に強く、脱保護にはより過激な条件が必要になります。そのため、脱保護はLAH等を用いた還元的な方法で行われることが多いです。
アリル基保護の特徴・利点
アリル基保護基の利点や特徴は
- 直交性が高い(Pd触媒で脱保護など)
- 酸性、塩基性、ヒドリド還元条件には比較的耐える。
などです。アリル基のようにパラジウム触媒で脱保護できるような保護基は少なく、中性条件下で脱保護可能なので、不安定な官能基を含む化合物や沢山の保護が必要な化合部を取り扱う場合は重宝されます。酸と塩基両方に耐えますが、アリル基はそこまで強い保護基ではないので過信は禁物です。また接触還元は二重結合を還元してしまうので使えません。
アリル基保護の反応条件
アリルブロマイドーNaHを使った方法
脱水DMF(50 ml)にアルコール(5.00 g, 16.0 mmol)を溶解させ、水素化ナトリウム(60% in oil、840 mg, 35.1 mmol)を添加した。混合物を5~10分間撹拌し、次いで臭化アリル(2.8ml,33.4mmol)を滴下して加えて、出発物質が消失するまで撹拌した。その後飽和塩化アンモニウム溶液を加えて、水層をEtOAc(3×50ml)で抽出し、有機層をブラインで洗浄、無水MgSO4で乾燥、ろ過し、濃縮した。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ EtOAc,1:1)でし目的物を得た(97%)。
例のように脂肪族アルコールの脱プロトン化は通常NaHを使います。他に脱プロトン化されそうな官能基がある場合は試薬の当量を調整してアルコールのみが脱プロトン化されるようにします。他には炭酸セシウムなどの炭酸塩やNaHMDSなども使えます。
アリル基の脱保護条件の例
芳香族アルコールでは、Pd/C+ギ酸アンモニウムの接触還元による脱保護も簡便です(Nemai, C. Ganguly et al. Tetrahedron Lett., 2006, 32, 5810.)
塩化セリウムによるアリル基の脱保護
保護アルコール体(2.7 mmol, 1eq)、CeCl3・7H2O (3.2 mmol, 1.2 eq)をアセトニトリル(8mL)に溶解し、NaI(3.2 mmol, 1.2 eq)を加えて加熱還流した。原料の消失をTLCで確認後、1N HClでクエンチして、揮発成分を濃縮して残った残渣にジクロロメタンを加えて、水で洗浄後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、濃縮後、カラムクロマトグラフィーで精製して目的物を得た(95%)。この手法はArOHにも有効。R. Mathew Thomas, et al. Tetrahedron Lett., 1999, 40, 7294.より引用。
フェノールとベンジルアルコールのアリル基をPd(PPh3)4で脱保護
保護されたアルコール(1.0 mmol, 1eq)をメタノール(10 mL)に溶解し、触媒量のPd(PPh3)4 (0.05-1.0mol%)を窒素雰囲気下で加えて5分間撹拌した後、炭酸カリウム(6.0 mmol, 6eq)を加えて時間撹拌した後、濃縮し、2N HClを加えて中和した後、水層をジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、濃縮後、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーで精製して脱保護体を得た(90%)。Dharma Rao Vutukuri, et al. J. Org. Chem., 2003, 68, 1149. より引用。
注意事項ーTips
- アリル基は酸、塩基、酸化、還元(接触還元)など割と多くの条件で反応しうるので注意が必要です。
参考まとめ
Wuts, Peter G. M.. Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis fifth edition (p.100). Wiley.