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毒ガスのまとめ 毒ガス化学兵器

「毒薬変じて薬となる」という言葉があるように、実際に薬と毒というのは非常に近いものです。

生物の体は絶妙なバランスで成り立っています。例えば睡眠薬も不眠症の人にとっては安眠のための良い薬になりますが、もしもその量を間違えて大量に飲んでしまえば、鎮静作用が強すぎて呼吸停止、心停止などを起こして死亡します。また、逆に毒ガスとして使われた「マスタードガス」もその毒性の強さに注目され、がんを殺す薬、抗がん剤として利用されています。

化学物質が恐怖、危険、悪者というイメージをもたれがちな理由の一つとして、「化学兵器のイメージ」があるのではないでしょうか。

毒ガスは大量破壊兵器(NBC兵器)

化学兵器は大量破壊兵器(NBC兵器:Nuclear(核)、Biological(生物)、Chemistry(化学))の一つです。

化学兵器とは

化学物質、化学反応を利用した兵器のことで、20世紀以降の科学の発展によって大量に作られた。「毒ガス」「煙幕」「枯葉剤」「焼夷弾」などがある。

化学兵器のなかでも悪名高いのは「毒ガス」でしょう。

毒ガスは毒性の気体という特性上、対処されない場合一度に大量の人間に被害を及ぼすことができ、さらにものによっては持続性があるという長所があります。他の大量破壊兵器と比べると比較的簡単に開発できるという点も特徴の一つです。

毒ガスには致死性のものと非致死性のものがあります。

非致死性の毒ガス:嘔吐剤

嘔吐剤はその名の通り嘔吐を引き起こす化学兵器です。

有名な嘔吐剤はアダムサイト、ジフェニルシアノアルシン、ジフェニルクロロアルシンなどの有機ヒ素化合物です。

アダムサイトはドイツ生まれで1918年にアメリカ合衆国で初めて使われました。後遺症が残らないために無力化ガスとして使われました。最小刺激量が低く微量を空気中に漂わせるだけで効力を発揮する。ジフェニルシアノアルシン、ジフェニルクロロジフェニルアルシンは旧日本軍が開発された通称あか剤と呼ばれた化学兵器です。

ここで見慣れない数字ICt50とLCt50があります。

ICt50は50%の人員を無力化できる使用濃度と時間の積です。

LCt50は半数致死濃度時間、50%の人員を殺害できる使用濃度と時間の積です。

非致死性の毒ガスはICt50とLCt50が3桁以上離れていることが好ましいです。近すぎると無力化したいのに死亡させてしまうといったことが起きるからです。

取り上げた嘔吐剤は有機ヒ素化合物で馴染みない人がおおいと思いますが、戦前はその毒性の高さから非常によく研究されていました。他の化学兵器にも有機ヒ素化合物は多くあります。

毒ガスの一種、催涙剤は安全?

催涙剤は鼻や目粘膜に作用し咳やくしゃみ、流涙を引き起こす化学物質です。作用は数時間程度で収まるものが多いです。

催涙剤に対する誤解の一つに「無害」とか「ただの刺激物」というイメージがありますがこれは誤りです。唐辛子スプレーなど食品と関連付けられたイメージのせいだと思いますが、浴びることによって、暴露患部に浮腫や充血など、完治まで数週間かかるような傷害を与える危険性があります。冗談でも他人にかけないようにしましょう。

代表的な催涙剤

クロルピロリン
ブロモベンジルシアニド(BBC gas)
クロロアセトフェノン(CN gas)
オルトクロロベンジリデンマロノニトリル(CS gas)
ジベンゾ-1,4-オキサゼピン(CR gas)
カプサイシン(OC)

CRガスはイギリスで開発された催涙ガスですが、高濃度で用いると致死性があったり、発がん性が認められたことから現在は使われていません。現在最も使われているのはCNガスで、日本でも使われています。旧日本軍ではみどり剤として呼称されていました。涙、鼻水、くしゃみなどの症状がでますが、30分程度で回復し、後遺症は残らないとされています。CNやCSガスはニトリルを含むため、避けられています。

分子構造を見るとベンジル位付近に電子求引性基が結合した化合物は催涙性を示すのでしょうか?

催涙剤の作用機序

催涙剤の詳しい作用機序はわかっていないことも多いです。催涙剤の分解によって生じる酸などの副生成物が刺激を与えることも考えられます。

CRガス、カプサイシンなどは温度感受性TRPチャネルという受容体に結合することがわかっています。

温度感受性TRPチャネルとは:温度や化学的、物理的刺激を感受するセンサーとして、多種多様な生体機能に関わっている。TRPには6つのサブタイプ(TRPV、TRPM、TRPA、TRPP、TRPML、TRPC、[TRPN:哺乳類にはない])が見つかっています。

これらの機能は体温調節に伴う生理機能(血管拡張、血流増加、腸管運動など)を調節します。

カプサイシンはTRPV1チャネルに結合して、活性化します。このTRPV1は痛み、酸、熱などによっても活性化します。よく辛味は痛みと言われているのはこれが原因です。

CRガスはTRPAチャネル(わさびやからしが結合する部位)を刺激します。わさびを食べると涙がでますからね。


Science of Kampo Medicine 漢方医学,Vol.37 No.3 2013より引用

催涙剤は護身用として販売されていますが、この護身用催涙スプレーを巡って様々な問題が起きています。1つは犯罪者に利用される。2つは軽犯罪法に違反するです。殺傷せずに相手を無力化する道具は、護身ならば正しい使い方ですが、誘拐、強奪に使う場合は悪い使い方となります。薬と毒の関係にも似ていますね

ちなみに実際に起きた事件では、2011年4月に19歳の女性が夜間に不審者に橙色の液体状のものをかけられて救急搬送、両目角膜びらん、眼瞼結膜の浮腫がみられた。このとき使用されたのは催涙スプレーに使われるカプサイシン系催涙剤だった。

2007年男性がサイクリング中に職務質問を受けた際に携帯していた護身用催涙スプレーを「正当な理由なく刃物や鉄棒、その他人の生命を害し、または人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」を罰するという軽犯罪法の規定に違反するとして書類送検し、科料9000円とした。裁判は最高裁まで行き、最終的に1審2審の判決を退け、無罪とした事件です。しかし、その後も、警察官に捕まり、軽犯罪法違反だとされるケースが散見されるため注意が必要です。自宅、職場に置いておく限りは平気ですが、持ち歩く場合警察に逮捕される恐れがあります。

マスタードガス、VXガスなどの効果

致死性の毒ガスはたくさん種類があります。神経に作用する神経ガスや窒息させる目的の窒息ガス、接触した部位に浮腫などを起こす(やけどのような状態にする)びらん剤などがあります。

神経ガス
G剤
タブン(GA)
サリン(GB)
ソマン(GD)
エチルサリン(GE)
シクロサリン(GF)
GVガス

V剤
VEガス
VGガス
VMガス
VXガス

窒息ガス
ホスゲン(CG)
塩素ガス
クロロピクリン(PS)
ジホスゲン(DP)

びらん剤
ルイサイト
サルファマスタード
ナイトロジェンマスタード
ホスゲンオキシム

血液剤:血液成分、ヘモグロビンに作用して窒息させる。
青酸ガス(HCN)
アルシン(AsH3)
シアノクロライド(CNCl)

こんなにたくさんの毒ガスが開発されています。
こういう構造を作るときは注意が必要ですね。比較的簡単な構造でありため、知らず知らずのうちに猛毒の化学物質を合成している場合がありえそうですね。意外と毒性の化合物について学ぶ機会は少ないので。

テロリストに利用される毒ガス

化学兵器禁止条約によって現在、多くの毒ガスは軍事用途では使用さてていません。

しかし毒ガスが戦争以外で悪用される事件が起きています。何故かと言うと

「比較的簡単に大量の人を殺害する兵器を作ることができ、効果も持続する」ということから脅威の大きい破壊兵器を小さな組織でも手に入れられるからです。

代表的な事件は1995年日本で起きた地下鉄サリン事件です。テロで化学兵器が使われ、無差別に民間人を殺害した最初の例であると言われています。サリンは亜リン酸トリメチルからメチル化、塩素化、フッ素化、アルコキシ化といった手順で知識があれば作れてしまいます。サリン製造に国立大卒のエリートが関わっていたことが社会に衝撃をあたえました。

21世紀はテロリズムの時代だと言われるほどテロが多いです。いつ化学兵器が使われるかわかりませんが、日本もテロの標的に指定されていることからサリン事件のようなまたあの凄惨な事件が起こるかもしれません。

毒ガス被害にあったときの対処

毒ガスと言っても化学知識がある方であれば構造式を見ればほとんどの毒ガスは常温で液体のものが多いことがわかると思います。そのため揮発性の高い溶剤に溶かして噴射するようなエアロゾルのようにして使われます。

対処法

1.できるだけその場を離れる

2.風下を避ける

3.謎の液体物には決して触れない。倒れている人もにも触れない。

4.できるだけすぐに医療機関で治療を受ける

適切な治療薬、アトロピン、PAM、ジアゼパム、チオ硫酸ナトリウムなどをできるだけ早く使用します

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