アミン類を合成したときに窒素が存在しているか?は一級アミンの場合比較的簡単にわかります。なぜなら、ブロードした2H分のピークが観測されるからです。
NMRでアミンのピークが確認できる理由について紹介します。
H-NMRでアミンのピークがブロードする
脂肪族アミンの場合、アミンのピークを見つけるのは簡単です。単純な脂肪鎖よりも低磁場側にブロードしたピークが確認できるからです。
窒素上のプロトンは交換可能ですが、通常はCDCl3などの一般的な溶媒でプロトンピークは観測できます。見にくい場合はDMSOを使うか、使用する試料や重溶媒をよく乾燥させます。
アミン上に存在するプロトンピークは第一級、第二級ともにブロードしたピークとして観測できます。
アミン上のプロトンの化学シフト値は変動する(1~6ppm)ので化学シフト値から予測するのは難しいですが、だいたいは単純な炭素鎖よりも低磁場よりです。
アミン窒素に直接結合した炭素鎖のプロトンは低磁場シフトし、脂肪族の場合は2.2~3.ppmくらいの範囲になります。
産総研のスペクトルデータベースから実際のアミンのピークをみてみましょう。ジイソブチルアミンの例です。1.09ppmはアミンのピーク窒素の隣のメチレンピークは最も低磁場の2.39ppmにあります。
参考 AIST:Spectral Database for Organic Compounds,SDBSジイソブチルアミン(免責事項に同意要)
芳香族アミンの場合はどうなるでしょうか?芳香族アミンの代表例としてアニリンのNMRをChemdrawで予測してみます。
芳香族アミンの場合もアミンのピークはブロードしています。また、NMRデータベースでも確認しましたが、予測値と実測値はほとんど同じ結果です。
参考 AIST:Spectral Database for Organic Compounds,SDBSアニリンのピーク
アミンピークの判別方法
通常はブロードしていてピークの判別が容易ですが、どれか判別しにくいときは
- D2Oを加えてプロトン交換によりピークを消失させる
- 酸を加えてシフト変化をみる(通常低磁場シフト)
があります。重水の添加は観測したいプロトンが交換可能な場合によく利用される方法です。酸を加えて塩にしてから観測する方法も判別が可能です。
アミンのプロトンピークがブロードする理由
NMRピークの線幅が広がる原因はいくつかありますが、一つはプロトン交換によるものです。
アミンやアルコール、カルボン酸などのプロトンはNMR溶液中に存在するプロトン(通常は混入した水)とプロトン交換します。
このプロトン交換を利用して、重水を加えてピークを消失させられます。なぜなら、水素と置換した重水の重水素はNMRでは観測されないからです。また、プロトン交換はNMRの測定温度を上げると加速します。
もう一つは窒素核(14N)がもつ電気四極子モーメントによるものです。
参考 Relaxation (NMR) - Wikipedia取得できませんでした
アミンのH-NMR
脂肪族アミンの隣接する炭素上のプロトン H-NMR
アルコールと比べて電気陰性度が低い窒素は隣接する炭素上の電子密度が低下しにくく、遮蔽効果が相対的に大きいため、アルコールほど低磁場シフトしません。
- エチルアミン:2.7 ppm
- エタノール:3.6 ppm
predicted by Chemdraw, 実測値もほぼ等しい
アミンの窒素がプロトン化されると低磁場シフトする傾向があります。
トリエチルアミン(2.4ppm)とトリエチルアミン塩酸塩(3.2ppm)では窒素の隣の炭素のプロトンは0.8 ppmほど低磁場シフトしています。
ちなみに第三級アミンのプロトン化された窒素のプロトンは11.6ppmに出てきています。
NMRデータ(AIST, SDBS information )
Triethylamine: https://sdbs.db.aist.go.jp/sdbs/cgi-bin/direct_frame_disp.cgi?sdbsno=1288
Triethylamine hydrochloride: https://sdbs.db.aist.go.jp/sdbs/cgi-bin/direct_frame_disp.cgi?sdbsno=3145
テトラブチルアンモニウム塩などの第四級アンモニウム塩はしばしばブロード化したはっきりしないピークを与えることが多いです。
混入すると除去面倒で微量でもNMRにはっきり映り込んでくる厄介者です。シリルエーテル系の保護基を脱保護する際に使用するTBAFなどが代表例です。相関移動触媒などにも使います。
芳香族アミンの隣接する炭素上のプロトン H-NMR
芳香族アミンの場合は誘起効果よりも共鳴効果のほうが強く働くことから、窒素上の孤立電子対が芳香環に流れ込んで電子密度を増加させます。
その結果、窒素が結合する炭素のオルト位とパラ位の炭素上のプロトンは高磁場シフトします。
ケミカルシフトは「パラ位>オルト位」でパラ位のほうが低磁場側になります。
電子密度の増加は共鳴構造を書けば理解できます。
アミンのC-NMR
アミンのC-NMRはH-NMR同様に窒素の隣についたカーボンのピークは低磁場にシフトします。
脂肪族アミンの場合、窒素に隣接する炭素の化学シフト値は通常30~50ppm付近に登場します。
炭素の化学シフト値は第一級アミン(30ppm)<第二級アミン<第三級アミン(50ppm)
と級数が上がるほど化学シフト値は低磁場シフトします。
アミンがプロトン化されると隣の炭素の炭素は低磁場シフトするようですが、トリエチルアミンとトリエチルアミン塩酸塩ではほとんど変化していませんでした(約46ppm)
芳香族アミンの窒素の根本の炭素の化学シフト値は140~150ppmくらいになります。また、H-NMRと同様にオルト位とパラ位の炭素は高磁場シフトします(ベンゼンは128ppm)。シフト値はパラ位>オルト位です。