根岸クロスカップリングについて
根岸カップリングは有機亜鉛化合物とハロゲン化合物とのクロスカップリング反応です。触媒としてパラジウム(Pd)やニッケル(Ni)を使用します。
根岸カップリングの利点としては温和な条件で官能基許容性が高い利点があります。
根岸カップリング反応発見の歴史はGirinard試薬を利用したクロスカップリング反応(熊田クロスカップリング反応)が始まりです。リチウムやマグネシウムなどのアルカリ金属・アルカリ土類金属以外の金属元素からなる有機金属試薬や注目されていました。根岸らは有機亜鉛化合物に着目し、0価パラジウム触媒を用いたカップリング反応が良好な結果を与えることを報告しました。根岸博士はこの功績から2010年にノーベル化学賞を受賞しています。
反応の条件
ハロゲン化合物はR=アリール、アリル、アルケニル、プロパギル、アシルが利用できます。ハロゲンは塩素が最も反応しにくく、臭素やヨウ素、トリフラートが使われています。根岸カップリングにおける反応性の順序は以下のようになっています。
アリル≧プロパギル>ベンジル、アシル>アルケニル≧アルキニル>アリール>>アルキル
Zvi Rappoport, Ilan Marek, The Chemistry of Organozinc Compounds: R-Zn, Patai’s Chemistry of Functional Groups
有機亜鉛化合物の炭化水素はアリール、アリル、アルケニル、アルキニルなどが利用でき、R=塩素や臭素等のハロゲンが入ります。金属元素としては亜鉛以外にアルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)が使われます。
有機亜鉛化合物は一般的に有機リチウム化合物に塩化亜鉛(II)を用いて調製します。
また、有機ハロゲン化合物をTHF中Rieke亜鉛と攪拌することにより有機亜鉛化合物を調製できます。アルキル亜鉛の調製も可能でより官能基選択性が高いです。
有機亜鉛試薬を用いた合成 – Rieke亜鉛でケトン 根岸カップリング
アルキンへの付加反応によって調製できます。
触媒はニッケルとパラジウムが用いられますが、一般的にパラジウム触媒を用いたほうが収率や選択性が高いです。パラジウム触媒として汎用されているものはPd(PPh3)4, Pd(dppf)Cl2がよく用いられています。かさ高いtBu3Pをリガンドとして用いると反応性の低い塩化アリールでも反応進行することが報告されてい余す。
根岸カップリングの特徴
根岸カップリングの反応の利点として、Grignard試薬やアルキルリチウム、スズ化合物などと比べて穏和で官能基許容性が高く(ニトリルやカルボニル、ニトロ基)、立体選択性が高い等が挙げられます。鈴木宮浦反応と比較されることもありますが、有機ホウ素化合物は塩基などを加える必要がない点では根岸カップリング反応に利点があります。
触媒量のPd下では有機リチウムや有機マグネシウム化合物よりも有機亜鉛化合物のほうが反応性が高いという報告もあります。
一般的にアルキル金属を用いた触媒的カップリング反応は困難であることが多いです。根岸カップリング反応は脂肪族アルキル亜鉛化合物を基質に用いることができますが、第二級アルキル亜鉛化合物の場合、トランスメタル化後パラジウム上で還元的脱離によりカップリング反応が完了する前にβ-水素脱離によりアルケンが生じる副反応が起きやすいため基質適用に制限がありました。
H.Chongらは還元的脱離を促進するリガンドを検討したところビアリールジアルキルホスフィンのCPhosを配位子として用いるとβ脱離を抑え、カップリング反応を進行させられることを報告しています。さらにCPhosは不活性な塩化アリールに対しても適応できます。
CPhos / Pd(OAc)2は根岸カップリング反応の触媒系として強力であると考えられます。
Han, Chong, and Stephen L. Buchwald. “Negishi coupling of secondary alkylzinc halides with aryl bromides and chlorides.” Journal of the American Chemical Society 131.22 (2009): 7532-7533.Milne, Jacqueline E., and Stephen L. Buchwald. “An extremely active catalyst for the Negishi cross-coupling reaction.” Journal of the American Chemical Society 126.40 (2004): 13028-13032.
Zhang, Ke‐Feng, Fadri Christoffel, and Olivier Baudoin. “Barbier–Negishi Coupling of Secondary Alkyl Bromides with Aryl and Alkenyl Triflates and Nonaflates.” Angewandte Chemie 130.7 (2018): 2000-2004.
根岸カップリングの反応機構
根岸カップリングの反応機構は多くのパラジウム触媒を用いたカップリング反応と同様の機構で進行していると考えられます。
0価のパラジウム触媒に対してハロゲン化合物が酸化的付加を起こしてパラジウムと結合します。続いて有機亜鉛化合物とのトランスメタル化を経てパラジウム上に2つのアルキル基が入ります。シス付加したPd錯体上のアルキル基は異性化して安定なトランス体に変化しますが、還元的脱離を行うPd錯体はシス付加体です。
実験操作
臭素化物(858 mg、3.97 mmol)、Pd(PPh3)4(140 mg、0.12 mmol)をアルゴン下容器に加え、ヨウ化物から調整した有機ハロゲン化亜鉛溶液(12 ml、34.8 mmol)を加えて16時間撹拌した。 反応後NH4Cl飽和水溶液でクエンチ、抽出して精製処理を行い目的物を83%で得た。
参考文献
1) https://en.wikipedia.org/wiki/Negishi_coupling
2)https://www.nobelprize.org/uploads/2018/06/negishi_lecture.pdf