アルデヒドやケトンの還元によってアルコールを得る方法は合成が簡単であるため有用な方法です。
これらの官能基は容易に還元できるので、他の官能基への影響を考えて還元方法を選択するのが基本です。
還元方法としては水素化ホウ素ナトリウムなどのヒドリド還元やパラジウム炭素を用いた接触還元があります。
アルデヒド・ケトンの還元でアルコールを合成!
アルコールを導入したい場合はアルコールを出発原料とすることが多いかもしれません。なぜなら原料ソースとしてアルコールは豊富・安価であり、優秀な保護基も多いからです。そのままでもアミンやカルボン酸と比べて扱いやすいのもポイントです。
したがって、アルコール導入法としてアルデヒドやケトンを経由してアルコールを導入するという経路を選択する時は意外と少ないかもしれません(むしろアルコールからアルデヒドを得ることは多い)。
アルデヒド・ケトンは容易に還元されるため既存の多くの還元方法でアルコールを得ることが可能です。
したがって、還元方法の選択はアルデヒド・ケトンを還元できるか?よりも他の既存の官能基を侵さずに選択的にアルデヒド・ケトンを還元できるか?という基準で選択することになると思います。
還元方法一覧
アルデヒドやケトンを還元する方法は
- ヒドリド還元 (NaBH4、DIBAL、LiAlH4 …)
- 金属還元 (Na, Zn, Fe, Sn, Ni…)
- 接触還元 (Pd/C, Pt/C)
- シラン還元
- トリブチルスズ還元
- MPV還元
- カニッツァーロ反応
などがあります。
LiAlH4などの還元剤は強力なので、高収率ですが、エステルやニトリルの還元などの副反応が起こる恐れがあります。
弱い還元条件ではアルデヒド・ケトン選択的に還元できますが、基質によっては収率が低くなる可能性があります。
ヒドリド還元
ヒドリド還元剤には主に水素化ホウ素試薬、水素化アルミニウム試薬の2つがあります。
ヒドリド還元剤の中でファーストチョイスなのは水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)です。
安全性、反応性、コスト、安定性、官能基選択性、簡便性などが高く有用です。
水素化ホウ素ナトリウム (NaBH4) ケトン、アルデヒドの還元
αβ不飽和カルボニルのカルボニルだけ還元したい、もしくは、アルデヒド存在下、ケトンのみを還元したい場合はルーシェ還元がおすすめです。ルーシェ還元は塩化セリウムを加える反応でケトン選択的還元ができます。
ルーシェ還元-αβ不飽和カルボニルの1,2還元でアリルアルコール合成
LiAlH4, Red-Al, DIBAL, LiAl(O-t-Bu)3H, LiBH4,などの還元剤が利用できますが、これらはエステル、ニトリル、アミド、ニトロなどを還元する試薬もあるので、これらを同時に還元したい場合もしくはこれらを含まない場合には選択します。反応性も高いのでNaBH4で満足いく収率が得られない場合も試す価値はあります。
不飽和カルボニルの1,2-還元選択性はルーシェ還元が最強かな?とおもいますが、DIBALやLiAL(OtBu)3Hなども1,2-還元の選択性が高いことが知られています。
また、添加物を加えて還元することで立体選択的還元、官能基選択的な還元が可能となる条件がたくさんあります。LiAlH4+AlCl3は環状ケトン選択的還元が可能です。なので自分の基質にあった条件を探してみましょう。
シラン還元
シラン還元はケイ素の水素化物を用いた還元で、カルボニル基をアルコールもしくはメチレンまで還元するのに利用されます。
アルコール合成ではNaBH4のほうが勝っていると思います。強酸性条件が必要なのも欠点です。
シラン還元の利点はヒドロシリル化により、カルボニルをシリルエーテル保護されたアルコールに変換可能な点です。
アルコールはそのままでは反応性が高いため保護基で保護することが多いですが、シラン還元によってヒドロシリル化することによりTES基などで保護したアルコールが得られます。アルコールを得たい場合は酸やフッ化物イオンで脱保護すればOKです。ポリオールで生成が大変なときも便利かもしれません。
触媒としてはウィルキンソン触媒を使うことが多いです。
トリブチルスズによる還元
トリブチルスズはラジカルまたはイオン機構でも反応が進行するユニークな試薬です。
有毒なトリブチルスズ試薬はカルボニル還元を行うための試薬としてはあまり選択されにくいですが、エステルなどとは反応せず、選択性は意外と高いです。
接触還元法
接触還元法として最も汎用されているのはPd/Cです。活性が高くニトロ基やハロゲン、アルケン、ベンジルエーテルなどを還元してしまいますが、カルボニル基への反応性はあまり高くないと祝えれており還元的アミノ化などにも利用されますが、ベンゾフェノンなどのケトンをメチレンまで還元することもできます。
後処理が濾過だけというのが魅力ですが、カルボニルの還元という面では別の方法の方がよいかもしれません。ベンジル位のケトン・アルデヒドは還元しやすく、トリエチルアミンなどの塩基を加えてやると副反応が抑えられるようです。
ウィルキンソン触媒(均一系触媒)
ウィルキンソン触媒も均一系の触媒としてよく利用されており、ケトン存在下アルデヒドの選択的な還元にも向いています。
ウィルキンソン触媒(wilkinson触媒) アルケン アルキンの還元
空気で失活していくので保管に気を使う必要があります。
炭素多重結合は還元されてしまいます。あまり選択するメリットはないかもしれません。
MPV還元
アルミニウムアルコキシドを使った還元方法は酸を添加しますが比較的マイルドなため有用な反応です。
Meerwein-Pondorf-Varley還元 MPV還元によるカルボニルの還元
有用な反応ですが、溶媒が限定され、反応時間が長めであることから水素化ホウ素ナトリウムのほうが良いでしょう。
酵素を使った還元
アルコールデヒドロゲナーゼなどを用いることによりキラルアルコールを合成することが可能です。光学分割の方法として、酵素を使った反応は強力な方法の一つです。酵素の選択は基質の特徴を元に選択します。
まとめ
ケトン・アルデヒドの還元方法としてはNaBH4を選択するのが良いかなとおもいます。たくさんの還元法を取り上げましたが、特に理由がない限りはヒドリド還元が良いのかな?という気がします。
他の官能基も還元したいとかがあればもう少し強い還元剤を利用します。また、立体選択性についてはほとんど言及していませんが、ケトンの還元においては立体選択性が重要になってきます。立体選択性は基質によっても結構変わるのでここでは述べていませんが、多くは立体障害やキレーションの選択性によって制御します。そのため、還元剤のかさ高さや添加物による制御を行います。このあたりは別の記事などで紹介していきたいと思います。