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アルコールのハロゲン化 アルキルハライドの合成

アルキルハライドをアルコールから合成する

アルコールを原料にハロゲン化水素などのハロゲン化剤を用いたアルキルクロリドの合成方法を紹介します。

アルコールのハロゲン化

ヒドロキシ基のハロゲンへの置換は簡便で最も良く用いられるハロゲン化アルキルの合成方法だと思います。

ヒドロキシ基をハロゲンに置換する試薬としては

  1. ハロゲン化水素
  2. ハロゲン化リン
  3. スルホニルハライド
  4. ハロゲン化チオニル
  5. ビルスマイヤー試薬
  6. ホスフィン(アッペル反応)
  7. 環状エーテルの開裂

があります。

酸の危険性などもありますが、最も安価かつ簡便なのはハロゲン化水素を用いた方法です。基質が酸に強ければ、ハロゲン化水素を加えて還流するだけで得られます。また、試薬由来の副生成物は水に溶けて留去することもできるのでクリーンです。

塩化リンやホスホリルなど硫黄、リン系の試薬もよく利用されます。特にホスフィンを用いるアッペル反応は中性条件で進行し、選択性が高いので合成終盤のハロゲン化などにも使うことができます。

環状エーテルの開裂はモノハロゲン化ジオールあるいはジハロゲン化ジオールの合成に有用です。

ハロゲン化水素を用いた合成方法

ハロゲン化水素を用いた方法は塩化アルキル、臭化アルキルの合成でよく用います。特に第一級アルコールを変換するのに使います。ジオールなどポリオール類の変換にも有用です。

ハロゲン化水素を使ったアルコールのハロゲン化

ハロゲン化水素を使ったアルコールのハロゲン化

第二級アルコールは脱離によるアルケンの生成が競合するため第一級アルコールと比べて収率が低下します。第三級アルコールはハロゲン化水素酸と混合するだけで割と簡単に得られますが、脱離生成物や転位などが起こるので注意しましょう。

脱離反応と競合

塩化水素や臭化水素をアルコールに加えて加熱還流するのが基本です。

脱水反応のためモレキュラーシーブディーンスターク装置などを使って生成した水を除去すると効率的にハロゲン化できます。

第四級アンモニウム塩(TBACl,TBAB)を加えても良いです。

硫酸を加えるとアルコールの脱水が促進され反応性が向上しますが、分岐アルキルなどはカルボカチオン生成にともなう副反応により複雑な混合物が生成することがあるので注意が必要です。

HMPAは塩素化のときに加えると収率が向上します。また、塩化亜鉛・塩酸は塩化アルキルを合成するのに良く利用されます。

臭化水素の他、BBr3もアルコールを臭素化できます。LiBrを加えると良いです。

臭化水素酢酸などもアルコールを臭素化するのに使えます。臭化水素-酢酸は臭化水素酸と無水酢酸を混合させることにより調製できます。

反応例1

Gontijo, Vanessa Silva et al Medicinal Chemistry Research, 24(1), 430-441; 2015

30 mLのトルエンに溶解したジオール(1.00当量)溶液に、48%HBr(2.00当量)を加えて110℃で24時間撹拌した。減圧留去し、クルードをカラム精製により87%で得た。

2当量の臭化水素を使えばジブロモ体が得られます。硫酸を加えることもあります。ディーンスターク装置により生成した水を除去すると効率的です。

ハロゲン化リンを用いた合成方法

五塩化リン、三臭化リンなどのハロゲン化リン類は強力なハロゲン化剤でカルボン酸を酸塩化物に変換するのにも使えます。

ハロゲン化リンは酸に不安定な化合物にも使えます。リン由来の副生成物が生成するのが欠点です。また、多少高価です。

臭化アルキルの合成は三臭化リン(PBr3)がファーストチョイスです。反応性が低い第三級アルコールでは五臭化りん(PBr5)を使います。

塩化アルキルでは五塩化リンを用いてもよいですが、リン系よりも塩化チオニルのほうが収率が高くお勧めです

塩化ホスホリルも良く使います。塩化ホスホリルはピリジンと用いて光学純度を保ったまま塩化アルキルに変換可能です。

ヨウ化アルキルを合成したい場合は三ヨウ化リンが使われます。

反応例1

Damha, Masad J. WO2013026142, 28 Feb 2013

アルコール(0.32 g、1.58 mmol)を10 mLのDCMおよび2 mLのトリエチルアミンに溶解し、氷浴で0℃に冷却した。この溶液にPBr 3(0.225 mL、2.37 mmol)を10分かけて滴下し、0度で1時間撹拌した。酢酸エチルで希釈した飽和重炭酸ナトリウムで反応停止し、ブラインで2回抽出した。有機層を乾燥させ、濃縮し、カラム精製で92%で得た。

触媒量(0.05~0.2eq)のピリジンを共存下反応させることもあります。ピリジンは異性化を抑制する効果があります。LiBrを1当量添加することもあります。またDMFを加えてビルスマイヤー試薬様にして反応させることもあります。

赤リンと臭素およびヨウ素を用いるとPBr3, PI3のように用いることができます。

溶媒はジクロロメタンやエーテル、THF、DMF、トルエンなどを使います。

スルホニルハライドを用いた合成方法

トシルクロリド(TsCl)やメシルクロリド(MsCl)などのスルホニルクロリド類はアルコールをスルホン酸エステルに変換した後、塩化物イオンによる攻撃を受けて塩素化します。特に高い温度で長時間反応させることによって得られますが、必ずしも収率は高くありません。

スルホニルハライドを用いたハロゲン化はスルホナート化・クロリド化の二段階反応であり、二重結合への付加反応やカルボン酸の酸クロリド化などは進行しないため選択性は高いです。より高い反応性をもつトリフラートをハロゲン化することもあります。

通常は塩化物、臭化物、ヨウ化物を高収率で得るために対応する塩を添加します。必要に応じて二段階で反応させることもあります。

  • フッ化物の合成→TBAF, KF
  • ヨウ化物の合成→NaI/Acetone, KI, LiI
  • 臭化物の合成→LiBr, NaBr
  • 塩化物の合成→LiCl, NaCl, TBACl

を用います。

ヨウ化アルキルは反応性が高いことから、塩化アルキルや臭化アルキルでは収率が低いためこれらを変換してヨウ化アルキルを得たい時があります。そんな時、ヨウ化アルキルの合成法としてNaI/アセトンを用いた方法は簡便で良い方法になります。

反応条件

ヨウ化アルキルの合成はトシル化の後にNaI/アセトン系がよく使われます。NaClなどのナトリウム塩がアセトンにほとんど溶けないことから採用されているようです。トシル化で塩化アルキルを狙うよりもトシル体として単離(結晶化など)してから変換したいハロゲンを持つ塩を加えて室温~還流させて合成することが多いです。単離せずに連続的に反応させることも可能です。

ヨウ化アルキルの合成fromトシル基

Wang, Xiaoyan et al Macromolecules , 47(2), 552-559; 2014

脱水ピリジン(100mL)にアルコール(151 mmol)を溶解し、0℃に冷却した後、TsCl(160 mmol)を加えて室温で20時間撹拌、5%HClで30分間撹拌してクエンチして抽出した後、ショートカラムで精製、得られたトシル体をアセトン中NaI (1.05eq)を加えて加熱還流した後、抽出、濃縮して蒸留により精製して目的物を80%で得た。

上記の反応条件は塩をLiClなどに変えれば塩化アルキルの合成が可能です。

ピリジンを溶媒として使用する他、1~2eq加えてジクロロメタンやTHF、エーテル中で反応させることもあります。

触媒としてDMAPやクラウンエーテルを加えることもあります。

ハロゲン化チオニルを用いた合成法

塩化チオニルは酸塩化物を合成する試薬として優秀ですが、アルコールの塩素化も可能です。もちろんカルボン酸があれば他の塩素化剤と同様に酸塩化物が生成してしまうので注意です。

塩化チオニルの有用な点は沸点が低く、溶解性が高いので、溶媒として利用可能であり、さらに副生成物もガス状であるため後処理容易な点です。臭化チオニルも同様に臭素化に使うことができます。

合成は簡便で、アルコールにハロゲン化チオニルを溶媒量あるいは化学量論量加えて室温~還流させて得ます。ピリジンやDMAP、TEA、DMFなどを触媒として加えると収率が向上します。

特に第一級アルコールの塩素化に向いています。

反応例1

Lee, Sun Young et al Archives of Pharmacal Research, 38(12), 2131-2136; 2015

アルコール(0.38 mmol)のクロロホルム(2 mL)溶液に、塩化チオニル(0.​​1 mL)クロロホルム( 1 mL)溶液を0°Cで加えた後、1時間還流した後、濃縮し、残渣にメタノールを加えて溶液として活性炭を加えて1時間還流し、セライトろ過、濃縮し、目的物を100%で得た。

塩化チオニルは過剰量用いても1当量用いてもOKです。ピリジンを加えることもあります。

ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、DMFを溶媒とします。

ビルスマイヤー試薬を用いた反応

ビルスマイヤー試薬は芳香環のホルミル化反応であるビルスマイヤー・ハック反応でも使われる反応性の高い試薬です。ビルスマイヤー試薬はホルムアミド類(主にDMFを使うことが多い)とハロゲン化試薬を混ぜて利用します。

ビルスマイヤー試薬は市販されていますが、塩化ホスホリル(POCl3)や塩化チオニルなどハロゲン化試薬を用いて簡単に調製できます。PCl3などのハロゲン化リンでもDMFを加えて調整できます。そのため、各種ハロゲン化試薬では収率が低い時にDMFを加えてビルスマイヤー試薬の生成により収率向上を狙う添加物的な立ち位置かもしれません。

電子豊富な芳香環があるとホルミル化が進行してしまうかもしれません。また、第二級や第三級アルコールではアルケンの生成が起こる可能性があります。

ビルスマイヤーハック反応ビルスマイヤー・ハック反応の反応機構

アッペル反応(トリフェニルホスフィン+ハロゲン源)

アッペル反応はトリフェニルホスフィンとハロゲン化試薬により生成するホスホニウム塩が反応試薬です。中性条件で進行し、穏やかに進行するため、嵩高いアルコールでも脱離反応が起こりにくいため有用です。穏やかな反応性の割には反応時間は短く、数分から1時間程度で得られます。

ハロゲン化ソースとしては四塩化炭素、四臭化炭素、LiXなどが用いられます。

欠点はトリフェニルホスフィンを用いた場合、副生成物の除去が面倒である点です。反応性の高いベンジルブロミドなどの合成では他の方法を用いたほうが良いかもしれません。

エーテルの開裂による合成

エーテル類はハロゲン化水素などの強酸中還流することによって、開裂してハロゲン化アルキルとアルコールが生成します。さらにこれらを反応させることによって2種類のハロゲン化アルキルが得られます。

特にTHFなどの環状エーテルは開裂することによってモノハロゲン化アルコール(ハロヒドリン)およびジハロゲン化アルキルが得られるため有用です。

Servigne, Marcel et al Compt. rend., 241, 963-4; 1955

エーテルではありませんが、ラクトンを同様な方法で開裂させると末端にカルボン酸とハライドをもつ化合物を合成することができます。

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