ドラッグデリバリーシステム (DDS)とは何か?簡単に解説!

ドラッグデリバリーシステム

普段利用している薬には必ず標的があります。傷薬のように患部に直接塗り付けられれば良いですが、内服薬となれば、特定の部位にまで届かせるというのは難しいことは想像しやすいと思います。

ドラッグデリバリーシステム (DDS)は薬の有効成分を標的に届けるためのシステムです。本記事ではドラッグデリバリーシステムについて簡単に紹介していきます。

ドラッグデリバリーシステムとは?

なぜドラッグデリバリーシステムが必要?

当たり前に思うかもしれませんが、薬が働く場所に届かせることは重要です。

蚊に刺されてかゆい時、塗り薬を塗ったほうが飲み薬の抗アレルギー薬を飲むよりも効きそうだし、副作用も少なそうな気がしませんか?

病院で注射を刺されて熱がすぐに下がったという経験がある方もいるかもしれません。注射の効きが早いのは、内服、吸収、血液循環というプロセスをすっ飛ばして直接血液内に入れるからです。強力な解熱鎮痛剤は胃を荒らす薬品も多いので副作用の回避にもなります。

薬は働く場所に確実に届けることで効果を最大限に引き出し、副作用を低減させることができます

注射は患者に負担がかかるので「内服薬」が基本になります。ですから、薬の有効成分が患部に届くような工夫が必要になるのです。

ドラッグデリバリーシステムとは?

ドラッグデリバリーシステムは薬の有効成分を作用点に直接届けることによって薬の効果を最大化し、副作用を最小化するシステムです。さらに、徐放性を持たせたりすることで血中の有効成分濃度を長時間維持し、投与回数を減らしたり副作用を低減させることも可能です。

システムという名前が付くように、学問的には化学、物理学、生物学、薬学、医学の複合領域であり、あらゆる視点からのアプローチがあります。

有効成分の分子レベルで改変する化学的なアプローチとして「プロドラッグ化」があります。

プロドラッグ: 医薬品設計の化学

また、もう少し大きい分子としてナノ粒子を利用したアプローチなどもあります。

ドラッグデリバリーは製薬の基本

医薬品は作るのが難しいという話を聞いたことがあると思います。しかし、なぜ難しいのかをご存知の方は意外と少ないかもしれません。

実は、薬の標的に対する効果、いわゆる生物活性が高い物質を見つけること自体も大変ですが、そこだけが難しいわけではありません。効果が高い物質だけでみれば山ほどあることも多いのです。しかし、それがすべて医薬品になれないのは、「目的の箇所だけに届けられないことが原因」なのです。つまり、ドラッグデリバリーの問題です。

選択性

製薬の重要な要素として「選択性」というのがあります。選択性とは「標的の箇所のみに効く性質」です。強力な医薬品であればあるほど、体のもともと持っていた機能を大きく変える力を持っているので、変な箇所で効いてしまうと健康を大きく害する可能性があります。これを副作用といいます。あまりにも強い副作用では死亡もありえます。数ミリグラムの薬を飲んで半分が死亡するなら医薬品ではなく毒薬になってしまいます。病気の部位というものは正常な範囲から外れて、過剰に作用しているようなことが多いです。

例えば、がんは正常な細胞の範囲を超えてどんどん増殖してしまう細胞で病的です。ですからその細胞の増殖を抑えたり、死滅させたりすることが治療になりますが、正常な細胞にも効いて増殖しなくなったり、死滅させたりしたら大変ですよね?

ですから、選択性を持たせるというのは薬を作る基本の要素で、毒と薬を分ける要素なのです。選択性はデリバリーのひとつといえます。

薬物動態

医薬品は酵素による代謝、分子サイズや電荷、疎水性による吸収性、分布・排泄などをクリアする必要がある。

いくら生物活性・選択性が高くてもまだ、医薬品になれません。なぜなら、医薬品は吸収されて初めて効果が発揮されるからです。胃に効く薬であれば吸収されなくてもよいかもしれませんが、脳に効く薬であれば、食物繊維のように全く吸収されずに排泄されてしまったら薬になりません。

吸収されやすい薬を作ってもまだだめです。消化器で吸収された薬剤は肝臓を通って全身に運ばれます。この時、例えば肝臓に蓄積して全身に運ばれない(分布)といくら吸収されても意味がありません

吸収・分布してもまだ不十分です。皆さんが普段食べているご飯がそのまま血液中を体をめぐっているか?というとそうではないですよね?つまり、医薬品も消化、代謝を受けること考えなければなりません。作った医薬品がそのままの形を保って全身をめぐるためには化学的にも安定性が高くなければなりません。体は異物を取り除くための機構が多くあります。肝臓では代謝酵素がたくさんあります。それらをかいくぐる必要があるのです。

ならば吸収・分布・代謝を回避すればさすがに良いだろうと思いますが、まだだめです。なぜなら、体内に長期間残ると様々な問題が起こる可能性があります。いくら有害性が低くても飲むごとに体に蓄積して長期間のこれば、閾値を超えて毒性を発揮したり、未知の副作用が発揮される可能性があるからです。かといってすぐに尿や糞便として排泄されても効果が短くなってしまうので、適切に排泄されるようなチューニングが必要です。

この吸収・分布・代謝・排泄をADMEと略します。

これ以外にも高分子であれば、免疫の影響を考慮したり、生物由来の医薬品であれば、ウイルスなどの不純物の混入なども考慮する必要があります。

ドラッグデリバリーシステムの概要

ドラッグデリバリーシステムのアプローチ概略

ドラッグデリバリーシステムは複合的なアプローチで医薬品の選択性や薬物動態を制御します。

  • 薬物の活性の制御 (標的の箇所でのみ効果を発揮する)
    • 代謝の利用 (代謝を受けて活性化する等)→プロドラッグ化、アンテドラッグ化
    • 放出制御
  • 薬物動態の制御
    • 吸収の促進
    • 標的への蓄積→
    • 標的への輸送→抗体や糖鎖、リガンドを利用

ドラッグデリバリーシステムが解決を目指す具体的な課題

DDSは医薬品の高機能化から新規の疾患治療法の開発まで可能な手法となります。

従来の医薬品においては、これまで利用されていた医薬品の様々な課題を解決する方法としてDDSが利用されようとしています。

例1:長期投与が必要な生活習慣病治療薬の改善:降圧薬や糖尿病薬などのホルモン剤、泌尿器疾患、脂質異常症などの疾患は長期投与が必要であり、服用回数の低減や長期投与における副作用の低減が求められます。こうした要求にこたえるために、有効成分そのものを一から開発するよりも徐放性を持たせるなどDDSの手法を利用したほうが現実的です。

例2:副作用の強い抗がん剤:抗がん剤という性質上正常細胞への毒性を回避することは難しく副作用が出やすいのが抗がん剤の宿命です。副作用を低減するためにはがん特異的に作用する薬剤の開発が必要で、その方法としてDDSが利用できます。DDSの多くは抗がん剤への応用を志向しています。標的へのターゲッティングとがん組織内部への浸透性強化などが狙いです。

DDSの例

ターゲッティングの方法論 コンジュゲート医薬

目的の組織や細胞に薬物を届けるための方法としては、薬物の安定性・選択性を高めるという方法があります。例えば膵臓の特定の細胞にしか影響を及ぼさない薬物(膵臓選択的)です。また、薬物の安定性が高ければ血中で代謝をうけずに標的の組織に到達する可能性が高くなります。EPR効果を利用したデリバリーシステムもそのうちのひとつです。

こうした受動的な手法ではなく、アクティブターゲッティング・能動的に標的に到達させる方法としてリガンドを結合する方法(リガンドコンジュゲート医薬)があります。

リガンドとは特定の受容体や抗原に特異的に結合する物質のことです。例えば、抗がん剤においては、正常細胞とがん細胞を比較した際にがん細胞では葉酸という物質と結合する受容体が多く発現しています。そのため、輸送したい物質に葉酸をくっつけるとがん細胞への輸送が効率的に行われるという仕掛けです。

どれだけ標的選択的に輸送できるか?はリガンドの選択性に影響されます。よく利用されるリガンドとしては

  • ペプチドリガンド
  • トランスフェリン
  • 抗体
  • 糖鎖
  • 低分子リガンド(葉酸 etc)

抗体は最も選択性の高い物質ともいえます。抗体と結合させた医薬品は抗体薬物複合体 (Antibody  Drug Conjugate: ADC)と呼ばれています。抗体は分子量が大きく細胞内部に取り込ませることができないので、細胞膜透過が必要な場合は標的到達後に抗体から切り離されるなどの工夫が必要になります。

 

経皮吸収型製剤

皮膚は体を外界から守るバリアとしての機能を持ちつつも、一定の性質を持つ化学物質を透過してしまうことから、注射や内服に代わる医薬品投与の方法として注目されています。ニトログリセリンやスコポラミン、フェンタニル、ニコチン、ステロイドホルモンなどが実用化されています。

皮膚透過する化合物としては既存製剤の性質をみると分子量400程度、LogPo/w=1~4程度であることがわかります。

渡邉哲也. “皮膚適用製剤の現状と展望.” Drug delivery system 22.4 (2007): 450-457.
さらに皮膚への吸収および拡散を目的に化学的に吸収性を高めようとするアプローチもあります。
  • エタノール
  • IPM (ミリスチン酸イソプロピル)
  • Azone (ラウロカプラム) N-アルキルラクタム
などが利用されています。
さらに温熱や電気、超音波、マイクロニードルなどの物理的アプローチも検討されています。
東條角治. “経皮治療システム: 現状と展望.” 薬剤学 70.3 (2010): 162-166.

キャリアーの利用

標的の箇所に届けるのに薬物を閉じ込めた運搬体(キャリアー)を使うアプローチがあります。リポソームは脂質膜からなる油滴でこれの内部に薬物を閉じ込めることで吸収の改善、代謝の回避、標的へのターゲッティングを行います。キャリアーを用いる場合は肝臓における初回通過効果、腎臓における糸球体ろ過、RESによる捕捉などを回避する必要があります。

放出制御型DDS – リザーバー型

薬物をリポソーム等の外膜で包むタイプと高分子体に吸着させるタイプがあります。

リポソームはそのまま利用すると異物除去を担うRESに補足されたり、しますが、ポリエチレングリコール鎖(PEG鎖)で表面を覆うことによって血中安定性を向上させることができます。

放出制御型DDS・モノリシック型

高分子体としては生体分解性ポリマーである乳酸-グリコール酸ポリマーを用いた方法があります。高分子ポリマーはマトリックス内からの薬品をゆっくりと拡散させる方法で薬剤の徐放を行います。

物理刺激応答型

外部から電場や磁場、超音波、電磁波等を与えることによってこれに応答して薬物を放出させる仕掛けを持つDDSがあります。すでに病変がどこにあればわかっている場合そこに超音波などを当ててやればあたった部位だけで薬物が放出されます。特に副作用の強い抗がん剤などでは薬物放出範囲を限定できるので有効です。

ウイルスキャリア

RNAなどの拡散は不安定で投与してもすぐに分解されてしまいます。

我々生物、自然に着目すると、RNAやDNAなどの核酸を効率的に細胞に運搬しているものがいます。それが「ウイルス」です。

ウイルスは標的細胞に自分の核酸を運搬(デリバリー)しているため、不安定な核酸のナノキャリア体としてみれば理想的な構造をしているともいえます。

実際にアデノウイルスなどのウイルスをモデルにしたデリバリーシステムが研究されています。

可溶化

アスピリンなどのような簡単な構造をもつ低分子医薬品は開発し尽くされつつあり、構造多様性を求めて化合物の分子量が大きくなっています。分子量の増加は様々な問題を引き起こしますが、その一つに医薬品化合物の溶解性の悪化があります。

ある程度の水溶性がなければ医薬品として機能しません。したがって可溶化のためにDDSの技術が用いられます。

手法としては医薬品の固体結晶を微細化する「ナノクリスタル法」やシクロデキストリンなどの水溶性物質の内部に包摂させる「包摂化合物を利用した方法」、血液中をめぐるアルブミンなどの血清タンパク質を利用した方法などがあります。

参考文献

1) 瀬崎仁. “ドラッグ・デリバリー・システム.” 薬学図書館 41.1 (1996): 1-5.

2) 吉田亮, et al. “ドラッグデリバリーシステム.” BME 4.2 (1990): 23-33.

3) 菊池寛. “企業的観点から見た DDS 技術の将来展望.” Drug Delivery System 29.1 (2014): 51-63.

4) 宇都口直樹. “DDS におけるリポソーム研究の最前線.” YAKUGAKU ZASSHI 128.2 (2008): 185-186.

5) 高田寛治. “ドラッグデリバリーシステム.” 化学と生物 42.10 (2004): 644-650.

6) 片岡一則. “ブロック共重合体の自己組織化を利用した新規薬物運搬体の創成.” Drug delivery system 10.5 (1995): 363-370.

総説・英語

7) Li, Chong, et al. “Recent progress in drug delivery.” Acta Pharmaceutica Sinica B (2019).

8) Tiwari, Gaurav, et al. “Drug delivery systems: An updated review.” International journal of pharmaceutical investigation 2.1 (2012): 2.

9) Sahoo, Sanjeeb K., Ranjita Misra, and Suphiya Parveen. “Nanoparticles: a boon to drug delivery, therapeutics, diagnostics and imaging.” Nanomedicine in cancer. Pan Stanford, 2017. 73-124.

EPR効果とがんとDDSEPR効果とDDS(ドラッグデリバリーシステム) プロドラッグ: 医薬品設計の化学

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