加熱実験は反応の基本!加熱はなぜ必要なの?
化学実験では加熱は基本操作の一つです。
一般的に加熱することで化学反応を早く進めることができます。
反応しにくい場合は熱を加えて反応の進行を助け、逆に反応が早すぎる場合は冷却したります。
熱を加える目的は以下のように様々です。
実験操作の基本ですが、最も事故が発生する操作の一つであるため注意が必要です。
- 突沸(突然沸騰する)
- 爆発
- 炎上
加熱実験をする場合は正しい知識や方法を用いて安全に行う必要があります。
加熱実験の種類
加熱といってもその目的から方法まで様々です。加熱する目的としては、
- 化学反応の促進
- 溶解、蒸留、昇華などのため(状態変化を起こす)
- 水分など揮発性成分の除去のため
があります。どんな目的なのかによって、使用する加熱の種類も変化します。大きく分けると
- 直火(直接バーナーの火を当てる)
- 間接的な加熱(水浴、油浴、砂浴)
- マントルヒーター
などがあります。有機合成などの場合は特に引火するため、手軽ですが、1の直火は避けたほうが無難です。
1.ブンゼンバーナーを使用した直火加熱(基本は避ける)
バーナーを用いた加熱は簡単で、更に高温を得られるメリットがありますが、事故を起こす危険が最も高いため以下に該当する場合は利用はできるだけ避けましょう。
- 引火性の高い有機溶媒を使用する(特にエーテル等)
- 100℃程度の温度で十分
- 十数度単位で細かい温度調整が必要
- 反応の様子を見ながら温度調整が必要
- 代替の加熱方法を利用できる
バーナーで加熱しても問題ないパターンとしては
- 不燃性の無機物(炭酸水素ナトリウムなど)の加熱反応・乾燥
- ガラス加工・細工
バーナー炎を直接当てるパターンの他、ガラス容器に入れて加熱する場合もあります。
ガラスを加熱する場合は耐熱性のものを利用し、加熱後の急冷は避けましょう。
直火といっても火を直接あてるのではなく、三脚の上にセラミックの金網など敷いて加熱するようにしましょう。長時間加熱するときは、バーナーの下にも不燃性の板を敷いておき、加熱後は触れないようにしましょう。
試験管の加熱は突沸しやすいので揺り動かしながら徐々に熱するようにしましょう。液体を沸騰させるときも、同じく沸騰石などをいれて突沸を防ぎましょう。
バーナーの使い方は下の記事が役に立ちます。
間接的な加熱・油浴(オイルバス)の使用方法(基本は油浴を使用)
浴(バス)を使って間接的に温めるのは、直火のように局所的な急加熱がないため安全であるという利点とフラスコのように表面積が大きいものの加熱の際にまんべんなく全体を温める事ができるという2つの利点があります。浴に使用するものは水、油、砂がありますが、有機合成では油浴がよく用いられます。
100度以下なら水浴でもよいですが、化学反応は水の混入を嫌うことが多いのでやはり油浴を使用することが多いです。
油浴による加熱実験
油浴は天ぷらとおなじく、直火で温める場合もありますが、安全のために電熱式のヒーターが温度調整もしやすく簡単で、安全です。油は市販の植物油を用いることもありますが、パラフィンやシリコンオイルが熱に安定なためによく用いられます。油浴の利点としては、
- 水の沸点よりも高い温度(100℃以上)に加熱できる
- 蒸発した水の混入の恐れがない
- 基本メンテが不要(水浴は蒸発分の継ぎ足しやカビによる水換え・洗浄が必要)
が挙げられます。
油浴は100℃以上に加熱できますが、70度くらいの温度でも油浴を使用することが多いです。水浴では蒸発した水分が混入する恐れがあり、この水が化学反応の進行を妨害する可能性があるからです。したがって大抵は水の混入をできるだけ抑えるために油浴を使用します。また、地味に蒸発した分の水を継ぎ足したり、カビが生えて洗うのも面倒というのもあります。
高温条件では250℃くらいまでなら油浴を使用します。(上限温度はオイルによって変わるので確認すること!)。欠点としては、オイル拭き取るのが大変なこと(ヘキサンなどで拭き取ると良い)と高価(シリコンオイル等)なため交換しにくいという点です。
おすすめのオイルバスは下記のような加熱部と容器が分離しているタイプです。
容器はガラス製にすることでオイルの劣化具合や反応容器の様子も観察しやすいのが利点です。
容器とスターラーが別途必要になりますが金属の一体型だとスターラーの性能がいまいちだったりするので分離型がおすすめです。
水浴による加熱実験
水浴は水の沸点(100℃)まで温めることができます。水浴の利点は
- 安価・簡便
- 水の拭き取りはオイルと比べて簡単
などがありますが、欠点として前述の通り水が反応を妨害することがあるので積極的には使いにくいです。更に水と接触すると激しく反応する物質もあるのでそういった実験には安全上使えません。もちろん加水分解など水が混入してもよいような実験ではもちろん個人の判断で水浴を使用してもよいと思います。
砂浴による加熱
砂浴は直火で温めることにより油浴よりも高い温度で加熱することができるのが利点です。こぼしたりしにくく、拭き取ったりする必要もないので良いです。学生実習でも利用することが多いかもしれません。砂浴は精密な加熱を要求するような反応には不向きです。砂は熱伝導性が悪く、撹拌できないので均一に温めにくいので加熱ムラが起こりやすいです。加熱還流するというような条件以外では使いにくいです。直火を使用することも多く安全上問題があります。
マントルヒーター
電熱線の周りをグラスウールの布で覆った加熱器のことです。高い温度で加熱することができ、油浴と違って付着オイルを拭き取る必要が無いのも利点です。欠点はサイズが大きいのと、撹拌が難しい点です。多いなサイズのフラスコを温める時によく使用するかもしれません。
加熱反応の諸注意点
基本的な加熱の注意点を列挙します
- 直火は避けて、可燃性のものは近くに置かない
- 加熱していることが周りに分かるようにしておく
- 加熱反応は放置しない。監視下に置く。
- 急激な加熱は避ける。できるだけ穏やかにゆっくりと加熱する
- 加熱時は有毒なガスが発生したり、反応が暴走して爆発するおそれもあるのでできるだけドラフト内で反応を行い、換気も良くする。
- 加熱時は器具の密閉は避ける。開放系か、圧力が逃げるような工夫を行う。
- 沸騰させる場合は撹拌子で撹拌するか沸騰石などを入れて突沸を防ぐ。
- 液量は容器の半分以下が望ましく6割は超えてはいけない
- 加熱する容器は耐熱性のものを使用し、ひび割れのあるものは 使用しない
- 蒸留の場合、フラスコ内部の液面の高さは油浴の液面の高さよりも低くする。(フラスコを深めに沈める) 浅くすると熱が加わりにくい
- 反応で加熱する場合はフラスコ内部の液面の高さは油浴の液面の高さと同じくらいか少し高くする(フラスコは浅めに沈める) 油浴の温度は液温度よりも高いことが多く、深くすると析出した化合物が過加熱してしまうから(特に高沸点溶媒の還流などの時)
- 油浴の場合は水を入れないようにする。温度が高いとパチパチとはねて危険。ティッシュを捻ったものを水滴に当てると拭き取れる