グリニャール反応について
グリニャール試薬は1900年にVictor Grignardによって発見された有機金属試薬です。
アルキルハライド(R-X)とマグネシウムをエーテル中で反応させると得られます。
グリニャール反応とは?
グリニャール試薬の本質は炭素求核剤 [RΘ, 電子豊富な炭素]です。
マイナスを帯びた電子豊富なRΘは電子不足な部位に攻撃して結合を作ります。
電子不足な分子としてはケトンやハロゲン化アルキル、ニトリルなどがあります。
このようにグリニャール試薬(R-MgX)を付加させる反応をグリニャール反応と呼びます。
反応相手がカルボニルだった場合はアルコールが生成します。
グリニャール試薬+ケトン=第三級アルコール
グリニャール試薬+アルデヒド=第二級アルコール
グリニャール試薬の炭素がアニオンになっているのは金属であるマグネシウムと結合しているからです。
グリニャール試薬のアルキル部は電気陽性な金属マグネシウムと結合しているため電子豊富で負に分極しています
グリニャール反応の例
グリニャール試薬はカルボニル化合物と反応させてアルコールを合成するのに使用することが多いです。
アルデヒド・ケトンに有機金属化合物への付加反応でアルコール合成それ以外にもαβ不飽和カルボニルに対してはセリウム塩を加えると1,2-付加が優先し、銅塩を加えると1,4-付加が進行します。これはHSAB則に従っています。ワインレブアミドとの反応ではケトン合成、二酸化炭素との反応でカルボン酸が合成できます。
アルキルリチウム・グリニャール試薬に二酸化炭素を導入しカルボン酸その他の求電子剤との反応にも用いられます。ベンジル、アリールハライドとの反応、エポキシ、酸素、ニトリル、ジスルフィドとの反応例があります。
このように炭素求核剤としてグリニャール試薬は広く使われています。他にも同じような使い方ができる有機金属試薬として①有機リチウム試薬②有機亜鉛試薬(Rieke試薬)③有機銅試薬(ギルマン試薬等)④有機アルミニウム試薬などがありますが、反応例の多さ、取り扱いや調製の容易さ、市販品の入手性の高さなどからグリニャール試薬がよく使われています。
他の有機金属試薬にもそれぞれ特徴的な性質(選択性等)があるので使い分けが重要!
ターボグリニャール
近年は基質選択性に優れたターボグリニャール試薬が開発されました。ターボグリニャールは塩化リチウム(LiCl)を用いて調整します。
官能基としてエステルやニトリル、メトキシ、ハロゲンなどを含むグリニャール試薬を調製することができます。
反応機構
グリニャール試薬は発見以来100年以上たっていますが、反応機構についてはまだ不明な点があります。グリニャール試薬はマグネシウムからのSET機構で進行していると考えられています。
基質の電子親和性が小さい場合、環状遷移状態を経由して協奏機構で反応します。一方で立体的に大きな基質や弱い炭素-マグネシウム結合をもつ立体的に嵩高いグリニャール試薬の場合は、グリニャール反応剤から基質へ電子移動が起こり、ラジカル機構で進行します。
実験手順
有機金属試薬の中でもグリニャール試薬は基本です。
有機合成でも広く使われる重要な試薬のため学生実習の題材になることも多いです。
グリニャール試薬の調整に必要な材料は主に以下の3つです。
- 炭素原料:ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリール、ハロゲン化ビニル
- 溶媒: 非プロトン性極性溶媒 (エーテル、第三級アミン)
- マグネシウム
グリニャール試薬の調製方法
グリニャール試薬の調製は操作は難しくありませんが、適当にやると失敗します。
- フラスコなど使用する器具を乾燥させておく、溶媒も脱水溶媒を作る・購入する。フラスコは三口フラスコなどが便利(温度計、還流管、試薬投入口)
- 反応性を上げるためにマグネシウム(リボンや削り節)の酸化被膜を取る操作をする。物理的に削る。ヨウ素、ジブロモエタン、ジヨードエタンなどを加える、加熱するなど
- マグネシウムが入ったフラスコに無水溶媒(エーテル等)を加える。
- 有機ハロゲン化合物を滴下して加える。最初は全量の1/3程度を目安に入れる。入れすぎると反応熱により一気に反応が進行するので注意する。反応が進行しない場合はガラス棒でマグネシウムをこすりつけるとよい。反応を開始するために40℃くらいに加熱をする(エーテルなら還流)。THFの場合は過熱に注意
- ある程度反応が始まってきたら残りの有機ハロゲン化合物を滴下して加え、滴下終了後加熱を10分程度続けて反応させる。
- 完成
失敗するときは?
- 水の混入がある 溶媒や器具はきっちり乾燥できてるか?
- 有機ハロゲン化合物が純粋か?
- マグネシウムはしっかりと活性化できているか?
- 有機ハロゲン化合物の滴下スピードが速すぎないか?突沸して一気に反応してないか?
- 不活性雰囲気下でやっているか?(必ずしも必要ではない)
- マグネシウム活性化剤を加えすぎていないか?(割とガラス棒でつついてだけでも進行する)
- 濃度が濃すぎないか?(論文を参照)
- ベンジル・アリルハライドは不安定で二量化しやすいので、濃度を低くする、温度を下げる、滴下濃度を低くする、滴下スピードを落とす、激しく攪拌するなどの対策を行う。
不安定なGrinard試薬(ベンジル・アリル)はバルビエ反応を使用するとよい場合がある。バルビエ反応は反応させたいカルボニル化合物と有機ハロゲン化合物存在下でワンポットで合成させる方法です。
参考記事のタイトルとURLを入力してください” target=”_blank” rel=”nofollow”]グリニャール試薬の調製方法の動画バージョンです
グリニャール試薬では滴下スピードが速すぎると突沸して一気に反応が進んで失敗してしまいます。
グリニャール試薬の滴定
Grinard試薬を調製後の濃度を知りたい場合や保存していた市販品のグリニャール試薬が生きているか確かめる方法として「滴定」があります。
便利な滴定法として、1,10-フェナントロリンがマグネシウムと錯体を形成したときに紫色に着色する反応を利用して滴定します。1,10フェナントロリンに測量した無水メタノールとエーテル溶媒(THFなど)をつくりそこにグリニャール試薬を加えて滴定します。この色はGrignard試薬と1,10-フェナントロリンとの電荷移動錯体によるものです。メタノール以外のアルコールを用いても良いです。
溶液に紫あるいは赤紫色が1分以上残ったところが滴定終点なので、それに要したGrignard試薬の容量を測定します。
梅野正行, and 浜田三夫. “Grignard 反応の応用.” 有機合成化学協会誌 38.12 (1980): 1196-1209.