トリフェニルメタン (Ph3CH)はメタン (CH4)のうち、3つの水素がフェニル基(ベンゼン)に置換した化合物です。トリフェニルメタン自体はあまり有名ではないかもしれませんが、多くの色素の基本骨格になっていて、塩基性の指示薬であるフェノールフタレインもトリフェニルメタンの構造を持っています。
こめやん
色素の基本構造 トリフェニルメタンって何?
トリフェニルメタンは一つの炭素にベンゼンが3つもついた分子です。見聞きすることは少ないかもしれませんが、意外と身近な物質でもあります。
例えば、フェノールフタレインなどの多くの色素の基本骨格になっています。また、トリフェニルメチル基のことを「トリチル基」と呼び、水酸基の保護基として利用されています。
酸性度 pKa
3つのフェニル基に囲まれた炭素についている水素は通常の炭素についた水素よりも「酸性度が高く、外れやすい」です。そのためトリフェニルメタンのpKaは33になります(ブタンpKa >50)。
その理由は3つのベンゼンに囲まれた炭素はベンジル位に相当する部分であり、カルバニオンがフェニル基による誘起、共鳴安定化を受けるためです。
ベンジル位はカルバニオンもカルボカチオンもラジカルも安定化されるため、様々な有機反応に利用されます。
トリフェニルメタンの立体構造
トリフェニルメタンの立体構造は一体どうなっているのでしょうか?トリフェニルメタンのX線結晶構造を見てみると
注目ポイントはベンゼン環同士が同一平面上には並んでおらず、ねじれていることです。
これはベンゼン環同士の立体障害によるものだと考えられます。上の画像はカルバニオンではありませんが、SP2になってもベンゼン環同士はねじているようです。
つまり、共鳴も同時には一つのベンゼンとしか働かないようですね(VELDMAN, N., et al.Acta Crystallographica Section C: Crystal Structure Communications, 1996, 52.1: 174-177.)
トリフェニルメタンのNMR
トリフェニルメタンのNMR(予測)は下図のようになっています。
トリフェニルメタンは定量NMR (qNMR)の標準物質としても利用されています。
トリフェニルメタン構造を持つ色素の一覧
- フェノールフタレイン
- マラカイトグリーン
- ブロモクレゾールグリーン
- チモールブルー
- ブロモチモールブルー
- フェノールレッド
- ブロモフェノールブルー
- ブロモクレゾールパープル
- クリスタルバイオレット
- フクシン
- パラロゾール酸
- ブリリアントグリーン
トリフェニルメタン系の色素はたくさんの種類があります。置換基の種類によって色が変化しています。トリフェニルメタン系の色素はアミノ基(アニリン)が多いので「塩基性染料」と呼ばれています。パテントグリーンなどは酸性官能基のスルホニル基(SO3H)がついているので「酸性染料」と呼ばれています。
トリフェニルメタンにカルボン酸やフェノールなどの脱プロトン化可能な官能基が入ると液体中の水素イオン濃度(プロトン濃度)によってプロトン化、脱プロトン化が段階的に起きます。さらにカルボン酸が橋頭位の炭素に攻撃してラクトンを形成すると無色になります。この仕組を利用しているのがpH指示薬です。フェノールの周辺に臭素などを入れることでフェノールの酸性度を上げる(プロトンが外れやすくなる)とより酸性領域での色の変化を観察しやすくなります。