アダムス触媒は白金系触媒の中でも有名な触媒で酸化白金(IV)からなります。アルキンやアルケン、ニトロ基、芳香環の還元も可能で、アルケンへの水素化はsyn選択的に進行します。Pd/Cと同じ用に水素ガスを使って還元する不均一系触媒です。本記事ではAdams触媒の特徴や使い所などを解説します。
Adams触媒は白金系触媒の代表
還元に使われる金属はたくさんありますが、その中でも白金は高価ですが還元力が強く有用です。白金系の触媒にはいくつか種類があり、
- 白金の単体
- 海綿状白金
- 酸化白金(特にAdams触媒)
- Pt/C
などがあります。この内活性が高く、よく利用されるのは酸化白金とPt/Cです。一般的には白金系の触媒はパラジウムなど他の金属を利用した還元反応の中でも還元力が強く、条件によっては芳香環も還元することができます。
Adams触媒はAdamsによって報告された白金系触媒で、塩化白金酸と硝酸ナトリウムを加えて500℃程度に加熱することにより自前で調製できます。しかし、販売されているので購入したほうが楽で良いです(和光:1g、\17300)。
Adams触媒の特徴・反応特性
Adams触媒基本的にPd/Cなどの不均一系触媒と同様に利用できます。白金とパラジウムは還元特性も似ていますが、選択性などが少し異なります。原因の一つとしてパラジウムと比べて白金が被毒されやすいこと(一般的に活性が高く、表面積が小さい触媒ほど被毒されやすい)が挙げられます。
白金は他の触媒よりもリンや硫黄により被毒されやすく、またハロゲン(Cl-,Br-)によっても被毒されます。パラジウムは白金よりも被毒を受けにくく、特に白金は芳香環のハロゲン(Ar-Br,Ar-Cl)に対する脱ハロゲン水素化反応は進行しにくいです。一方でパラジウムはハロゲンによる被毒を受けにくいため芳香環の脱ハロゲン水素化は進行しやすいです。したがって白金はパラジウムよりも被毒されやすいので、硫黄やアミンを含む化合物の還元はパラジウムを使用した方がよいかもしれません。
アミン類を含む場合は被毒されるので、酢酸を溶媒として使用することにより塩にして被毒効果を抑えられます
Adams触媒反応の加速方法
Adams触媒の還元反応を促進させる方法として酸を添加させる方法があります。酸としては塩化スズや塩化セリウムなどのルイス酸、あるいはブレンステッド酸(塩酸、酢酸、TFA)も加えられます。
アルデヒド類の酸化は反応が遅くなりやすい?ため、ごく少量(0.1mmol%)の塩化鉄(II)を加えると反応が加速することがあります(carothers,W.H,Adams,R.,JACS,45,1071,1923)。
酸の添加は他の不均一系還元触媒も共通して有効であり、殊にAdams触媒では酢酸を溶媒とすることによって還元力が強くなり、芳香環の還元などが可能になります。
Adams触媒によって還元されるもの・されないもの
白金触媒によって還元されないものは、
- エステル
- アミド
- カルボン酸
- スルホンアミド
- スルフィド
です。
一方で還元されるものは、
- オレフィン(4置換も可能)
- アルキン
- カルボニル(アルデヒド、ケトン)
- エナミンの還元
- ニトロ基
- ニトロソ基
- ニトリル
- アゾ基、アジド基
- 芳香環、ヘテロ環の一部
です。アルキンの還元はアルケンでは止まらず、アルカンまで還元されます。
アルデヒドとニトロ基を同時に反応させると還元的アミノ化が起こりアミンが得られます。
ベンジルエーテル(BnO)は保持されたままで還元できることが多いです。ハロゲンもパラジウムほど水素化されにくいです。TBSやBocは影響を受けません。
溶媒はメタノールやエタノールのほか、酢酸などが用いられます。酢酸を溶媒とすると還元力が高くなります。
Adams触媒を利用した還元反応例
Adams触媒はアルキン(アルケン)、ニトロ基、芳香環(ヘテロ環)、不飽和カルボニル、ニトリル、アジド、イミンの還元によく利用されます。溶媒はエタノール、メタノール、酢酸エチル、酢酸、THF、ジクロロメタン、クロロホルム、エーテル、ジオキサン、トルエンなどが使えます。
ニトロ基、ピロールの還元:反応例1
ニトロ基の還元はパラジウムと同様によく利用されますが、以下のようにピロールが存在するとニトロ基だけでなくピロールも還元されてピロリジンに変換されてしまいます。
エタノール(50mL)、塩化水素(0.45mL)に酸化白金(0.5g)、原料(1.82g,4.6mmol)を窒素雰囲気下で加えて水素ガス下(40psi,2.7気圧)で撹拌した。 1.5時間後、酸化白金(0.2g)を追加し、反応物を水素雰囲気下で(40psi)さらに2時間撹拌した。触媒をセライトでろ過し、エタノールで洗浄した。ろ液をジエチルアミンで中和し、濃縮、残渣をジクロロメタンに再溶解した。有機層を水、ブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。カラム精製により目的物を得た(1.6g,収率88%)。 Zhang, Xiaojun et al ACS Medicinal Chemistry Letters, 5(2), 188-192, 2014
ニトロ基の還元・Br基とシアノ基を保持・反応例2
アダムス触媒はパラジウムと比べて臭素による被毒を受けやすく、脱ハロゲン水素化は進行しにくいのが特徴です。臭素による被毒を受けているせいか、シアノ基の還元も起こらずに、ニトロ基のみを選択的に還元しています。
原料(3.21g,10.1mmol),アダムス触媒(0.642g,2.83mmol)、THF(70mL)を窒素雰囲気下で加え、水素ガス(30psi)下室温で45分間撹拌した。触媒をろ過除去し、濃縮、残渣をフラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、1:1酢酸エチル/ヘキサン)により生成して目的物を得た(1.75g,60%)。(Wang, Le et al WO2013097601)
オレフィンの還元
オレフィンの還元は最もよく利用されるアダムス触媒の利用法の一つです。多置換オレフィンでも還元しやすいです。
酢酸エチル(90mL)、アダムス触媒(259mg,1.14mmol)、原料(5.0g,22.8mmol)を加え、反応混合物を水素雰囲気下、室温で8時間撹拌した。反応混合物をセライトろ過、酢酸エチル(3×25mL)で洗浄し、ろ液を真空中で濃縮して目的物を得た(4.97 g, 22.5 mmol, 98%)。Zhang, Fengzhi et al JACS, 136(25), 8851-8854, 2014
ケトンとオレフィンの還元
原料(600mg,3.1mmol)をN2下でAcOH /水(19 / 1,12mL)に溶解し、アダムス触媒(120mg)を加えた。水素ガス下、室温で16時間撹拌した。反応混合物をセライトろ過し、EtOAcで洗浄、濃縮した。粗残留物をDCMで溶解し、乾燥し、濃縮して目的物を得た(864 mg, 100%) (Patent: Anderson, Eric et al WO2012083306)
芳香族の還元
芳香環も高熱・高圧、酸添加の条件であれば還元を受けます。ピリジンやピロールなどのヘテロ環は還元を受けやすいですがベンゼン環も条件によっては還元を受けるようです。
オートクレーブに原料(4g, 24.8 mmol),PtO2(0.4g)およびTFA(40mL)を入れ、混合物を2MPaのH2下100度で20時間水素化した。室温に冷却した後、反応混合物を濾過し、濃縮して目的物を得た(quant)。(Buckman, Brad et al Patent: WO2012054874)