複素環って何?
複素環とは複素環式化合物の略でヘテロ環(ヘテロ環式化合物)とも呼びます。
ヘテロ原子とは炭素、水素以外の原子のことを指しますから、窒素や硫黄、酸素などが当てはまります。これらの元素が環を作っている環状化合物を複素環と呼びます。
わざわざ複素環という区分けをする理由は、複素環の性質がベンゼンなどの炭化水素環と比べて性質が大きく異なるからでしょう。
複素環化学討論会などの学会もあります。複雑な化合物を見たときに、複素環の構造や性質が頭に入っていると理解しやすくなるので馴れないうちはどんな名称、構造、性質かを知っておくと役立ちます。
芳香族性を示すヘテロ環の一覧
ヘテロ環といってもその組み合わせは膨大で、とにかくたくさんあります。このなかでも目にしやすいヘテロ環から紹介していくことにします。
6員環
ピリジン
ヘテロ環といえば?ピリジンが最も有名でよく使用し、印象に残りやすい化合物であると思います。特徴はちょうどよい塩基性と求核性と高い溶解力と強烈な臭いですね!有機合成をしたことがあれば一度は使用した事があるのではないでしょうか?あの強烈な臭いは一度嗅いだら忘れられません。極性の高い化合物をよく溶かすことから溶媒として利用することも多いです。アルコールのアセチル化など求核アシル置換反応で触媒としても利用されます。触媒としての用途では4-DMAP(4-ジメチルアミノピリジン)がよく利用されています。
ピリジンの塩基性や沸点から天然物・生合成や有機合成まで5員環
ピロール
ピロールはよく塩基性の問題で登場するため、認知度が高いヘテロ環の一つです。上のピリジンと並んで出てくることが多いかもしれません。ピロールの電子は環に流れて芳香族化するのに利用されるため、塩基性が弱くなるということです。ピロールは有機合成で利用したことがある人は意外と少ないのではないでしょうか?導電性ポリマーとして利用されたり、大環状のポルフィリンなど高分子、超分子分野でも利用されています。ピリジンと比べて不安定
イミダゾール
イミダゾールは水によく溶ける複素環アミンで有機合成では塩基触媒としてよく利用されます。イミダゾールが求核攻撃してできた中間体は容易に脱離するため、良い脱離基として利用価値が高いです。
シリルクロライドを使ってシリルエーテルを合成するときには、イミダゾールを加えて反応させる方法が一般的に行われます。
イソオキサゾール
イソオキサゾールは五員環中に窒素と酸素を持つヘテロ環です。イソキサゾールを持つ天然物にはテングタケに含まれるアルカロイドのイボテン酸があります。医薬品構造としても重要です。
イソオキサゾール環の合成・医薬品構造としての有用性レビュー 生しいたけで食中毒!食用でも生食が危険な理由!縮環体
インドール
インドールは合成系だけでなく、生化学系や生物系の人もご存知のヘテロ環ではないかと思います。
このインドールは大便臭いことで有名です。インドールを合成に使ったりすると臭いが体について電車に乗れなくなったという話を聞いたことがあります(笑)。
非常に低濃度では花の香りがするらしいです。インドールはアミノ酸のトリプトファンを構成する部分構造で、トリプトファンを原料とするセロトニンやメラトニンなどの生理活性アミンにも含まれているため重要な構造です。そのためか抗炎症薬のインドメタシンにもインドール構造が入っています。
プリン
プリンはビールのプリン体として有名です。生物ではプリンは非常に重要な骨格で、核酸塩基のグアニンやアデニンに含まれる部分構造です。アデニンやグアニンを含む生理活性分子はたくさんあるため医薬品構造としても重要です。
脂肪族複素環の一覧
ピリジンやピロールのような不飽和結合を持たないヘテロ環もあります。
アジリジン
三角形のシクロプロパン環の一つの炭素が窒素になったアジリジンは大きく歪んでいるため反応性が高いです。求核剤と反応してアミンを与えるなど高い求電子性を持ちます。
アジリジンとは? 性質と反応のまとめピペラジン
ピペラジンは脂肪族アミンの複素環です。塩基として用いたり、環で運動を制限されたジアミンリンカーとして使用されることもあります。
ピペラジン – 駆虫薬 シンプルな医薬品1複素環の命名法
複素環にも命名法は存在しますが、多くの慣用名が浸透しているので慣用名を覚えるのが実用的です。重要なものは5員環と6員環の複素環でヘテロ原子が1~2くらいのものです。特に窒素と酸素のヘテロ環は重要です。
覚えておいたほうが良い命名法の規則としては、
- 窒素「アザ」酸素「オキサ」硫黄「チア」と呼ぶ
- ヘテロ原子が2以上では原子価が小さいものが優先:O>S>N>P
- ヘテロ原子につく番号が最小になるようにつける
ことです。
複素環について詳しいサイトまとめ
・Wikipediaの複素環式化合物のまとめページです。各構造式と名称が表形式でまとまっているために大変見やすく、さらにwikipediaのページが存在していれば、各化合物の詳しいページに飛ぶことができるので便利です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A4%87%E7%B4%A0%E7%92%B0%E5%BC%8F%E5%8C%96%E5%90%88%E7%89%A9
・chemical Bookの複素環式化合物のページです。あまり一般的ではないような複素環もありますが、他では紹介されないようなものあります。
https://www.chemicalbook.com/ProductCatalog_JP/1524.htm
・放課後化学講義室のヘテロ環100種盛り合わせのページです。炭素数別にまとめて表示してあるので見やすいです。
http://chemieaula.blog.shinobi.jp/Entry/292/
・炭素の科学の複素環式化合物のページです。各ヘテロ環の一覧と炭素番号、命名法などの解説がわかりやすいです。
https://blog.goo.ne.jp/tatsushi-murae/e/7b2e1d870a980101f214b9cfbec71f7f
プリンの構造って掲載されているもので合ってますか?
イミダゾールのNとNHの向きはどちらでもいいのでしょうか。
どちらの構造もプリンなのですが一般的にプリンはN9位にHがつく9H-プリンなので修正しました