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フルーツ酸 AHAによる角質のケミカルピーリングの効果とは?

ケミカルピーリングの効果 AHAとは?

AHAとは?

AHA (Alpha Hydroxy Acid:αヒドロキシ酸)は酸性物質の総称で有名なAHAはクエン酸です。

化学的に言えばお酢の成分である酢酸(カルボン酸)の仲間でカルボン酸にさらにヒドロキシ基を持つ物質がヒドロキシ酸と呼ばれています。特にカルボン酸のC=Oの隣の炭素(α炭素)にヒドロキシ基が結合しているものをαヒドロキシ酸と呼びます。

AHAの構AHAの構造

AHAの構AHAの構造

ヒドロキシ酸は自然界に豊富に存在している物質です。AHAなどと呼ばれると特殊な化学物質のような気がしますがそうではないんですね


AHAによるケミカルピーリング効果とは?

AHAは美容成分としてよく使われています。なぜならAHAにはケミカルピーリング効果があるからです。

ケミカルピーリング効果とは「古い皮膚をはがして、新しい皮膚を再生させる効果」のことです。AHAを皮膚に塗ると古い角質が剥がれることで皮膚再生を促します。ケミカルピーリングは皮膚がきれいになるという口コミから安易に利用されるようになりましたが、これによって健康被害も報告されるようになっています。健康被害が出てしまう原因はケミカルピーリングに使われるAHAが強い酸性物質であるからです。多くのAHAは酢酸よりも酸性度が高く、皮膚への刺激性があります。

山本有紀. “ケミカルピーリング.” 日本臨床皮膚科医学会雑誌= Journal of the Japan Organization of Clinical Dermatologists 79 (2004): 14-18.

ケミカルピーリングのしくみを簡単に

ケミカルピーリングは古くなった皮膚の表面をはがして、新しい皮膚の生成を促すことで皮膚を綺麗にするという方法です。

ケミカルピーリング、化学物質が一体皮膚の何に作用してどのように皮膚再生を促すのか?副作用はなぜ起こるのか?を理解するためには皮膚に関する知識が必要です。

皮膚の科学

あまり意識しないかもしれませんが、皮膚は防御や体温調節、生合成などを担う体の中で最も大きな臓器です。皮膚は複数の層から構成されています(下図)。皮膚を大きく3層に分けると外側から順に

  1. 表皮(角質層→顆粒層→有棘層)
  2. 真皮
  3. 皮下組織

に分かれます。

表皮の中で最も外側にあるものが角質です。美容ではときどき角質を邪魔物のように扱うことがありますが、角質は皮膚の内側を乾燥、紫外線、細菌などから守るバリアとして重要なのです。角質は表皮の最も内側(真皮と表皮の境界)にある基底層と呼ばれる部分にある基底細胞が分裂して徐々に外側に押し上げられるようにして最も外側の角質に変化していきます。見方によっては古い細胞が皮膚の外側の角質になるともいえるでしょう。角質への変化は約二週間かけて行われます。当然、角質が作られていけば古くなった角質はそれに合わせて剥がれ落ちていきます。剥がれた角質がいわゆる「あか」です。

こめやん

今の皮膚表面は約二週間前は表皮の底にあった細胞ということなんですね!

このように新しく角質がつくられていく過程をターンオーバーと呼びます。一般的な人のターンオーバー時間は2週間です。ケミカルピーリングではこのターンオーバーを促す作用があります。あり得ないですが極端に言えば「一日で角質が作られれば、毎日新しくきれいな肌でいられる」ということになりますね。

八田一郎. 皮膚のバイオサイエンス―皮膚角層の構造と機能―. 日本接着学会誌, 2016, 52.5: 145-151.

ターンオーバーと皮膚美容

さて、ターンオーバーが皮膚の美容に大きくかかわることが何となく理解できたと思います。皮膚の老化の結果ターンオーバーは徐々に低下していきます。ターンオーバーが低下すれば皮膚の再生が遅くなります。

ケミカルピーリングでは「角質を化学的な作用によって剥がれ落ちやすくする効果」や「真皮の線維芽細胞への直接的な作用」などが知られていますが、まだ分子メカニズムは十分に解明されていないようです。論文では角質の除去は浸透した化学物質がタンパク質を凝集させることによって細胞死(ネクローシス)を引き起こし、角質層を剥がすという報告があります1)。また、一部の成分に関してはアクネ菌などに対する抗菌作用や抗炎症作用なども知られています。

1) ROENIGK, Randall K.; BRODLAND, David G. A primer of facial chemical peel. Dermatologic clinics, 1993, 11.2: 349-359.

メカニズムからも示唆されていますが、用法用量を守らずにケミカルピーリングをやりすぎると正常な肌にダメージを与える恐れがあるので注意しましょう。

ケミカルピーリングはターンオーバーを促進するといいましたが、角質層を剥がすことによってターンオーバーを促進させるため、角質を作る基底細胞の細胞分裂を直接的に促進させているわけではありません(間接的)。これらの機能は加齢によって低下するためこちらのケアは別の部分で補う必要があるでしょう。

こめやん

本来あるべきバリア機能が引き剥がされているのでアフターケアは重要ですね

角質にはバリア機能があります。乾燥もそうですが皮膚のシミやしわの原因となる紫外線による損傷から保護する作用も確認されています。

Takagi, Yutaka, et al. “UVB sensitivity correlates with cutaneous barrier function in the skin of Japanese females.” Photodermatology, photoimmunology & photomedicine 35.4 (2019): 284-285.

ターンオーバーでは表皮にあるメラミン色素が剥がれ落ちるのでシミなどにも効果があるといわれています。ケミカルピーリングに期待される効果とエビデンスについては下の章で説明します。


よく使われるAHA

ケミカルピーリングはその効果の到達深度によってレベル1~4まで分類されます。レベル4が最も深い到達深度を表します。

  • レベル1:角質のみ
  • レベル2:基底層よりも上
  • レベル3:表皮と真皮の上層
  • レベル4:真皮の網状層まで

というように分類されています。当然皮膚の深い部分まで影響するものほど炎症や色素沈着などの副作用を来たす恐れがあります。成分や濃度によって到達深度は異なります。

グリコール酸

グリコール酸は最も良く利用される成分です。グリコール酸は皮膚に良く浸透する。グリコール酸に限らないが高濃度では皮膚を侵すので注意が必要です。

トリクロロ酢酸

トリクロロ酢酸は厳密に言えばAHAではありません。α位にヒドロキシ基が無く、代わりに塩素がついているからです。トリクロロ酢酸の特徴はタンパク質とくっつきやすいため、皮膚浸透しにくく局所的な作用が表れますが、逆に局所作用が強いことから皮膚への障害に気を付ける必要があります。

サリチル酸

サリチル酸はエタノールやポリエチレングリコールなどのアルコールに溶かして用いる。皮膚吸収されやすく血液に移行してサリチル酸中毒になる恐れもあるので注意が必要です。ポリエチレングリコールに溶かした場合は角質のみに作用するようになります。アレルギーなどを引き起こす場合があるので注意が必要です。サリチル酸は炎症性色素沈着は起こしにくくすべてのフィッツパトリックタイプで利用可能です。

古川福実, et al. “日本皮膚科学会ケミカルピーリングガイドライン (改訂).” 日本皮膚科学会雑誌 118.3 (2008): 347-356.

各種フルーツ成分

天然成分と称して様々なフルーツ抽出物が角質除去剤として含まれていることが多いです。よく含まれている成分はレモンやオレンジ、グレープフルーツ等の柑橘類果汁だと思います。これらの果汁中には多くの有機酸成分が含まれています。代表的な成分はクエン酸、リンゴ酸です。このどちらもAHAです。

八巻良和. カンキツ類果汁中の有機酸組成. 園芸學會雜誌, 1989, 58.3: 587-594.

その他の成分

エタノール・マクロゴール(PEG)

エタノールやマクロゴール(PEG:ポリエチレングリコール)は固体の化学物質を溶解させる役割があります。グリコール酸は液体ですが、サリチル酸やマンデル酸などは固体の化学物質です。皮膚へのこれらの物質を皮膚に浸透させるためには液状にする必要があるため、エタノールやマクロゴールを使用します。さらにマクロゴールは分子量によって皮膚への到達を遅くして皮膚到達深度を調整する効果もあります。

Lee, Kachiu C., et al. “Basic chemical peeling: Superficial and medium-depth peels.” Journal of the American Academy of Dermatology 81.2 (2019): 313-324.

レチノイド(レチノイン酸)

レチノイドの中でもビタミンA誘導体であるレチノイン酸は皮膚疾患の治療薬として利用されている成分でもあります。とくにオールトランスレチノイン酸(ATRA, トレチノイン)の外用薬は尋常性ざ瘡(ニキビ)等の治療薬として使われています。現在は下記の章で解説しますが、ニキビの治療薬としては副作用を軽減したレチノイド誘導体・アダパレンが第一選択薬としてガイドラインに記載されています。アダパレンの作用は核内受容体のRARへの結合を介して行われます(ATRAよりもRAR選択性が高く、化学的安定性も高い)。具体的な作用としては、抗炎症作用、角化細胞の増殖・分化誘導作用があります。

深澤弘志, 影近弘之, and 首藤紘一. “レチノイドによる自己免疫疾患の治療.” 日本臨床免疫学会会誌 29.3 (2006): 114-126.

グリチルリチン酸類

グリチルリチン酸

グリチルリチン酸

グリチルリチン酸は甘草と呼ばれる植物の根に含まれている成分のひとつです。実は甘草は漢方薬に配合されている生薬の中で最も良く利用されています( 医療用漢方製剤148品目中109品目に甘草が使用)。

こめやん

聞きなじみの多い葛根湯、桂枝湯、麻黄湯、十味敗毒湯には甘草が含まれています

グリチルリチン酸には抗炎症作用があります(アラキドン酸の遊離を抑制する作用やアラキドン酸代謝酵素であるホスホリパーゼA2などを直接阻害することで抗炎症作用を発揮します。)。

1)甘草 – 日本漢方生薬製剤協会:https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&cad=rja&uact=8&ved=2ahUKEwj5xsS7mrXqAhU2zIsBHU4NDDQQFjAAegQIBhAB&url=https%3A%2F%2Fwww.nikkankyo.org%2Fseihin%2Ftake_kampo%2F110405c%2Fkanzou.pdf&usg=AOvVaw0ZQwWvIcEn4agR0Hi0Ptzm

2) 医療用医薬品 : ネオミノファーゲンシー:https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00053275

ビタミンC

ビタミンCは酸化ストレスから身を守る役割があります。黒色色素メラニンの還元、コラーゲン合成の促進、紫外線ダメージからの保護などの効果があります。実際にビタミンC欠乏症になると皮膚がもろくなったり、角質層が厚くなることが知られています。皮膚には高濃度のビタミンCが存在しているといわれていて、真皮よりも表皮に多いです(mmolオーダー)。普通のビタミンCは水溶性が高く、皮膚に浸透しにくいのでそのまま肌に塗ってもあまり浸透しません。そこでより浸透しやすくするためのビタミンC誘導体が開発されています。ビタミンCはビタミンEと組み合わせることによって効果が増強するといわれており、同時に配合されていることもあります。

細胞実験ではビタミンCの使用により角化細胞の分化誘導、角質層の微細構造の改善がみられています。

PULLAR, Juliet M.; CARR, Anitra C.; VISSERS, Margreet. The roles of vitamin C in skin health. Nutrients, 2017, 9.8: 866.

ケミカルピーリングの効果を紹介

ケミカルピーリングがどの症例に対して効果的であるか?を日本皮膚科学会がガイドラインとしてまとめてあるのでこれを紹介します。

Committee for Guidelines of Care for Chemical Peeling. “Guidelines for chemical peeling in Japan.” The Journal of dermatology 39.4 (2012): 321-325.

ニキビ(尋常性ざ瘡)

ニキビに対する効果はある程度認められているようです。特に炎症が起こっていないニキビに対しては有効のようです。しかし、ニキビに対する方法として多用されているサリチル酸を使ったケミカルピーリングは副作用が強いことと十分な追跡研究がなされていないのでエビデンスが低いです。

シミ

シミの色素沈着を除去にもケミカルピーリングの有効性が確認されています。特に大型のシミには深めのケミカルピーリングが必要です。剥離到達度レベル3のトリクロロ酢酸を用いた方法が使われるようですが炎症性色素沈着を起こすことがあるので注意

肝斑

肝斑の色素沈着に対する効果は報告されていますが、ニキビやシミほど推奨されていません。

しわ

小じわに対するケミカルピーリングの効果は確認されています。

ニキビ(尋常性ざ瘡)に対するケミカルピーリングの効果:システマティックレビュー

ケミカルピーリングを用いる対象にニキビがあります。果たしてニキビに対してケミカルピーリングは有効なのか?について最近の論文で調べてみました。

CHEN, Xiaomei, et al. Chemical peels for acne vulgaris: a systematic review of randomised controlled trials. BMJ open, 2018, 8.4.

エビデンスレベルが高いといわれる研究手法のひとつにシステマティックレビューがあります。2018年に医学系で権威のあるBMJに投稿されたシステマティックレビューでケミカルピーリングのニキビに対する効果が議論されています。ちなみに、よりエビデンスレベルの高い研究であるメタアナリシスは報告されているランダム化比較試験の実施方法の質が低くバラバラであるため実施できなかったと報告しています。これはケミカルピーリングのニキビに対する効果を調べた質の高い研究は少なかったことを暗に示しているといえます。したがってこの結果だけで効果の有無を断定的に判断することはできませんが、このシステマティックレビューの結論としては「軽度・中程度のニキビに対して一定の効果があるように見える」としています。しかし同時により質の高いランダム化比較試験が必要だとも結論付けています。

研究の詳細

このシステマティックレビューでは12件のRCT(ランダム化比較試験)が使われています。ニキビに対する効果に関してはグリコール酸はプラセボよりも優れており、さらにグリコール酸よりもサリチル酸+マンデル酸のほうが治療効果が高い傾向があったと報告されています。また、ケミカルピーリングよりも光線治療のほうが効果が高いと報告されています。

ニキビ治療に関しては最もエビデンスレベルの高い「臨床ガイドライン」に関しても推奨度の分類はC1(選択肢のひとつとして推奨する)です。行うように強く推奨するに分類されているAはクリンダマイシン1%/過酸化ベンゾイル3%外用薬、アダパレン0.1%ゲルなどの使用が推奨された治療法です。ニキビ治療としてケミカルピーリングを安易に実践するのは避けたほうが無難であると思います。

林伸和, et al. “尋常性痤瘡治療ガイドライン 2017.” 日本皮膚科学会雑誌 127.6 (2017): 1261-1302.

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