水素化シアノホウ素ナトリウムは他のヒドリド還元剤と比べて還元力が弱く、イミン選択的に還元反応することが可能です。イミンの還元によりアミンが合成できるので、還元的アミノ化反応によく利用されます。
水素化シアノホウ素ナトリウム (NaBH3CN)とは?
水素化シアノホウ素ナトリウムは酸性条件でも利用できる水素化ホウ素試薬で主にイミンの還元(還元的アミノ化反応)に良く用います。
イミンは酸性条件下で生成しやすいため、酸性条件で安定なNaBH3CNは還元的アミノ化反応に適しています。さらにNaBH3CNはアルコールや水存在下でも比較的安定であるという特徴があります。イミン還元だけでなくアルデヒドの還元も進行するようですがイミンの還元よりもずっと遅いために、通常は問題になりません。
水素化シアノホウ素ナトリウムは酸と接触すると強毒性のシアン化水素が発生します。したがって、NaBH3CNを取り扱う時はドラフト内で使用する必要があります。その点で代替品として水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム(NaBH(OAc)3)やピコリンボランなどが使えます。
水素化シアノホウ素ナトリウムを用いた反応
水素化シアノホウ素ナトリウムの反応は主にイミンの還元(アルデヒドとアミンにより系中で発生させる)で利用されます。還元力が弱いことが欠点ですが、逆にそれが選択性の向上という利点になっています。水素化シアノホウ素ナトリウムで全く還元されないあるいはずっと遅い官能基を以下に挙げます。
- アミド、エステル、ラクトン、ケトン、アルデヒド*、ニトロ、C-X(ハロゲン)、エポキシ
などが挙げられます。還元を受ける可能性があるものとしては
- イミン、イミニウム、オキシム、ヒドラゾン、エナミン
などがあります。
反応溶媒の選択
還元的アミノ化がシアノホウ素ナトリウム利用のメインとなることが多く、その際の溶媒としてはアルコールなどの極性溶媒が多いです。シアノホウ素ナトリウムは多くの極性溶媒を含む溶媒に可溶であり、水でも利用可能です。
- メタノール、エタノール、DMSO、スルホラン、DMF、THF、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン
などが用いられます。酸として塩酸や酢酸を加えることによって還元反応が進行しやすくなるようです。実際にpHを4以下に調製すると不飽和アルデヒドやケトンを還元できます。
水素化シアノホウ素ナトリウムのクエンチ方法
水素化シアノホウ素ナトリウムはシアン化水素が発生するので、取扱はクエンチなどを含めてドラフト内で行います。酸性水溶液で分解して目に見える気体の放出が収まってから処理したほうが安全です。
水素化シアノホウ素ナトリウムを用いた反応条件
水素化シアノホウ素ナトリウムではイミンの還元(還元的アミノ化反応)に最もよく利用されます。添加物として酢酸や塩酸が触媒として加えられることが多いです。溶媒はメタノール、水、THF、ジクロロメタンが多いですが大抵の溶媒は利用可能です。
オキシムの還元
EtOH(10ml)とTHF(2ml)に原料(1.57g,5mmol)を溶解させ、NaBH3CN(1.26g,20mmol)を加えた、続いて0.5HCl-MeOHを撹拌しながら滴下し酸性にした後2時間撹拌した。ついで溶液の色が黄色に変化するまで、1N NaOHを加えて幾分か撹拌した。濃縮後カラム精製して目的物を99%で得た。
イミンだけでなくオキシムのようなC=N結合はシアノホウ素ナトリウムでも還元できます。ヒドラゾンも同様です。
還元的アミノ化
アミンを(S3; 200mg,1.34mmol)をべンゼンで共沸し、アルゴン置換後、乾燥メタノール(2.9mL)に溶解した。メチルオレンジを少量、活性化モレキュラーシーブ(4Å; 150mg)を加えて、撹拌後、シアノホウ素ナトリウム(59.0mg,0.94mmol),続いてアルデヒド体(0.31mL,2.68mmol)およびトリフルオロ酢酸「0.34mL,4.42mmol)を加えて指示薬が赤色に変わるのを確認後、メチルオレンジの色を見ながら適宜酸を追加しながら室温で15時間撹拌し、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液と酢酸エチルを加えてクエンチ後、セライトろ過し、EtOAc(約10mL)およびジクロロメタン(約5mL)でよくセライトを洗浄した後、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム、ブラインで洗浄、後処理後に目的物をカラム精製(combiFlash)し目的物を80%の収率で得た。
水素化シアノホウ素ナトリウムの反応機構
基本的にヒドリド還元剤の反応機構は共通していると考えられます。水素化アルミニウムリチウムの反応機構を参考にしてください。