NMRって何?
有機合成を初めて一番重要といっても過言ではないのが、NMR解析だと思います。でも初心者からするとNMRって理解も難しいし、スペクトル解析を読むのは結構大変ですよね。なので今回はそんなNMRを分かりやすく攻略できるようにまとめてみます。
NMRとは?何のために使う?
化合物は目で見てもどのような構造をしているのかは分かりません。例えば料理をしていてい塩と砂糖を間違えたりしませんか?典型的な例ですよね。結晶の形からなんとなく想像できますが、それが粉々に砕かれてたりすると舐めてみるまでそれが塩か砂糖かは分かりませんよね。そのように目ではどんな構造か判断できない化合物に対して、化学者は分光法という手法を使って構造を決定します。その分光法の一つがNMR分光法です。
NMRの原理
NMRは核磁気共鳴といいます。
ざっくりとした原理
NMRの原理はコンパスの針に例えると少しわかりやすくなります。コンパスの針は北にN極が向かいます。これは地球の地磁気によるものです。もっと言えば、コンパスの針は磁石であり、N極(北)とS極(南)があります。この磁石に磁場を与えると(S極の磁石を近づけると考えても良い)と針はピンと一定の方向を向きます。S極の磁石を近づければその方向にN極の針がピンと向かうのがイメージできると思います。
実はこれとおなじことが原子核(陽子と中性子)でも起きます。原子核は単に核と呼ばれることもありますが、この原子核は小さな磁石といえます。コンパスの針と同じです。NMRでは超電導の強力な磁石を使って原子(原子核)に強力な磁場をかけています。
ここから先はイメージなので正確なことは次の章に書くのでそちらをご覧ください。
同じ磁気をかけても、原子の種類によって反応の仕方が違います。なぜなら原子の種類によって原子核(小さな磁石)を作っている陽子、中性子、電子の数がことなるからです。さらに、同じ原子核でも原子核の置かれる環境によって若干違います。例えば先ほどのコンパスの例に例えますが、もしもコンパスの針を厚い鉄板の箱の中に入れてその上からS極を近づけたとします。そうすると中に入ったコンパスの針の反応は鈍くなりそうですよね?
これと同じことが原子核(小さな磁石)でも起こります。そして原子核を覆うシールドの役割をしているのが電子です。電子は原子核の周りを雲のように覆っています。つまり、
- 原子核を覆う電子がたくさんあれば(電子密度が高ければ)原子核が感じる磁場は小さく
- 原子核を覆う電子が少なければ(電子密度がひくければ)原子核が感じる磁場は強くなる
それでは原子上の電子密度は何によって変化するのか?それが電子求引基や電子供与基による影響を受けます。もっと具体的に言えば電気陰性度が高い原子に原子が結合すれば電気陰性度が高いほうの原子に電子が引っ張られるので、電子密度が低くなります。だからNMRを測定すると測定している原子核の周辺環境がわかるんですね(OHが結合しているなど)
核磁気共鳴(NMR)分光法は簡単に言ってしまえば原子核を検出し、その原子核が一体どのような状態なのかを教えてくれます。同じ元素の原子でも隣についた官能基が違えば、その原子核の状態が変わるので、測定している分子がどんな化合物なのかを特定することができます。
核磁気共鳴(NMR)ってどんなもの?
さきほど、原子核の状態を教えてくれるものがNMRだと書きましたが、それは強力な磁場を使って測定します。実は原子核の中には磁場の影響を受ける核(1Hや13Cなど)があり、スピンという性質を持ちます。この原子核を強力な磁場に置くと二つのエネルギー順位に分かれます。簡単に言えば安定な場内と不安定な状態ですね。この状態が原子核が磁気によって共鳴している(核磁気共鳴)になるわけです。
さて、この核磁気共鳴を一定のエネルギー順位(この場合不安定な状態)に変えるためにエネルギーとしてラジオ波を照射して全てを不安定な状態にします。そしてラジオ波の照射をやめると、不安定な状態にあったエネルギー順位が安定なエネルギー順位に戻ることで、エネルギーが放出されます。このときにエネルギーとして出てくるのがラジオ波で、これを受信することで検出できます。
この磁場を受けている状態は、原子核の周りに存在する電子によって邪魔をされています(遮蔽された状態)。電子の分布状態は化合物の極性や共鳴状態によってことなるので、遮蔽され具合というのが原子核一つ一つによって異なります。その遮蔽され具合によって、NMR分光法で得られてくるピークが異なるため、原子核の状態と周りの電子状態を測定することができます。
NMRの装置について
NMR装置非常に高価なものなのでその厳重に取り扱う必要があります。たたいたりすることはもちろんですが、特に試料を入れるところに異物を入れないようにすることが何よりも重要です。通常がエアーが出ていて異物混入を防いでいます。適切に取り扱っていてもエアーが出ていない状態で試料を投入するとそれだけで故障する可能性があります。
取り扱いは各部署の方針に従うものとして、ここでは一般的な注意について書きます。
注意すべきこと
- NMR試料管のふたを閉める
- NMR試料管にヒビやかけがあるものは使用しない
- 目印としてシールなどをはらない(つけても絶対にとれないようにする)
- 手動投入の場合エアーが出てることを確認する
- 磁器に弱いものを近づけない(ICカードや携帯など)
- 磁器に反応するものを近づけない(釘とか金属、磁石)
- 飲食しない
- 空調が効いてるといって眠らない(事故が起こったときに危険)
こめやん
NMRの種類
NMRと一言にいっても核種(元素核の種類)や二次元測定など様々な方法があります。一般的な有機合成に最低限必要な測定法としては1HNMRと13CNMRですが、それらを使っても判断できない場合は、その他の核種や二次元測定も使って化合物の構造を決定します。
1HNMR
1HNMRはその名の通り水素原子の原子核をNMRで測定する手法です。1HNMRはプロトンNMRとも呼ばれます。1HNMRは化合物の構造決定に重要な手法で、水素原子はほとんどの化合物に含まれており、NMRから得られる情報も多いです。正直1HNMRだけでもほとんどの化合物はある程度構造決定が可能です。この1HNMRから読み取れる情報は大きく分けて三つあり、それぞれケミカルシフト、積分比、カップリング(J値)になります。下の図にはアスピリンの1HNMRの予測チャートを載せてあります。まずはそれぞれについて簡単に解説します。
ケミカルシフト(化学シフト)
1HNMRのケミカルシフトというのは上の1HNMRチャートでいえば横軸に書いてある数字の部分で、ppm(ぴーぴーえむ)で表されます。例えば2.3ppm付近に一つピンと大きく伸びたピークがありますね。そしてそれ以外のものは7ppm付近にあります。実はこのケミカルシフトはHの近くにある電子状態によって位置が変化するため、どのような電子状態にあるのかを予測することができます。
積分比
作成中
カップリング (J値)
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13CNMR
13CNMRは炭素原子を測定するNMRです。
ケミカルシフト
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カップリング(J値)
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DEPT
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その他NMR
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二次元NMR
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NMR解析のやり方
作成中
NMRでみられる不純物
実際の研究の場でNMRスペクトルを測定したときに、実は一つの物質由来のNMRスペクトルが得られることのほうが少ないものです。反応で得られた化合物も綺麗に精製しなければ綺麗なスペクトルは得られません。
NMRを素早く正確に解析する上でNMRスペクトル上に紛れ込んだ不純物のピークを素早く言い当てられるスキルが必要になってきます。といっても、混じりやすい不純物というものがあるのでこれらに注意すればすぐに読めるようになります。
代表例としては
- 副生成物(反応による)
- 溶媒
- 水
- オイル
- 可塑剤
などがあります。溶媒は特に反応や精製で大量に使うので混入しやすいです。キーワードは高沸点、大量に使用、いつもと違う操作です。
以下の記事にまとめてあります。
実際の実験操作
NMRを測定するのにあたって必要なことは
- 測定試料の下準備(できるだけ純粋な試料を用意)
- NMR試料の調製(重溶媒に溶かしてNMRチューブに詰める)
- NMR測定(測定核は?1 or 2次元?各種パラメータは?)
- NMRの解析
となります。詳しくは以下の記事をご覧ください。
実際の実験操作は下記を参照してください。
[blogcard url=”https://m-hub.jp/chemical/1164/recommended-labware-and-instrument-to-avoid-risk-of-nmr-measurement-failure”]