薬において受容体は酵素と同様に非常に重要なターゲットです。
今回はそんな受容体について分かりやすく解説します。
受容体って何?
受容体は「何かにくっつくことで働くタンパク質」のことです。
例えば心臓は、心臓の壁を構成する心筋という筋肉の収縮と弛緩によってポンプとして働き、血液を全身に押し出しています。この心筋細胞の表面についているのが、β1アドレナリン受容体です。この受容体にアドレナリンがくっつくと、細胞が興奮して、心筋が強く収縮します。このように受容体にくっついて何かしら作用を働かせる化合物を「作動薬(アゴニスト)」と呼びます。またドーパミンもβ1受容体にドッキングして、アドレナリンがドッキングしたときと同じ効果を表すためアゴニストの一種になります。これらのβ1受容体のアゴニストは心筋の収縮力を高めるので、心不全の薬として使われています。
一方、アルプレノロールという薬を投与すると、アドレナリンやドーパミンに変わってβ1受容体にくっつきますが、心筋の収縮が強まるどころか逆に弱まります。このように受容体にくっつくものの、細胞を興奮させず細胞の作用を働かせない化合物を「阻害薬(アンタゴニスト)」と呼びます。
アゴニストやアンタゴニストは総称してリガンドと呼ばれていますが、そちらについては別の記事で紹介しているので気になる方は是非参考にしてください。
リガンドとは?種類について解説!アゴニストとアンタゴニストの違い
以上のように、受容体はリガンドと呼ばれる物質とくっつくことで体の働きを制御しているタンパク質になります。
酵素とは違うの?
酵素も特定の化合物に対して働くタンパク質のことですが、酵素はその特定の化合物に対して何らかの反応を行います。
例えば体の中に入ってくる栄養素は限られていますが、それを酵素によって変換させることで色んな物質を作り出しています。
受容体の場合は、くっついたリガンドはそのままで分解されたり変換を受けることはありません。
受容体の種類
受容体は作用する調節因子(リガンド)によって、言い換えると受容体の化学的な特異性に従って分類されています。受容体の名前はこの分類に由来することが多いです。内因異性の調節因子が未知である場合には、受容体に作用する外因性物質にちなんで命名されることもあります。
現在では種々の伝達物質に対する細胞表面の受容体が多数同定、精製され、そのアミノ酸配列も決定されています。この受容体をアミノ酸の1次配列に基づいて分類することによって少数の受容体サブファミリーが存在することが示されています。サブファミリーに属する受容体は、類似性の高い構造と共通の作用機序に基づいて以下のように分類されます。
- イオンチャネルを制御する受容体
- 固有の酵素活性を有する受容体
- 細胞質内チロシンキナーゼに共役受容体
- Gタンパク質共役型受容体
- 細胞内受容体(核内受容体)
1 イオンチャネルを制御する受容体
いくつかの神経伝達物質の受容体には、細胞膜内にイオン選択的なイオンチャネルを形成しているものがあります。このような受容体は、細胞の膜電位あるいは細胞内のイオン組成を変えることによって神経伝達物質のシグナルを伝えます。このような受容体にはニコチン性アセチルコリン受容体やGABA受容体があります。
2. 固有の酵素活性を有する受容体
このタイプの受容体は、リガンドと受容体の相互作用によって活性化される酵素活性を持っています。例としてはチロシンキナーゼ活性を有する受容体やグアニルさんシクラーゼ活性を有する受容体があります。
3. 細胞質内チロシンキナーゼに共役した受容体
これらの受容体は上記2の固有の酵素活性を有する受容体に近い作用を示しますが、受容体と酵素は別々の2つのタンパク質に存在します。
4. Gタンパク質共役型受容体
多数の神経伝達物質、ポリペプチド、種々の炎症性メディエイターなどはGタンパク共役型受容体と特異的に相互作用することで、細胞内にシグナル電タウをして情報を伝えています。このタイプの受容体の例としては、ムスカリン性アセチルコリン受容体、アドレナリン受容体、ドーパミン受容体、オピオイド受容体などがあります。
5. 細胞内受容体(核内受容体)
細胞内受容体はステロイドや非ステロイドホルモンに対する受容体を含むリガンドに依存した転写因子の一つです。リガンドがない状態においては、これらの受容体は細胞質内、または核内に存在しており、ホルモンなどのリガンドに結合するとホモ2量化して、遺伝子の発現を制御します。このタイプの受容体の中には、糖質コルチコイド、プレゲステロン、エストロゲン、アンドロゲン、糖質コルチコイド、ビタミンD、甲状腺ホルモンなどの受容体があります。
無機塩が細胞内受容体(核内受容体)のリガンドとして作用する事例はあるのでしょうか?
コメントしていただきありがとうございます。
今のところ私の知る限り、無機塩が核内受容体のリガンドとして作用する事例はありません。
一般的に核内受容体のリガンドは、脂溶性ホルモン、脂溶性ビタミンなどの脂溶性リガンドであることが知られています。特に、現在知られているいくつかの核内受容体リガンド(レチノイド、アンドロゲンなど)については、構造活性相関による研究も盛んに行われていますが、基本的に脂溶性(疎水性)部位を有していることが知られています。そのため、一般的に疎水性が高いとは言えない無機塩は、核内受容体のリガンドにはならないと考えるのが妥当かと思います。一方で、核内受容体の中にはリガンドが見つかっていない所謂オーファン受容体もありますので、無機塩が核内受容体リガンドにならないとは断言はできませんが、基本的にはないと考えて良いと思います。
核内受容体やそのリガンドについての詳細は今後記事にもまとめたいと考えています。今後もネットdeカガクをよろしくお願いします。