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抗体薬物複合体 (抗体医薬複合体) : Antibody-Drug Conjucate (ADC)

抗体医薬は生体の免疫機能を担う抗体分子を用いる医薬品です。抗体は非常に高い特性持っていますが、それ自体の生物活性はあまり高くありません。そこで医薬品と合わせたどうなるか?と考えられたのが抗体-薬物複合体 (ADC)です。今回はそんな抗体-薬物複合体について解説します。

抗体医薬の分類

抗体医薬は大きく3つに分類することができます。

  1. リガンドまたは受容体に結合して、シグナル伝達を遮断するブロッキング抗体
  2. 標的分子と結合し、抗体依存性細胞障害活性(ADCC)や保体依存性細胞障害活性(CDCC)を誘導する抗体
  3. 薬剤や放射性物質を結合し、標的分子を発現する細胞特異的に障害を誘導する抗体との複合体

この③番目がいわゆる抗体-薬物複合体と言われるものです。


抗体-薬物複合体 (ADC)

抗体-薬物複合体(抗体-医薬複合体とも呼ばれる)は抗体と医薬品を結合させ、抗体の抗原特異性を利用して薬剤を疾患部位に効率的に行き届かせることを目指した抗体薬のことです。英語だとAntibody Drug Conjugateと呼ばれていて、その略称であるADCがADC医薬品などとして日本語でもよく使われます。現在では、3種類のADC医薬品がすでに臨床で用いられていて、ADCを利用した医薬品候補化合物は、30種類以上が臨床開発、60種類以上が臨床試験されています。

ADCで使われるリンカー

ADC に使われるリンカーは、その名前の通り、抗体と医薬品を連結する部分になります。ADC では医薬品が標的に近い部分で抗体から放たれる必要があり、その効率も重要になります。リンカーと抗体との結合部に関しては、抗体への結合位置や数が重要になります。逆に、リンカーと医薬品の結合部に関しては、放出速度・機構、場所を決定付けます。

Val-Citリンカー

ADCで最も一般的に使用されるリンカーは、Val-Cit あるいは、Val-Ala を含むリンカーで、システインプロテアーゼであるカテプシンBに分解されます。臨床開発中の約半数の ADC で使用されており、ブレンツキシマブベドチンのリンカーとしても臨床応用されています。

一方で、Val-Citリンカーにも課題があり、CRISPER-CAS9システムによってカテプシンBをノックダウンした細胞においても薬物が放出されてしまうことや、カテプシンSやカルボキシエステラーゼ1C (CES1C)によっても除去されることが報告されています。

スペーサー

Val-CitのC末端側に直接医薬品を導入すると、薬物の構造のかさ高さのため、酵素の基質ポケットに入ることができません。そこで、通常スペーサーと呼ばれる直鎖の部分構造(かさ高くない部分)が連結されます。スペーサーには以下の要件が必要になります。

スペーサーに必要な条件

  • 酵素の基質ポケットに基質が入る(かさ高くない)
  • 酵素反応後に薬物から除去できる
  • 外れた際に毒性を持たない

よく知られているスペーサーとして、p-アミノカーバメート基/カーボネート基があります。これらスペーサーは酵素による切断が行われた後、1,6-脱離反応によって薬物から除去され、薬物が放出されます。


臨床応用されているADC医薬品

先程も書きましたが、現在臨床応用されているADC医薬品は3種類あります。

ゲムツズマブオゾガマイシン

ゲムツズマブオゾガマイシンは初めて臨床応用されたADC医薬品です。細胞障害作用を有する抗腫瘍性抗生物質であるカリケアマイシン誘導体とヒト化抗CD33モノクローナル抗体を結合させたもので、白血病細胞を標的とします。

トラスツズマブエムタンシン

トラスツズマブエムタンシンはHER2陽性の悪性腫瘍の治療を目的としたADC医薬品です。トラスツズマブとチューブリン重合阻害作用を持つDM1とをリンカー分子であるN-スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)を介して結合した構造をしています。

ブレンツキシマブベドチン

ブレンツキシマブベドチンは、抗CD30抗体と抗がん剤のものメチルオーリスタチンE(MMAE)を結ぶリンカーがCD30陽性の悪性腫瘍細胞に取り込まれると、酵素的に切断されて、強力な分裂阻害剤であるMMAEを細胞内に放出するようにデザインされています。

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