芳香族ハロゲン化物からフェノールの合成
芳香族求核置換反応でフェノール合成
芳香族ハロゲン化物は置換反応は起こしにくいですが、ニトロ基などの電子求引基を持つものは芳香族求核置換反応を起こしやすくなります。
脱離基としてはF> Cl>Br> Iの順番で反応性が高いです。
ニトロ基、シアノ基、カルボニル基などの電子求引基を持つ芳香環では活性化されているため、芳香族求核置換反応を起こします。
反応条件
ニトロ基などの強い電子求引基により活性化された芳香環のフッ素は芳香族求核置換反応を起こします。塩基性条件下、水溶液を反応させればフェノールに変換できます。複数のハロゲンが入っている場合はフッ素が優先されます。
DMSO(4.0mL)、アリールハライド(4.1g、20mmol)の溶液に水(5.0mL)水酸化カリウム(5.0g)水溶液を加えて100℃で1時間攪拌した。室温に冷却した後、酸性にした後、抽出、精製処理を行い目的物を86%で得た。
芳香族求核置換反応はDMSO、DMF、THF、ジオキサンなどの非プロトン性溶媒を用いて、求核剤として水酸化ナトリウム、カリウムあるいは炭酸カリウム水溶液などを用いて反応させます。
不活性なアリールハライドの加水分解
芳香族求核置換反応が進行にくい臭化アリールやヨードアリールあるいは電子求引基を持たない芳香環の場合は求核置換反応は進行しにくいです。
これらの芳香族ハライドをフェノールに変換するには
- 銅触媒で活性化
- 有機金属試薬に変換後に酸化(グリニャール試薬、有機リチウム試薬)
銅触媒を用いて加水分解
ヨウ化銅や銅粉、酸化銅(I)などを加えてアリールハライドを活性化すると塩基性条件下で加水分解してフェノール合成することが可能です。
ハロゲン化アリール(1 mmol)、n-Bu4NOH・5H2O(544 mg、3 mmol)、およびH2O(0.6 mL)を、CuI(19.0 mg、10 mol%) DMSO(0.4 mL)8-ヒドロキシキナルジン(31.8 mg、20 mol%)の攪拌溶液に0.1時間かけて添加し130°Cで攪拌し、冷却、酸性に調整した後抽出して精製操作を行い目的物を95%で得た。
銅触媒としてはヨウ化銅が良く利用されます。銅粉や酸化銅も使います。また、リガンドとしてビピリジンやL-プロリン、フェナントロリン、エチレンジアミンなどが良く銅触媒では利用されますが、synthesisの論文では8-ヒドロキシキナルジンがリガンドとして有用であることが報告されています。
塩基としてはKOHやNaOH、CsOHなども使われます。
銅触媒以外は銀塩(AgNO3等)やパラジウム触媒などが使われますが効率や価格、入手容易性の面で銅塩が適していると思います。
求核種をフェノールとするとアリールエーテルを作るウルマン反応になります
ウルマンエーテル合成: Ullmann Ether Synthesis
有機金属試薬を経由したフェノール合成
グリニャール試薬などの有機金属試薬はハライドから容易に合成できます。特に臭化、ヨウ化アリールは反応しやすいです。
有機スズ化合物なども利用できます。
有機金属試薬を水で直接加水分解しようとすると、水の水素引き抜きで水素化されます。したがって酸化により合成します。
- 酸素酸化
- 過酸による酸化
- ホウ素化→酸化
があります。
酸素酸化
有機金属試薬は酸素雰囲気下で撹拌することによってフェノールに変換できます。酸素ガスがある場合は簡単ですが、収率の面では過酸を用いたほうが良い場合が多いです。
過酸による酸化
グリニャール試薬やアルキルリチウムはペルオキシドによりフェノールに変換できます。
ホウ素化後に酸化
アルキルリチウムにトリアシルボレート(B(OMe)3)などを作用させるとホウ素化できます。また、パラジウム触媒下、ビスピナコラートジボロンなどを作用させるとボロン酸エステルを導入できます。これらを酸化するとフェノールに変換できます。
窒素雰囲気下で、臭化アリール(10.00 g、34.25 mmol)をTHF(30 mL)に溶解し -78°Cでn-ブチルリチウム(ヘキサン中2.5 M, 4.38 mL、35.96 mmol)をゆっくりと滴下して-78°Cで30分間攪拌後、トリメトキシボラン(4.88 mL、42.81 mmol)を10分間かけて加えます。 室温に温め、1時間攪拌し、反応後0℃に冷却し、AcOH(13. 74 mL、239.72 10 mmol)を加えて、10分間攪拌し、過酸化水素(4.11 mL、134.93 mmol)と水(0.718 mL)をゆっくりと加え、3時間攪拌しました。反応後抽出し、精製操作を行い目的物を82%で得た。
ブチルリチウムでハロゲンーリチウム交換を行った後に、ボロン酸エステル化し、酸化処理を行ってフェノールにします。
ハライド(5.0 g、21.5 mmol)、Pd(dppf)Cl2-DCM(530 mg、0.65 mmol)、ビス(ピナコラート)ジボロン(6.0g、23.6mmol)およびKOAc(6.5g、66.3mmol)ジオキサン(30mL)を窒素雰囲気下で90℃で15時間撹拌した。反応混合物をEtOAcで希釈し、セライトろ過、濃縮し、ショートカラムした後、得られた固体をTHF(125mL)、酢酸(8.5 mL)に加えて0℃に冷却した後、過酸化水素水(15 mL、35%、175 mmol)を滴下して加えて室温で30分間撹拌した。次に、氷水を加えた後、NaHSO3(10 g)を少しずつゆっくり加えて、抽出した後精製操作を行い目的物を77%で得た。
ビスピナコラートジボロンは臭化アリールやヨウ素アリールをホウ素化するのによく使われる試薬で、宮浦ホウ素化などと呼ばれ、鈴木宮浦カップリング反応の基質として良く利用されます。この方法は穏やかに進行しますが試薬が高価なのが欠点です。
得られたアリールボランはブラウンヒドロホウ素化でアルコールを得るのと同様に酸化的に処理してフェノールが得られます。