ガスクロマトグラフィーは液クロと比べて測定できる分子の制限が多く、そのままでは測定できない分子も結構たくさんあります。
そこで、「誘導体化」といって測定対象の分子構造をいじることで、ガスクロマトグラフィー測定に適した状態にすることができます。
この誘導体化に関して紹介します。
誘導体化でガスクロの欠点を克服
ガスクロマトグラフィーの欠点は
- 沸点が400℃~500℃以下
- 分子量が800~1000以下
- 熱安定性に乏しいものは測定できない
分子量が大きい、極性の高い化合物は沸点が高く、そのままではガスクロによる分析ができません。
こめやん
それでは諦めるしか無いのか?と言われればそうではありません。
誘導体化によってガスクロ測定できるようになる可能性があります。
誘導体化は高沸点化合物に含まれる極性官能基を保護することによって揮発性を上げてガスクロ分析を可能にする方法です。
誘導体化には
- 揮発性を上げる
- 熱安定性を上げる
- 検出感度の増加
- 分離の改善 (固定相への吸着を減らしてテーリング防止)
- 化合物の同定補助 (光学異性体をジアステレオマーに)
などの目的があります。
よく誘導体化される官能基としては、ヒドロキシ基(アルコールやフェノール)、アミノ基、カルボキシル基、アミドなどがあります。
これらの極性官能基は
- シリル化
- アシル化
- アルキル化
などの変換を受けて誘導体化されます。
極性官能基は、活性プロトンを持っていて極性官能基同士で水素結合をします。これによって、分子同士の結びつきが強くなるので、沸点が上昇します。
メタン(CH4)は室温で気体(沸点-164.6℃)ですが、メタノール(CH3OH)は液体(沸点64.7℃)です。アルコールの活性プロトンHをメチル基で置換したジメチルエーテル(-23.6℃)は極性が大きく低下し、沸点も低下します。
ちなみにメタノールはアルキル化という誘導体を受けてジメチルエーテルという分子に変換したことになります。
こめやん
誘導体化法 | 試薬 | 対象官能基 | 利用される物質 | 利点や欠点 |
シリル化 | TMS | アルコール、フェノール、チオール、アミン、アミド、カルボン酸 | 糖類、ステロイド | 高汎用性、アルコールに適する、酸に弱い、 |
アシル化 | Ac、TFA | アルコール、フェノール、チオール、アミン | 反応性が良い | |
アルキル化 | MeI | アルコール、フェノール、カルボン酸 | 脂質 | 安定性が高い、反応性が低め(長鎖) |
誘導体化の方法
シリル化
ヘテロ原子に対するシリル化は誘導体化方法の中でも主要な方法です。
ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基などあらゆるヘテロ官能基を修飾できます。
シリル化の中ではTMS化が最も良く利用されます。
アルコールなどの極性官能基をトリメチルシリル化(TMS化)することで極性が低下し、揮発性や熱安定性を向上させられます。また、マススペクトルの解析もしやすくなります。
シリル基の欠点は酸性条件に弱いことです。(TBS基はTMSよりも加水分解に対して安定)
TMS化反応は良く研究されていて、試薬の反応性は
TMSIM>BSTFA> BSA > MSTFA > TMSDMA> MSTA >TMCS(TMS-Cl) >HMDSです。
アルコールのシリル化は進行しやすいですが、アミンはシリル化が反応しにくいです。
アシル化
アルコールやアミンをアシル化すると求核性を低下させて、反応性や極性を低下させて揮発性をあげます。
アシル化には
- アセチル基
- トリフルオロアセチル基 TFA
- ペンタフルオロプロピオニル基 PFP
- ヘプタフルオロプチリル基 HFB
などがあります。
アシル化剤はアミンなどに対しても反応性が高く、誘導体化しやすいメリットがあります。
アシル化の中ではTFAが良く利用されます。フッ素を含むため、感度の低い化合物に対して、ハロゲン検出が得意なECD検出器による感度向上効果が期待できます。
アルキル化
カルボン酸のアルキル化はエステル化とも言われます。
カルボン酸は非常に極性が高いですがエステルにすると沸点が大きく低下します。脂肪酸の分析ではエステル化が使われます。
特にシアゾメタンを利用したメチルエステル化は副反応が少なく、高収率で得られることから多用されます。安全性を考慮するとトリメチルシリルジアゾメタンが有用です。
リノレン酸などの高級脂肪酸は分子量も大きく沸点も高いですが、カルボン酸部位をアルキル化することによって沸点を大きく下げることができます。
参考文献
シグマアルドリッチジャパン、スペルコ事業部、ガスクロマトグラフィー用誘導体化試薬他