アデニンはアデノシン三リン酸 (ATP)の基本構造の一つで、窒素を含む複素環です。アデニンはATPを始めとして様々な生体物質の構造中に含まれる重要な分子です。
アミノキナゾリン骨格はアデニンの生物学的等価体
アデニンは窒素をたくさん含む複素環です。リボース環と一緒になったアデノシンの形(ヌクレオシド)で存在していることが多いです。
アデノシンはそれ自体でアデノシン受容体という受容体に結合して血管の拡張、血小板凝集の抑制、脳の興奮性シグナルを抑制的に制御しています。
こめやん
アデノシンにリン酸が結合したものにはアデノシン三リン酸やサイクリックAMPがあります。これらも生体内のエネルギー源やセカンドメッセンジャーとして働く重要な分子です。
アミノキナゾリン
こめやん
医薬品としてはアデニンは窒素が多すぎて取り扱いを含めてあまり好ましくありません。
adeno
こめやん
adeno
アミノキナゾリンはアデニンの生物学的等価体として利用されています。イレッサは上皮成長因子受容体 (Epidermal Growth Factor Receptor ; EGFR)が標的の分子です。このEGFRは受容体型チロシンキナーゼの一つで、タンパク質にあるアミノ酸のチロシンをリン酸化します。
リン酸化はアデノシン三リン酸を補酵素として利用してリン酸基をチロシンに移動させます。
つまり、EGFRにはアデニンを含むATPが結合します。
このATPを模倣したアミノキナゾリン構造を含む分子、イレッサはATPの代わりにEGFRに結合してATPが結合するのを阻害します。
EGFRは細胞膜上に存在しEGFが結合すると活性化して細胞の分化・増殖を促進させます。EGFRの活性化や過剰発現が発がんや転移、増殖の原因になるとみられています。抗EGFR剤はイレッサのような低分子薬やセツキシマブなどの抗体医薬などが抗がん剤として利用されています。
トリアジン誘導体
アデニンの代替構造としてリボースと結合するアデニンのN9位を炭素としたトリアジン誘導体としてピラゾロトリアジンやイミダゾトリアジンが利用されます。
アデニンのRが結合している部位は外れやすく、代謝に不安定です。薬物動態・バイオアベイラビリティを最適化するためにアデニン骨格を変更するのはよく利用される戦略の一つです。アデニンをそのまま利用しないことで特許問題の回避を狙う場合もあります。
トリアジン誘導体はアデニンの性質をよく模倣していて生物学的等価体として優秀です。アデニンだけでなくプリンの等価体としても利用できます。
他にもたくさんのトリアジン誘導体がプリン骨格の代替構造として利用されています。
プリン骨格(中心)の代替構造としてトリアジン誘導体はよく利用されています。抗生物質やキナーゼ阻害剤、抗がん剤など様々な応用先があります。
Lim, Felicia Phei Lin, and Anton V. Dolzhenko, Eur. J. Med. Chem. 85 (2014): 371-390. グラフィカルアブストラクトから引用