ビルスマイヤー反応は主に芳香族化合物にホルミル基を導入する方法としてよく利用される反応です。芳香族求電子置換反応であるため、アルコキシ基などを含む電子豊富な芳香環では反応が進行しやすいです。
ビルスマイヤー・ハック反応とは?
ビルスマイヤー反応はDMFとオキシ塩化リンによって調製されるビルスマイヤー試薬は求電子性が高く、芳香環と求電子置換反応を起こします。生成したイミンを加水分解するとアルデヒドが生成します。
DMFからビルスマイヤー試薬を生成する試薬はオキシ塩化リン(POCl3)以外にも塩化チオニル(SOCl2)や塩化オキサリル、無水トリフルオロ酢酸なども利用できます。
また、DMFの代わりにDMA(ジメチルアセトアミド)を利用すると生成物はケトンになりますが、反応性はやや落ちます。
ホルミル化方法としては、他にグリニャール試薬を使う方法、ワインレブアミドを使用する方法があります。
ビルスマイヤー反応の反応機構
ビルスマイヤー反応はDMFがオキシ塩化リンに攻撃することから始まります。オキシ塩化リンから生成した塩化物イオンがDMFに攻撃し、リンが酸素をとって脱離して、イミニウム塩(ビルスマイヤー試薬)が生成します。ビルスマイヤー試薬はDMFよりも求電子性が高くなっており、芳香環からの求電子置換反応を起こします。
求電子置換反応によって生成したイミンの中間体は水によって加水分解されて、アルデヒドができます。
ビルスマイヤー反応の条件
ビルスマイヤー試薬の代表的な条件はDMFと塩化ホスホリルを使った方法です。温度は通常25℃以下で行います。
基質
CHに対するホルミル化では、基質としては電子豊富な芳香環(-ORや-NR2等)は向いていますが、ベンゼンやナフタレンなど無置換芳香環は反応が進行しにくいです。一方、ヘテロ環のピロールなど複素環化合物では反応が進行しやすいです。
溶媒
溶媒はハロゲン化炭化水素系の溶媒がよく使用されます(ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、o-ジクロロベンゼン等)。他にはベンゼンやトルエン、THF、ジオキサンを使用することもあります。また、過剰なアミド(DMF,DMA)を溶媒として利用することもできます。アミド類はジメチルホルムアミドがよく利用されます。
酸塩化物類(活性化剤)
ビルスマイヤー試薬の調製には塩化物を使用します。
よく使われる活性化剤は
- オキシ塩化リン(POCl3)
- 酸クロライド類(塩化オキサリル、塩化アセチル、ベンゾイルクロリド)
- スルホニルクライド類(ベンゼンスルホニルクロリド、トリフルオロメタンスルホニルクロリド)
- PCl5
- SOCl2
が使われます。
酸塩化物の違いによって、ホルミル化の位置選択性が変化したり、収率が変化したりします。
特に無水トリフルオロメタンスルホン酸(Tf2O)はアルキルベンゼンなど通常ビルスマイヤー反応を起こしにくい電子豊富でない芳香環のホルミル化も可能です。
Martínez, Antonio García, et al. “A new procedure for formylation of less active aromatics.” Journal of the Chemical Society, Chemical Communications 22 (1990): 1571-1572.
ホルミル化試薬(DMF、DMA, MFA)
ビルスマイヤー試薬の調製に使われるホルムアミド類を変えることによって、ホルミル基やアセチル基などを導入することができます。
ホルミル基の導入にはDMFが最もよく利用されていると思います。
N-メチルホルムアニリド(MFA)はDMFよりも若干収率が良いようです。ナフタレン類やアントラセン類のホルミル化はこちらの方が収率が上がるかもしれません。
影響を受ける官能基
ビルスマイヤー試薬は芳香環のホルミル化だけでなく、カルボン酸の酸塩化物化(DMFを触媒で加える時)や窒素や水酸基も影響を受けます。カルボン酸をエステル、アミド、酸クロライドに変換できます。
アルコールを塩化アルキル、エステル、スルフィド、イミドに変換できます。
ベンゼン上に水酸基やアミンが存在するとそれがビルスマイヤー試薬と反応してDMFの場合はギ酸エステルやホルムアミドができることがあります。
選択性の例
ホルミル化起こりやすい位置があります。
反応例
最もスタンダードなDMFとPOCl3を使う方法は、ファーストチョイスで多くの反応例があります。ビルスマイヤー試薬は0℃で調製して、試薬を滴下後室温に戻して反応させる方法が一般的です。
DMF(200 mL)を氷冷しながらPOCl3(4.07 mL,43.65 mmol)を滴下して加えて、そのまま5分間撹拌します。DMF(20mL)に溶解した基質(4.43 g,29.10 mmol)の溶液を0度で滴下し、全て滴下したら室温に戻して、さらに6時間撹拌後、水(200 mL)およびEtOAc(200 mL)を加えて有機層を分離し、飽和NaHCO3水溶液及び水で洗浄、乾燥、濃縮後、カラムクロマトグラフィー(EtOAc:ヘキサン= 5:1)により精製して目的物を得た(82%) (Feng, Yu et al, JACS, 134(41), 17083-17093; 2012)。
DMFとPOCl3を氷冷で加えたときに固体になって混ぜられないときもあります。POCl3の滴下後に室温に戻して15分程度撹拌した後、再度0℃に冷却して基質を滴下して加える方法をやる時もあります。
イミンの加水分解のために2Mの水酸化ナトリウム水溶液で分液したり、反応後酢酸ナトリウム水溶液中で還流することもありますが、反応後に酢酸ナトリウム水溶液を加えて数十分間撹拌すればイミンを分解してアルデヒドが得られます。
反応後にアルデヒドができたかどうかはDNP発色試薬が便利です。
参考文献
1) RAJPUT, A. P.; GIRASE, P. D. Review Article on Vilsmeier—Haack Reaction. ChemInform, 2013, 44.21.