アミドの縮合剤にはたくさんの種類があります。
ペプチド合成などでは大量につかうこともあるので価格が気になるポイントの一つです。
ちょっと別の縮合剤を試してみようと思っても高価だったら購入しにくいものです。
この記事では各種縮合剤の価格をランキングしてみました。
EDCやCDIなどたくさんある縮合剤の選択の基準は?
ただアミド・ペプチドを作るだけなのに縮合剤にはEDC、CDI、HATU、HBTU…たくさんあります。
たくさんの試薬があるということは、それぞれの試薬には満足できないポイント・改善点があるということです。
こんなにたくさんの縮合剤がある理由の一つはペプチド合成に使われことが理由の一つです。
「ラセミ化問題」はたくさんの縮合剤が生まれる原因の一つです。
逆に言えば、ペプチド合成でなければ選択肢はもっとシンプルになるかもしれません。
有機合成において試薬に求められる特徴は「高収率」「スピード」「選択性」「コスト」などがあります。
今回はコストの面で縮合剤を見ていきます。
それぞれの縮合剤の特徴は下記の記事を参考にしてください。
アミドの合成方法まとめ!ペプチド結合は安定性の高いアミド結合!
最も安価な縮合剤ランキング (最小容量)
東京化成工業で販売されている縮合剤のうち最小容量の値段に注目してランキングしてみました。
今回比較した縮合剤は
- DCC
- EDC
- EDC・HCl
- CDI
- DMT-MM
- DEPC
- T3P
- SOCl2
- Oxalyl chloride
- HBTU
- HATU
- pyBOP
- COMU
です。
5g当たりの値段
TCIでの最小容量が5gなので5g当たりの値段を調べました。
5g販売されていないものはその次に小さい容量での値段を載せています。mLで販売されているものに関しては比重から重さを導き出しています。
試薬 | 価格(円) |
---|---|
DMT-MM | 7700 |
HATU | 8800 |
DEPC | 6000 |
EDCI | 5900 |
EDCI・HCl | 5300 |
COMU | 5200 |
pyBOP | 4200 |
CDI | 2700 |
HBTU | 2600 |
DCC | 1800 |
SOCl2 | 820g 3100 |
T3P in EtOAc | 25g 18500 |
Oxalyl Cl | 25g 4100 |
この時点では、DCCとCDIの安さが際立っています。縮合剤というのは邪道ですが、酸クロライドを合成する試薬である塩化チオニル(SOCl2)と比較して高価といわれる塩化オキサリルも圧倒的に安価です。
モル当たりの値段
化学では重さは分子量が大きくなるほど重くなるので、あてにはなりません。
重要なのはモル数です。
ということで分子量からモル当たりの値段を算出しました。T3Pは溶液で販売されているので濃度から重さを算出し、モル数を出しています。
試薬名 | モルあたりの値段(円) |
---|---|
DMT-MM | 426149 |
EDCI・HCl | 203202 |
EDCI | 183195 |
DCC | 74279 |
CDI | 87561 |
SOCl2 | 450 |
Oxalyl Cl | 20815 |
HATU | 669222 |
HBTU | 197210 |
COMU | 445401 |
DEPC | 195732 |
pyBOP | 437136 |
T3P in EtOAc | 470906 |
モルにしても大きくは変わらないようですね
数字ではわかりにくいのでグラフにしてみます。
値段が安い順番に並べてグラフ!
モル当たりの値段が安価なもの順に並べてグラフにしてみました。
モル当たりの値段ではトップは
- 塩化チオニル
- 塩化オキサリル
- DCC
- CDI
- EDCI
- EDPC
- HBTU
- EDC・HCl
- DMT-MM
- pyBOP
- COMU
- T3P
- HATU
という順になりました。
酸塩化物は優秀なアミド合成の重要な原料候補
値段順に並べてみると酸塩化物合成試薬の塩化チオニルと塩化オキサリルは優良な候補の一つであることが良くわかります。
塩化オキサリルは酸塩化物合成試薬としては高価だといわれていますが、他の縮合剤と比べたら圧倒的に安価です。
この酸塩化物はカルボン酸から簡単に誘導できます。
酸塩化物 (酸クロライド)の合成と反応 カルボン酸→酸塩化物
特に塩化チオニルはマイルドで多くのカルボン酸を70℃くらいに温めるだけで酸塩化物にできて副生成物もガスなので後処理は簡単です。それでいて反応性が高く、酸塩化物でアミド化できないものは他の縮合剤を使っても困難なことが多いです。
二段階になるのは面倒かもしれませんが、実際にやってみるとそこまで手間ではないです。たまに酸塩化物合成の過程で原料が壊れることがあります。そしてペプチド合成ではラセミ化が起こるのでそのままではつかいません。
DCCとCDIは縮合剤では最も安価
DCCは安価であり、反応性も十分であるためいまだに使われていますが、重大な欠点として難溶な副生成物ができてラセミ化するのでペプチド合成、特に固相法では使えません。一方で通常のアミド合成ではあまり問題にならないですが、ウレアが取り除きにくい場合もあります。
その点でCDIは工業的スケールでも使われるくらい安価であり、イミダゾールと二酸化炭素が副生成物であるため後処理は容易です。ラセミ化も工夫でかなり減らせます。
通常のアミド合成ではDCC/DMAPやDCC/HOBtは選択肢の一つです。研究室レベルでもCDIは使いやすくコスパの良いアミド合成試薬です。
DCCやEDCによるアミド・ペプチド合成 – カルボジイミド系縮合剤
実用性では通常のアミドはEDC、ペプチドはHBTU、DEPCも有力?
EDCはDCCの水溶性バージョンで副生成物を分液で除去可能という点で研究室レベルでは使いやすく、さらに利用例も多く、信頼性も高く、反応性もDMAPやHOBtを添加することで高収率でアミドを得ることができます。
ペプチド合成ではHBTUがコスパが高いです。HBTUはベンゾトリアゾール系の縮合剤でラセミ化が少ない優秀な縮合剤です。このランキングには登場していませんが、DCCと同じくカルボジイミド系の縮合剤のDICの次に安価な縮合剤です。
DEPCは縮合剤の中ではマイナーな部類かもしれませんが優秀な縮合剤です。EDCと同様に副生成物は水洗除去可能でラセミ化もしにくくペプチド合成に利用可能です。試薬が液体で好みによって使いやすくもにくくもあると思います。
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高価格帯はそれぞれの利点があるも王者HATUはオワコン?
DMT-MMはアルコール溶媒中でも利用でき、pyBOPはウロニウム系縮合剤で起きるアミンのグアニジノ化が起こりにくく反応性も高い縮合剤で、T3Pは後処理容易で立体障害に強く他の試薬で難しい基質に有効です。
HATUは最も強力な縮合剤として知られていますが、高価であることが欠点でした。COMUは新しい縮合剤でHATUと同等の収率を持ちつつHATUよりも安価です。そのため、HATUを利用する利点は少ないかもしれません。HATUのほうが利用例が多いので信頼性の面ではリードしているかもしれません。
結論:コスパ最強は酸クロ系、縮合剤ではDCC&CDI
単純アミド合成では圧倒的に安価で反応性も高い酸塩化物合成試薬の塩化チオニルがコスパ最強でした。
一段階の縮合剤としては、やはりDCCが最も安価ですが、実用面でも優秀なCDIは有力ということがわかりました。
機能性を求めるならEDC、HBTU、DEPCでしょうか。
好みもあるので、コスパと基質の構造などと相談ですね。