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ピニック酸化について
アルデヒドの酸化によってカルボン酸を得る反応の代表例がピニック酸化です。
種々のアルデヒドに対して、亜塩素酸ナトリウムと除去剤(スカベンジャー)を加えて対応するカルボン酸に変換します。
ピニック酸化の特徴
ピニック酸化は従来の亜塩素酸ナトリウムを使った反応において問題となる副生物の次亜塩素酸による問題を解決した反応です。
反応とともにピニック酸化では反応性の高い次亜塩素酸が生成します。
この次亜塩素酸(HOCl)はアルケンと反応してクロロアルカンを生成してしまうため、不飽和アルデヒドの酸化には向いていませんでした。
そこで、ピニック酸化ではあらかじめアルケンを加えてやることによって副生物の次亜塩素酸を反応させてしまうことで、副反応を抑えることに成功しました。
スタンダードなピニック酸化では次亜塩素酸除去剤として2-メチル-2-ブテンを加えます。これを加えると下図のように次亜塩素酸が反応してトラップされます。
スカベンジャー
除去剤としては2-メチル-2-ブテンが最も一般的です。
他には、過酸化水素、レゾルシノール、スルファミン酸などが使われます。
2-メチル-2-ブテンは大過剰用います。沸点が低いので蓋を開ける前に容器を冷やす工夫をしましょう。
2-メチル-2-ブテンを除去剤として用いた場合には二重結合はまったくクロロ化されませんが、H2O2のような他の除去剤を用いた場合には共役していない二重結合は反応してしまうことがあります。
NaH2PO4は何のために加えるのか?
pH値を一定に保つために、数当量のNaH2PO4を用います。中性付近で反応させるのが好ましいようです。
基質の純度が低いと酸化が数%の転化率で止まってしまう場合があります。アルデヒドはなるべく精製したものを用いるのが良いでしょう。
アルデヒドのα位の不斉中心は保持されます。官能基選択性は高く、ヒドロキシ基は酸化されないので、保護する必要はありません
反応機構
実験操作
一般的操作法
アルデヒドと大過剰の除去剤をt-ブチルアルコールに溶かし、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)緩衝液とNaCIO2の混合水溶液を室温で滴下するのが、典型的な実験手順になります。
通常1当量を少し超える程度のNaCIO2が必要ですが、この溶液は反応の直前に水あるいはリン酸緩衝液に溶かして調製するのがベターです。直前に調整することで、光の照射あるいはFe2+、Fe3+錯体などの不純物の混入による分解を避けることができます。遷移金属存在下、NaCIO2の酸溶液は不安定なので、酸化剤の添加に金属のシリンジよりもパスツールピペットが適しています。2-メチル-2-ブテンは、90%程度の純度のものではなく、純品あるいは2MのTHF溶液を用いるのが良いです。
反応例1
80%亜塩素酸ナトリウム(0.246 mol) NaH2PO4(0.286 mol)蒸留水250 mlの溶液中をアルデヒド(33.8 mmol)2-メチル-2-ブテン(55 ml)、アセトン(210 ml)溶液に5時間かけて滴下して加えました。滴下後さらに2時間室温で撹拌したのち、抽出操作により得られた残渣をカラムして精製し目的物を85.1%の収率で得た。
一般的なピニック酸化の条件です。不飽和アルデヒドも異性化することなく酸化を行うことができます。
詳しい解説ありがとうございます。
基質の純度が低いと酸化が数%の転化率で止まってしまう場合がある、とのことですが、これはどのような理屈なのでしょうか?
コメントいただきありがとうございます。
>> 基質の純度が低いと酸化が数%の転化率で止まってしまう場合がある、とのことですが、これはどのような理屈なのでしょうか?
基質となるアルデヒドの反応性が高いため、不純物との反応が優先してしまう可能性があるためです。特に脂肪族アルデヒドの場合は反応性が高いため、基質の純度には十分留意する必要があります。