アミドはLiAlH4などの還元剤によって還元されてアミンに変換されます。アミンのアルキル化は単純な反応ですが制御が難しいことから、比較的簡単に合成できるアミドからアミンを合成する方法は有用です。アミドは還元されにくいためLiAlH4など強力な還元剤を使うことが多いですが、近年はアミド選択的な優れた還元方法が続々と報告されています。
本記事ではアミドを還元してアミンを合成する方法を紹介します。
アミドからアミン合成する方法は有用?
アミドはカルボン酸とアミンの脱水縮合により合成します。アミドは酸塩化物や種々の縮合剤を用いることで簡単に得られることから、入手性容易な基質です。LiAlH4などの還元剤を用いれば高収率に第1~3級アミンが得られます。
アミン合成の難しいところは、アルキル化の制御が困難なところです。ハロゲン化アルキルとアミンとの置換反応によりアルキル化を行うと過剰にアルキル化が進行して目的のアミンが得られないことが多々あります。
こうした問題を回避するため、様々なアミン合成法が開発されてきました。
これらの方法に対してアミド還元法のメリットは
- カルボン酸、アミンともに安価で入手性が良い(アルデヒドは合成が必要な場面が多い)
- アミドの合成は信頼性が高い反応(簡便、多種、穏和、選択的)
- ステップ数が少ない(保護・脱保護は不要)
- 一般的な試薬を使う(だいたい研究室にある)
などがあります。アミドを還元する方法の最大のデメリットは還元反応の選択性です。アミドを還元する条件ではエステルを始め、多くの還元を受ける官能基が還元されてしまうため、合成終盤の基質には適応しにくいです。
しかし、最近はアミドを選択的に還元する温和な還元方法が開発され始めているため、アミド還元法によるアミン合成の有用性が増しています。
アミド還元の条件
アミドはカルボニル系化合物の中では還元反応を受けにくいです。ヒドリド還元剤でもNaBH4、LiBH4などでは還元されません。LiAlH4、Red-Al、DIBAL、BH3、Et3SiH、などがアミドの還元に使用されます。
Red-Alを用いた条件
トルエン(2 mL)のアミド(0.504 mmol、200 mg)溶液を0°C Ar下で3.0 M Red-Al(3.5当量、1.76 mmol)を滴下して加えて室温に戻しながら12時間撹拌し、反応後0℃に冷却し、10%NaOH水溶液でクエンチ、抽出、カラム精製により目的物を91%で得た。
二つのアミドを一挙に還元しており、高収率で得られています。Red-AlはLiAlH4よりも安全性が高い還元剤であるため大スケールでもやりやすいです。Boc基やラクタムなどは還元を受けにくいので選択的に還元できます。
LiAlH4で還元
LiAlH4でももちろんアミドは還元可能です。
ホルムアミドやアセトアミド、TFAアミド、ベンゾイルアミドなどはカルボニルの還元だけでなくカルボン酸部分が外れてアミンになることがあります。
BH3で還元
BH3はLiAlH4などと比べて選択性が高いです。還流条件などが必要になることもありますが、ニトロ、ニトリル、エステル存在下アミドを還元してアミンすることも可能です。
基質(500 mg、2.41 mmol)のTHF(10 mL)の溶液に、0°でボラン-ジメチルスルフィド錯体(0.3 mL、3.13 mmol)を加えて室温で1時間撹拌した。反応混合物をMeOH(5 mL)でクエンチし、濃縮、カラム精製して目的物を91%で得た。
ホルムアミドをエステル存在下選択的に還元してメチルアミンに変換できます。ホルムアミドを使えばアミンのモノメチル化も容易にできます。
最近のアミド選択的還元方法
ベンゾチオフェン骨格を持つボロン酸とシランを使った還元ではエステル、アリールハライド、ベンジル、ニトリル、ニトロなどの存在下で選択的にアミドを還元できることが報告されています。ベンゾイルも開裂せずにベンジルアミンを中程度の収率で得られます。欠点はボロン酸が入手しにくく高価なところです。
Li, Yuehui, et al. “Selective reduction of amides to amines by boronic acid catalyzed hydrosilylation.” Angewandte Chemie International Edition 52.44 (2013): 11577-11580.
参考文献
総説
Volkov, Alexey, et al. “Chemoselective reduction of carboxamides.” Chemical Society Reviews 45.24 (2016): 6685-6697.