脱水溶媒は水を加えてはいけないような反応の時に必要です。水が入っていると加水分解してしまったりする場合には脱水溶媒を使用しましょう。脱水溶媒の作り方によって脱酸素や精製することもかのうです。例えばアルゴン置換していれば、脱酸素効果が期待できます、また、蒸留によって溶媒の精製もできます。
脱水溶媒はどんな時に必要?
論文や特許をもとに反応をかけようとした時に脱水溶媒が指定されていることがあります。似たような反応でも脱水溶媒を使用しろと明確に指示されない場合もあります。一体どんな時に脱水溶媒を使用すべきでしょうか?
「水が加わると加水分解してしまうような反応性の高い化合物を使うとき」脱水溶媒を使用すべきです。
例えば、酸塩化物、ケテンなどの求電子性の高いものやブチルリチウムやグリニャール試薬などの塩基性の高いもの、0価のPd試薬などの酸化されやすいものなどは脱水溶媒を使用します。
一般に脱水剤を加えて不活性ガス下で蒸留したほうが良い試薬
- アルキルリチウム、アルキルアルミニウム、グリニャール試薬を利用する反応
- 吸湿性の高い強塩基(t-BuOK)、NaHなどを利用する反応
- 金属水素化物を利用する反応(LiAlH4、DIBAL等)
- 有機金属錯体(パラジウム、ニッケル、ルテニウム錯体など)
などがあります。多くの試薬は水と激しく反応して煙や火がでたりうする試薬です。不安定で乾燥室あるいは冷蔵、冷凍庫中で保存する試薬が多いです。
脱水剤(モレキュラーシーブ等)で乾燥した溶媒を使用したほうが良い試薬
- 酸塩化物や酸無水物を合成する反応あるいは使用する反応
- αハロカルボニルの合成、反応
- ベンジルハライドの合成、反応
- フリーデルクラフツ反応(AlCl3やBBr3などルイス酸を利用する反応)
- アルキルハライドを使用した求核置換反応(ウィリアムソンエーテル合成等)
- アルキルスルホナートの合成(メシル、トシル、トリフラート)
- NaBH3等を使った還元反応
- PDCやPCC、スワーン酸化など
- エステル化等の脱水縮合
- アセタールの合成
基本的に吸湿性の高い化合物や水の存在によって逆反応が起こるような反応では脱水剤を加えた溶媒を使用します。吸湿分解する化合物は脱水溶媒使用します。
脱水溶媒を使用しなくても良い条件等
反応によっては脱水溶媒が不要な例があります。例えばエステルの加水分解反応など水を加える反応(水を直接加えなくても、2M HClや1M NaOHなど水溶液や水和物を加える反応も含む)では脱水溶媒は不要です。カラムや再結晶でも脱水溶媒は通常不要です。しかし、加水分解する恐れがあるものに関しては脱水溶媒を使用したほうが良いです。接触還元、ボーチ還元(還元的アミノ化)なども不要です。しかし、水が思わぬ形で反応の邪魔をすることもあるので、水がふんだんに入った溶媒は使用しないほうがよいです(水を加える反応を除く)。そういった溶媒は古くなっていて不純物が混じっている可能性があります。
溶媒別の脱水溶媒の作り方
脱水アセトンの製法
アセトンは反応溶媒としてはそこまで利用することは無いかもしれませんが、身近な有機溶媒の一つです。不純物として水を吸いやすいのできちんと脱水する必要があります。市販品では水以外の不純物が含まれていることは無いので、脱水用とでは蒸留は不要です。硫酸カルシウムなどで予備脱水後に、MS4Aを加えて一晩置いて脱水します。脱水剤として、五酸化二リン、塩化カルシウム、アルミナは適しません。
脱水アセトニトリルの製法
アセトニトリルは非プロトン性の極性溶媒の中でも沸点低いので使い勝手がよく、求核置換反応などに利用されます。不純物として分解するとアクリロニトリルや酢酸、アンモニアを含むことがあるので蒸留したほうが良いです。MS4Aで脱水したあと、CaH2で加熱還流、蒸留します。
脱水ベンゼン・トルエンの製法
ベンゼンは毒性がありますが、芳香族化合物をよく溶解し、さらに水と共沸しやすく水と混和しないためにディーン・スターク装置を使った脱水反応にもよく利用されます。ベンゼンは極性の割に水を吸湿しやすいので注意が必要します。不純物として硫黄やチオフェンを含むことがあります。ベンゼンはNa-ベンゾフェノン系、CaH2を用いた蒸留が有用です。
トルエンはベンゼンよりも沸点が高いですが、毒性が低いのでベンゼンの代替溶媒として有用です。脱水方法は同じです。
脱水n-ブタノールの製法
n-ブタノールはアルコール溶媒ですが、水とは混和せずに分離するので極性が高い化合物の抽出等に有用です。プロトン性の溶媒なので反応溶媒としては使用場面が限られるかもしれません。水を吸湿しやすいので予備脱水として単体マグネシウムを使用し、ろ過後CaH2で蒸留します。
脱水クロロホルムの製法
クロロホルムには安定剤としてエタノールが含まれています。反応に利用する場合はエタノールが邪魔になることがあるので除去します。溶媒の半量の水で分液した後、塩化カルシウム、炭酸カリウム、水素化カリウムのいずれかで予備乾燥した後、CaH2で蒸留します。
脱水ジクロロメタンも同様の方法で作れます。エタノールは含まれないので水で分液する必要はありません。
脱水ジエチルエーテルの製法
ジエチルエーテルはグリニャール試薬の調製などに利用される溶媒です。沸点が低いのが特徴です。不純物としてアセトン、アルデヒド、エタノールが含まれ、また吸湿しやすく水が結構含まれていることがあります。また過酸化物の生成を抑えるために安定剤としてBHTが含まれている場合があります。
過酸化物の有無は10%KI水溶液で分液して着色するかで確かめられます。デンプン液を一滴加えると着色がわかりやすくなります。
過酸化物がある場合はアルミナカラムを通し、それ以外は硫酸ナトリウムか塩化カルシウムで予備乾燥後、Na/ベンゾフェノン系かCaH2で蒸留します。
脱水ジメトキシエタン(DME)の製法
DMEは極性が比較的高めの溶媒として有用です。エーテル系なので、ジエチルエーテルと同様に過酸化物が含まれている場合があるので注意します。過酸化物がない場合は、Na/ベンゾフェノン系かCaH2で蒸留します。
脱水DMFの製法
DMFは非プロトン性極性溶媒として汎用される溶媒です。分解するとアミン臭がきつくなります。吸湿しやすいのでKOHで予備乾燥後、CaH2で減圧蒸留(最高100℃まで)して得ます。
脱水DMSOの製法
DMSOは溶解力の強い極性溶媒として有用です。不純物としてスルフィドを含みます。CaH2で予備脱水後、MS5A中で保存します。蒸留が必要な場合は分解するので100℃を超えないように減圧蒸留します。
脱水ジオキサンの製法
ジオキサンは極性が低いですが溶解力が高く、水と混和する溶媒として有用ですが、毒性があります。過酸化物を作るので注意します。大変吸湿しやすいため、アルミナカラムを通した後にKOH中で一晩予備脱水し、Na/ベンゾフェノン系で蒸留します。
脱水エタノール・メタノールの製法
エタノールはマグネシウムで脱水して蒸留します。メタノールも同様に脱水できます。溶媒質量の5%ほどのマグネシウムを使用します。蒸留後はMS中に保存しましょう。脱水剤として金属ナトリウムは適していません。反応してアルコキシドを生成します。
脱水酢酸エチルの製法
酢酸エチルはMS4Aで脱水あるいはCaH2で蒸留して脱水します。
脱水ヘキサンの製法
ヘキサンはNa/ベンゾフェノン系や塩化カルシウムで脱水します。ナトリウムを使ったほうが脱水度合いが高いです。
脱水ピリジンの製法
ピリジンは分解によってアミンが不純物として含まれている場合があります。KOHで予備脱水後に、ナトリウム下で蒸留します。
脱水トリエチルアミンの製法
アルキルアミン類は金属ナトリウム下で乾燥、蒸留して脱水溶媒を得ます。
脱水ジオール・トリオール類の製法
エチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコールは大変吸湿しやすく、沸点が高く、粘性も大きいため脱水が困難です。硫酸ナトリウム下で乾燥後、MSで脱水させます。脱水させるには通常の溶媒よりも長い時間放置する必要があるでしょう。