アビガンは富士化学工業によって開発された抗ウイルス薬です。アビガンという名前は製品名で、成分名は「ファビピラビル」です。
ファビピラビルはもともとタミフルやリレンザに代わる新しい抗インフルエンザウイルス薬として開発された薬です。
アビガンとは?
アビガン:ファビピラビルは日本の製薬会社によって開発された抗ウイルス薬でもともとはインフルエンザウイルスに対する薬でしたが、動物実験における胎児の催奇作用が確認されたため、新型インフルエンザ対策用など制限があります。
アビガンの抗ウイルス効果はインフルエンザウイルス、口蹄疫ウイルス、フラビウイルス(ジカウイルスや黄熱病ウイルスなど)、バンヤウイルス、狂犬病ウイルスなど様々なウイルスに対する有効性が確認されています。
最近話題の新型コロナウイルス:COVID-19に対しても有効性が示唆されています。
アビガンの化学
アビガンの構造式はピラジンを母骨格としています。
構造式を見るとこの化学物質が核酸のアナログであることが想像できますね。
合成ルートはカルボン酸を酸塩化物に変換しアンモニアでアミドに変換、ニトロ化の後、ヒドラジン-ラネーNi還元でアミンに還元し、アミンをジアゾ化した後フッ化水素ピリジンでフッ素化します(Baltz-Schiemann反応)。
上の合成ルート1) Shi, Fangyuan, et al. “Synthesis and crystal structure of 6-fluoro-3-hydroxypyrazine-2-carboxamide.” Drug discoveries & therapeutics 8.3 (2014): 117-120.最近の改良合成ルート2) Guo, Qi, et al. “The complete synthesis of favipiravir from 2-aminopyrazine.” Chemical Papers 73.5 (2019): 1043-1051.
Petrov V.A. (2009) Fluorinated Heterocyclic Compounds: Synthesis, Chemistry, and Applications, Wiley
ファビピラビルの抗ウイルス作用
ファビピラビルはウイルスのRNAポリメラーゼという複製に関わる酵素を阻害することによって抗ウイルス作用を発揮します。
ファビピラビルはプロドラッグで体内に入ると代謝を受けてリン酸化されてファビピラビル-RTPに変換されます。
代謝によってヌクレオチドフォームになったファビピラビルはウイルスのRNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの複製をストップさせます。この作用機序はこれまでの抗インフルエンザ薬とは異なります。
Furuta, Yousuke, Takashi Komeno, and Takaaki Nakamura. “Favipiravir (T-705), a broad spectrum inhibitor of viral RNA polymerase.” Proceedings of the Japan Academy, Series B 93.7 (2017): 449-463.
ファビピラビルによってウイルスの突然変異が誘発されていることが示唆されています。
Baranovich, Tatiana, et al. “T-705 (favipiravir) induces lethal mutagenesis in influenza A H1N1 viruses in vitro.” Journal of virology 87.7 (2013): 3741-3751.
Dong, Liying, Shasha Hu, and Jianjun Gao. “Discovering drugs to treat coronavirus disease 2019 (COVID-19).” Drug Discoveries & Therapeutics 14.1 (2020): 58-60.
Cai, Qingxian, et al. “Experimental treatment with favipiravir for COVID-19: an open-label control study.” Engineering (2020).