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細菌と人間のリボソームの違い 50S & 30S or 60S & 40S

リボソームは細菌(原核生物)と人間(真核生物)とでは異なる

DNAなどの核酸が生命の設計図ならその情報をもとに生体物質(タンパク質)を作り出す工場にあたるのは細胞内にあるリボソームです。

Peptide syn

mRNAリボソームが読み込んで対応するアミノ酸tRNAを受け取りタンパク質(赤のチェーン)を作る様子(転写と呼ばれる) Boumphreyfr vector conversion by Glrx, CC BY-SA 3.0

このリボソームがなければタンパク質を作れないのでとても重要な器官です。

つまり、リボソームが働かない状態とは死を意味します。リボソームの働きを阻害する物質があれば生物にとっては毒になります。そして一部の抗生物質はこのリボソームの働きを阻害する薬剤です。

テトラサイクリンとストレプトマイシン

テトラサイクリンとストレプトマイシンは細菌のリボソームの働きを阻害する

こめやん

抗生物質でリボソームが働かなくなるなら人間は大丈夫?

人間が服用しても問題ないのはこれらの抗生物質が細菌のリボソームを選択的に阻害するからです。

細菌のリボソームと人間のリボソームは構造に違いがあり、細菌のリボソームにだけ作用するように設計されています。

ミトコンドリアのリボソーム

 真核生物のリボソームといえば細胞内の粗面小胞体にあるあるリボソームを指しますが、真核細胞にエネルギーを供給する細胞小器官のミトコンドリアにも実はリボソームがあります。ミトコンドリアは自身のゲノム、リボソームを持っています。ミトコンドリアの由来は原核生物(細菌)にあるため、細菌を標的とした抗生物質も真核生物のリボソームが影響を受ける可能性があり、それが抗生物質の副作用の原因になっている可能性があります。

ref) Yang, Jason H., et al. “Antibiotic-induced changes to the host metabolic environment inhibit drug efficacy and alter immune function.” Cell host & microbe 22.6 (2017): 757-765.



リボソームの違い

リボソームは大・小2つのサブユニットからなるたんぱく質です。

大サブユニット小サブユニット Vossman, CC BY-SA 3.0

人間(真核生物)のリボソーム(80S)は60Sの大サブユニットと40Sの小サブユニットからなります。

細菌のリボソームは(70S)は50Sの大サブユニットと30Sの小サブユニットからなります

細菌と人間のリボソーム

細菌と人間のリボソーム

60Sと40Sの合計が100Sではなく80Sの理由

60SのSは沈降係数(スベドベリ単位)を表しており、これはタンパク質が沈降しやすさを表すもので、タンパク質の分子量を表すものではないからです。一般的に大きい粒子ほど分子量が大きく沈降しやすいのですが、ふわふわの綿の落下が遅いように分子の構造などによって沈降しやすさは変化します。60Sと40Sが合体したリボソームの沈降係数はもと2つの構造とは異なるものであり、単純に足し算した100Sにはなりません。

先に挙げた抗生物質・テトラサイクリンやストレプトマイシンは細菌のリボソーム小サブユニット30Sに結合してtRNAの結合を阻害することによって細菌のタンパク質合成を働かせなくします。

標的は細菌の30S以外にも大サブユニット50Sでもよく、クロラムフェニコールやマクロライド系抗生物質(エリスロマイシン)はリボソーム50Sを標的としています。

ちなみに有名な抗生物質であるペニシリン(βラクタム系)は細菌の細胞壁の合成を妨げることによって抗菌作用を示します。(人間の細胞には細胞壁はありません)

創薬では細菌と人間のリボソームの違いに着目して医薬品開発を行います。抗がん剤も正常な細胞の状態とがんの状態の違いに着目しています。医薬品づくりは病気の原因を分子レベルで理解することから始まるのですね。

参考

  1. 永武毅. “7. テトラサイクリン薬.” 日本内科学会雑誌 92.11 (2003): 2141-2148.
  2. Brodersen, Ditlev E., et al. “The structural basis for the action of the antibiotics tetracycline, pactamycin, and hygromycin B on the 30S ribosomal subunit.” Cell 103.7 (2000): 1143-1154.

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