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Pd/Cによる接触還元のやり方 | 反応条件と特徴

Pd/Cによる接触還元はよく利用される触媒でアルキン、アルケン、ニトロ基、シアノ基などを還元できる不均一系触媒です。還元に使われるパラジウム触媒の中でも優れた還元力をもっています。最近はPd/Cを使った鈴木宮浦カップリング反応などクロスカップリング反応の触媒にも利用されています。比較的安価でろ過によって簡単に分けられる点も魅力です。今回はPd/Cの多岐に渡る利用例のうち還元に的を絞って紹介していきます。

Pd/Cとは?

Pd/Cはパラジウムを活性炭に担持させた触媒で、水素雰囲気下で溶媒中激しく撹拌することによって水素還元することができます。パラジウムは担持させる担体の種類によって活性が変化します。担体としての炭素は多孔質ではないものの粒子径が小さいため結果、表面積が大きくなり、触媒効率が向上します。炭素は触媒毒とはならないので、活性が高く空気中で発火することもあります。Pdの含有比率によって5%と10%Pd/Cなどがあります。一般的にはPd比率が高いPd/Cの方が高活性です。

Pd/Cは自前で作るよりも購入した方が楽です。反応系中で塩化パラジウムあるいは酢酸パラジウムと活性炭を加えることによってPd/Cを作り出す方法も活性が高くおすすめです。


Pd/Cによる還元反応条件

Pd/Cによる還元は白金系触媒よりも穏やかなことが多いですが、多くの官能基を還元し、アルキンの部分還元などは通常できません。還元できる官能基としては

  • アルキン、アルケン、アジド、ニトロ、不飽和カルボニル、ベンジルエーテルcbz基、アルデヒド、イミン、ケトン、芳香環

の還元が可能です。

Pd/Cを加える量としては試料の重さの1~5%程度です。触媒の活性によって使用量は増減します。一般に触媒の量を増やすほど反応は進行しやすくなりますが、活性炭なので入れすぎると吸着する恐れがあるので注意します。Pd/C以外の多くの触媒は基質重量の3%~10%程度加えることが多いです。Pd/Cでも反応が進行しにくいときはパールマン触媒(水酸化パラジウム)を利用すると反応が進行することがあります。

接触還元の簡易的なやり方

接触還元は少し特殊な操作が必要です。接触還元には水素ガスで置換する必要があります。圧力を掛ける場合は専用の装置が必要となります。芳香族の水素化など以外は常圧でも十分に還元することが可能なので、今回は常圧での水素還元方法を解説します。
簡易的な方法で接触還元する場合は、水素ガスは二重にした風船やガス採集袋などに入れます。水素吸着量などを見たい場合はガスビュレット、Paarの接触還元装置を使う必要があります。

二重風船は、風船の中に風船を入れて作った風船です。風船を重ねるのは、水素は分子量が小さく風船から出ていくのを防ぐためとか、多少の圧力をかけるためとか言われています。また外側の風船が割れてしまっても、もう一つ風船があるという安心感も得られるかもしれません。

反応容器はかき混ぜやすい大きさで、ナスフラスコの場合は少し大きめのサイズを選択したほうが良いです。スリ付きの三角フラスコもおすすめです。
撹拌子は激しく撹拌するので強力なものを使います。三角フラスコを使う場合は曲面に撹拌子が当たると割れやすいので注意します。
Pd/Cは反応容器を不活性ガスに置換してから加えます。活性が高い触媒は空気中で発火する恐れがあるからです。すべて入れ終えたら次は水素置換します。
水素が入った二重風船は三方コックに接続します。三方コックのスリ部分は反応容器に接続します。三方コックから反応容器内の気体を抜き、水素を入れます(水素置換)。この時Pd/Cが入っていると突沸しやすいので注意します。水流アスピレーターなど弱めの吸引で置換します。

水素置換が完了したら、激しく撹拌して還元反応を行います。


Pd/Cを使った反応例

Pd/Cは複数の還元される官能基を含む場合の選択的還元は難しいです。アルケンを芳香族ニトロ基や芳香族ハロゲン等が含まれている中還元しようとしてもニトロが還元されてしまうなどといったことが起きます。

Pd/Cは水素源としてギ酸アンモニウムを加える場合があります。また酸の添加(HClや酢酸)で還元反応が進行しやすくなります。

溶媒としては、メタノールやエタノールが最もよく利用され、ついで、酢酸エチルやTHF、ジクロロメタン、DMFが使われます。

アルケンとニトロ基の還元

以下の例のようにアルケンを還元しようとしてもニトロ基も還元されてしまいます。

パラジウム炭素の還元例1

基質(22.3g、92.8 mmol)と10% Pd/C(753mg)を121mLの酢酸エチル:エタノールの1:1に加えて、水素置換下室温で16時間撹拌した。触媒をろ過、酢酸エチルで洗浄してろ液を濃縮して目的物をそしてろ液を回転蒸発器上で濃縮した。これにより粗生成物を得た(21g、90%)。patent WO 2015121230

ベンジル基の脱保護とイミンの還元

Pd/Cをつかったベンジル基の脱保護は良く利用されます。また、還元的アミノ化(イミンの還元)もNaBH3CNといったヒドリド還元の代わりにPd/Cを使用することもあります。以下の例では、ベンジル基の脱保護に加えて、イミンの還元も同時に進行しています。

Pd_Cの還元例2

Rostami, Mahboubeh et al Medicinal Chemistry Research, 24(12), 4113-4127, 2015

アルキンの還元

アルキンの還元は通常アルカンまで還元されます。アルケンで止めたい場合はリンドラー触媒などを利用します。

Pd_Cの還元例3
原料(0.5g,1.4mmol)と10%Pd(100 mg)を酢酸エチル(10mL)に加えて、水素置換下で14時間激しく撹拌した。セライトろ過し、ろ液を濃縮して目的物(0.450g,94%)を得た(Jat, Jawahar L. et al Organic Letters, 17(4), 1058-1061, 2015)

脱ハロゲン水素化

Pd_Cの還元例4

Pd/Cではアリールハライドなどは還元的に水素化されてしまいます。ピロール、チオフェン、ピリジンの2位の塩素、臭素などは水素置換されます。

ケトンの還元

ケトンを還元してアルコールあるいはメチレンにする反応もPd/Cでやられます。基質や条件によってアルコール、メチレンに還元されるか決まります。

Pd_Cの還元例5

メタノール(20mL)中に原料(10.0mmol)、Pd / C(20%、200mg)を加えて水素雰囲気下、室温で16時間撹拌した。ろ過、溶媒を留去後にカラム精製を行い目的物を96%の収率で得た( Cheng, Ying et al Organic Letters, 16(7), 2000-2002, 2014)。この反応では臭素が還元されないようですねなぜでしょうか?

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