生物が生きるためには酸素や水と同じように外部から食餌として摂取しなければならない化学物質があります。
体の中で作り出せるものもありますが、作り出せないものが「必須栄養素」です。
サラダ油などの植物油脂、動物油脂(バター)などの脂肪の中にも、必須の栄養素「必須脂肪酸」があります。
リノール酸とα-リノレン酸があります。
必須脂肪酸とは?
三大栄養素の一つである脂質は1gあたり9kcalという高エネルギー源としてだけでなく、体を作っている重要な生体物質の材料になっています。
例えば細胞膜は脂質二重膜といって脂質からできています。
脂肪酸には体で合成できるものと、できないものがあります。体で作り出せないものに関しては、食事から摂取する必要があります。それが「必須脂肪酸」です。必須脂肪酸に当たるものは二重結合を含む不飽和脂肪酸で、いわゆる植物油や魚に多く含まれています。
必須脂肪酸は
- オメガ3脂肪酸:α-リノレン酸
- オメガ6脂肪酸:リノール酸
です。
また、脂肪酸のなかには体で合成することができるので必須ではないですが、生産量があまり大きくないために外から摂取したほうが良いものもあります。
- オメガ3脂肪酸:DHA、EPA
です。DHAやEPAはαリノレン酸から体内で合成することができますが、その量は少ないので食事から摂取したほうが良いです。これらの脂肪酸は健康にも良い効果があるため積極的に摂りたいところです。
必須脂肪酸の必要摂取量
脂肪酸のうち欠乏しやすいのはオメガ3の必須脂肪酸だと思います。脂肪酸はとりすぎも問題になるのでほどほどに摂取する必要があります。脂質のエネルギー源は全エネルギーの20~30%とするべきとされています。
脂肪酸の種類 | 名称 | 摂取量 |
ω-6脂肪酸 | リノール酸 | 4-5 g |
ω-3脂肪酸 | α-リノレン酸 | 2 g |
ω-3脂肪酸 | DHA/EPA | 0.5 g以上 |
オメガ6系の脂肪酸であるリノール酸は摂取しやすく目安摂取量としては7~11g程度とされています。小さじ一杯がだいたい4g程度です。ごま油には小さじ一杯で1g程度のω6脂肪酸を摂取できます。
ω3系脂肪酸は少し取りにくいですが、サバを一切れ食べるとω3系脂肪酸を1.2g、いわしは一尾で2g摂取できます。
必須脂肪酸は不飽和脂肪酸であるため、酸化・分解されやすいのでなるべく生で新鮮なうちに摂取するのが良いとされていますが、焼いたり、調理しても多少は分解減少しますが大丈夫です。
普通の食事を摂っていれば必須脂肪酸の欠乏症が起こることはほとんどありませんが、脂肪酸の偏りが生じることがあります。特にω3系の脂肪酸は不足しやすく、EPAやDHAは魚が主な摂取源となるので、魚を普段食べないヒトは不足しやすいです。意識してこれらの食材を食べるようにして脂肪酸の偏りをなくしましょう。
必須脂肪酸の欠乏症
必須脂肪酸を摂取しないと様々な健康障害が体に現れます。
- 肝臓障害(脂肪肝など)
- 皮膚病 (乾燥、脱毛等)
- 免疫不全
- 血栓形成
- 血小板減少
などがあります。
必須脂肪酸が欠乏した状態で症状が現れるのは数ヶ月ほどかかると言われています。必須脂肪酸が欠乏するとミード酸(5,8,11-エイコサトリエン酸)という異常脂肪酸が増加するためこれを脂肪酸分画試験で調べることでわかります。
ω6系脂肪酸のとりすぎが問題に
リノール酸は植物油脂に豊富に含まれているため、むしろとりすぎが問題になっています。
ω6系の脂肪酸は、アラキドン酸を介して炎症を惹起するロイコトリエンやプロスタグランジン、トロンボキサンが合成されることから、炎症、アレルギー、血栓症などを促進させている可能性が論じられています。
一方でω3系脂肪酸はω6脂肪酸の代謝と拮抗するためバランスが重要と言われています。
生活の中では、脂質を取るというよりもしそ油やえごま油、魚を摂取が重要かもしれません。
参考文献
1)奥山治美. (1990). 必須脂肪酸の栄養生化学. 化学と生物, 28(3), 175-181.