化学

NMRの測定方法!サンプル調製からスペクトルを得るまで

NMRの測定方法

NMRの測定方法

NMRは化学物質の構造決定にとって非常に重要です。特に1H-NMRスペクトルはNMR測定の基本であり、化学構造の多くの情報が手に入ります。

NMRのメーカーはJEOLやBruckerなどがありますがどれも測定までに必要な操作はさほど変わりません。

サンプル調製

NMR測定には下写真のようなガラス筒に測定したい試料を重溶媒に溶かしたサンプルが必要です。

NMRサンプル

サンプル調製手順

1.測定したいサンプルを1H-NMR:1-30mg、13C-NMR: 10-100mg程度用意する。H-NMRなら5-10mgもあれば十分です。

2.重溶媒(CDCl3、DMSO-d6等何でも良い)を700 uL程度加えて溶解させる。試料は温めたり超音波にかけたりして完全に溶解させる。

溶かすのにかなり温める時は再結晶に注意!他の溶媒を使用したほうが良いかも。溶け残りは試料本来のスペクトルが得られないので避ける!

3.NMRチューブに4cm以上加える。NMRチューブは指定のものを使用する。(通常5mm管)。ホコリや溶け残った固体は、綿栓ろ過して取り除く。

4.しっかりとキャップをして、NMRチューブの外側を綺麗に拭く。

5.NMRのサンプル挿入口にサンプルをセットする(風が出てきているのを確認してから)

6.測定へ

7.測定試料は再使用したければ回収する。(DMSOでは回収が困難)

・サンプル投入時の注意
スピナーロート(NMRチューブをはめる器具)は素手で触らないようにしましょう。キムワイプや手袋してから触れます。NMRチューブを挿入するときは回転させながらゆっくりとはめます。私は以前折って手に刺さったことがあるので気をつけましょう。温度可変NMRを測定するときはスピナーロートの種類が違う場合があるので注意しましょう。

・NMR操作の流れ
どのNMRも大抵は同様の手順で進行します。お手元のマニュアルに従ってください。
0.設定(積算やパルスシーケンスなど)1H-NMRなら積算8-16くらい13Cなら256-1024
1.ロック
2.シム調整
3.積算
4.スペクトル処理

NMR測定のQ&A

サンプル調製の注意点

・NMRスペクトルのS/N比は濃度に比例して増加し、積算回数の平方根に比例するため、濃度を高くしたほうがよりS/N比の大きいスペクトルが得られます。特に13Cを測定する時はなるべく濃いサンプルを用意しましょう。ただし濃すぎて粘度が上がると分解能が下がってしまうので注意が必要です。

積算回数と濃度とSN比

重溶媒の選択方法

1.サンプルが溶解する溶媒を選びます。(第一優先)

2.重溶媒のコスト。CDCl3(重クロロホルム)と重水が安い(下図はメルクの価格)。よく使うクロロホルムはよ25mLの大容量で圧倒的に安いです。重溶媒のコスト3.溶媒ピークの位置が被らない溶媒を選ぶ。クロホは7.24ppmに一本。DMSOは2.5ppmに現れます。芳香族化合物を測定する時にクロホは邪魔になるときがあります。そういうときは別の溶媒にします。

試料管に加える試料の高さは4cmでなきゃだめ?

4cm以上は必須です。多い分にはそんなに問題にならないので4cm以下にしないようにします。

古い重クロロホルムは酸性になるの?

古い重クロロホルムは酸性になっている場合があります。これは分解により重塩酸が生じるためです。pH試験紙に垂らすとpH1-2を示す程度になる場合もあります。酸に弱い構造を含む場合は分解、異性化などを起こすので注意が必要です。分解を防ぐラジカルスカベンジャーとして銀箔が入っています。銀箔の金属光沢が失われて白っぽいときは分解が進んでいる可能性が高いです。

多少のNMRチューブのひび割れなら使っても良い?

底面など、下部にヒビが入ったNMRチューブは絶対に使用してはいけません。NMRチューブはもろくて割れやすいのでNMR測定中に破損する恐れがあります。修理費用のほうが圧倒的に高コストで他人にも迷惑がかかるので新しいチューブを使用する。上部に入ったヒビもキャップをするときに割れて怪我をする可能性があるので使用しない。

チューブの修理
NMRチューブも高価なため、修理で再使用したいところ。上側の多少の割れなら紙やすりで力を加えずに削ると使用できるようになる。割れてガタガタになっているならやってみても良いかもしれません。

これをきっかけに紙やすりを揃えてみては??

NMRスペクトルに水や溶媒のピークが出てくる

重水素化した溶媒は吸湿しやすいので保存に気を付けます。特に冷蔵保存している場合は、室温に戻す前に開封すると湿気が混入しやすくなります。
他の混入経路としては、a) NMRチューブと b)測定試料があります。

a)NMRチューブ由来
NMRチューブは150℃で24時間乾燥させたあと、真空下あるいは不活性ガス下で冷却して使用します。重溶媒ですすぐことも有効です。キャップも盲点なのできちんと乾燥させた後に使用します。

b)測定試料由来
測定する試料は真空減圧下十分に乾燥させてから使用します。試料によって30min-1h程度で十分なこともあれば、一晩以上乾燥が必要な場合があります。試料がオイル状、飴状のときは飛びにくいです。そんなときは、測定する量のサンプルに測定したい重溶媒を少量加えて溶かした後、再度真空下で15min乾燥させます(共沸のようなもの)。これにより溶媒や水などのピークは小さくなると思います。

c)その他
溶媒を量りとるときに使用するスポイトキャップ(ニップル)に残った溶媒なども混入することがあります。

TMSの有り無しはどっちがよいの?

TMS(テトラメチルシラン)はちょうど0ppm付近にピークがでるので、基準物質として利用されています。使用する重溶媒の溶媒ピーク(CDCl3:7.26ppm)を基準値として利用することもできます。より正確にシフト値を比較したいときはTMSと溶媒の2点で見たほうが正確だとおもいます。(溶媒ピークは試料や濃度によって移動する可能性がある)TBDMS基など0ppm付近にピークがでるときはスペクトルが読みづらくなるので加えないほうが良いかもしれません。そのへんは研究室のルールに従ってください。ない場合は自分の中で統一したほうがよいでしょう。ちなみにTMSは揮発性物質なので、徐々になくなるので注意。また、微量の試料を測定するときは大きいTMSのピークがスペクトルの品質を低下させることがあるので、TMS無しの溶媒を使用します。

OOOMHzは何が違うか?

NMRには400MHzや600MHzなど磁場の強さの違いがあります。基本的に数字が大きいほどスペクトルの分解能が向上する。細かいカップリングも読みとれるようになるかもしれない。低分子化合物の1H-NMRであれば300-400MHzあれば十分です。

スピンがかからない

JEOL製はスピンがかからないことが多い?スピナーローターを綺麗に拭いて、引き伸ばす部分をちゃんと下まで引き伸ばして、サンプルをセットし直す。サンプル量が多すぎたり少なすぎたりしても起こることがある印象。4cmくらいを守る。
安物あるいは古いNMRチューブの場合にも起こりやすい。上質なものに交換するか別のNMRチューブに移し替えて再測定する。
それでもだめなら管理者に相談する

水ピークの近くにピークが?

Double water peakと呼ばれるものかもしれません。混入した水と重水素が置換することによって、HOH, HODが生成し、両方のピークが確認されます。

ロックがかからない

Lockを外して再度Lockをかける。
自分が使用した重溶媒と設定した重溶媒が同じかどうか確認する。
標準の試料でlockかけてからやる。DMSOなど合いやすいが、メタノールは合いにくい。
ホコリ等の固体が混入している。ろ過してから測定する(よくある)
shim設定を再読込する(Brukcerならrshコマンドで)

全体的にシグナルがブロードする。分解能が悪い

液量は4cmか?シムは合わせたか?重溶媒あとから追加して撹拌したか?(溶液が均一か?)、ゴミなどの固体は無いか?確認する。高分子や粘性が高い試料だと分解能が悪くなる。濃度を薄くする。それでもだめなら、機械が壊れている可能性もあるので、詳しい人に相談する。

NMR測定がなんかいつもと違う?おかしい

よくわからない時はかならず管理者に相談する。ちょっとした変化も周りの人に確認する。おかしいと思った時はそれを解決するまで測定をしないようにする。

ベースラインがガタガタしてる。ノイズが多い

シムなどがあっていないあるいはレシーバーゲインが大きすぎる。ゴミや試料の高さ、などを確認して再測定する。

13C測定で不純物が無いのに炭素数が多い?

フッ素などがあると13Cスペクトルも分裂する。フッ素は非常に大きく割れるので独立したピークに見えるので注意する。

芳香族エステルのような変なピークが混入ている?

NMRチューブのキャップ由来の可塑剤(フタル酸エステル類とか)かもしれません。キャップがプラスティック製の場合、蓋を締めた状態で上下に振って撹拌すると混入する恐れがあります。また、キャップのカスが入ることもあるので、溶液の混合はチューブに入れる前に実施するのがよいと思います。

NMRチューブの洗浄が面倒くさい

NMRチューブ洗浄器なるものが発売されています。非常におすすめです。安くはないので、構造を見せればガラス屋さんに作ってもらえるかもしれません。超音波洗浄機がある場合はDMSOなどを加えて超音波洗浄機にかけたあとアセトンで洗浄、上下にチューブを振って溶媒を出します。すぐ使いたい時は、重溶媒ですすいだあと、500-1000mLのナスフラスコなどに入れて減圧乾燥させるとすぐに使えます。

参考サイト一覧

横浜国立大学機器利用支援システム

名城大学分子設計化学研究室、測定マニュアル

メルク社:NMR溶媒を扱うコツとDouble Water Peaksについて

NMRの磁場が大変強いことを示すのに砂鉄やコインをNMRに近づけています(やってはいけません)。イスラエル国立ヘブライ大学

ヘブライ大学NMR LAB

広島大学大学院生物圏科学研究室

北海道大学 引地先生の渾身の一冊です。非常に中身が濃いのでNMRを深く知りたい人はおすすめです。

金沢大学分子機能解析化学研究室 NMRマニュアル

北海道大学農学部GC-MS & NMR室

東京大学薬学部金井研究室NMRマニュアル

いろんな大学と自分の場所のルールを比較してみて参考にできるところは取り入れると良いと思います。非常に勉強になります。

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こめやん
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こめやんは理学博士です!化学の面白さと学ぶメリットを少しでも伝えるために日々頑張ります! ツイッターにて疑問点や依頼などを募集しています! 論文の和訳やレポートのチェックなどでもお気軽にお待ちしております