科学的根拠に基づいた教育とは?
科学的根拠に基づいた教育とは「教育の施策や方法の効果、有効性は客観的な根拠に基づくべきという原則」のことです。
エビデンスに基づく教育 (Evidence-based education : EBE)とも呼ばれます。
- 本当に意味のある教育とは何か?
- 効果的な学習法は?
上記の問いに信頼性をもって答えるためには実践して結果を評価する必要があるはずです。
例えば医薬品は「本当に効果がある」と言うために、信頼性の裏付けとなる根拠を慎重に調べて評価しています。
これと同じようなことを実際に教育で実践しようということです。
「私はこのスペシャルティーを飲んだらインフルエンザが治りました!」
といわれても信用できないですよね?たまたまかも?他の人はどうなの?とか気になるはず
教育における客観的な根拠とは?
これまでの教育方法は教師の「主観的な判断」や「伝統」に基づいており、客観的な根拠が不十分でした。
- 教師の私はこれが効果があると思う → 教師の主観的な判断
- 昔から実践されていた授業方法 → 伝統の方法
実際に私たちが受けてきた教育の中には本当に効果があるのか?どのくらいの効果があるのか?実際に検証せずに「効果があるだろう」とか「やらないよりましだろう」「昔からやっている」などと感覚的に実践されていることがたくさんあります。
宿題、実は無意味?
皆さん宿題は好きですか?
私はできればやりたくありません。
学校では当然のように「宿題」がありますが、本当に効果があるのでしょうか?
効果がないのにやっている。他にやりたいことがあるなら、これほど無駄なことはありません。
- 昔からやってるし(伝統)
- 勉強するんだから効果はあるでしょ(感覚)
- 家で学習する習慣を身につける機会になる(教師の主観)
こうした適当な理由では、実は無意味という可能性があるかもしれませんね。
科学的根拠に基づいた教育はこうした無駄をなくして本当に効果がある方法を実践していきましょう。という取り組みの一つです。
こめやん
意味の有無ではなく効果の大小を問う
目的を持って何かを実践している以上、全く意味が無いことはないでしょう。
ですから、意味の有無ではなく、効果が大きさを知ることが重要です。
教育には莫大な金銭的、時間的コストが教師・学習者両者にかかるので、少なくともマイナスの効果をもたらすもの、効果が少ないものを積極的に利用するのは控えたいというのは当たり前の感覚だと思います。
効果の大小を測るために「科学的根拠に基づいた教育 (Evidence-Based Education)」が有用です。
教育のアップデートのためにEBEで教育を再考する
科学的な根拠に基づいた教育の実践は効果的な教育を見出す以外にも、時代遅れで無意味な教育の排除することにも役立ちます。教育手法には低有効性・低コストのものから、高有効性・高コストのものもあります。教育現場によってどの手法を取り入れ、組み合わせるのがよいのか?という判断にも役立てられます。
伝統的な実践は玉石混交で全く無意味なものも混じっています
客観的な科学的根拠は無意味な伝統を打ち破るのに有用であることを歴史が証明しています
科学的な根拠に基づいたOOは従来の直感的・伝統的・主観的な判断で実践されてきたあらゆる方法や理論などに対して「科学的な根拠」を求めようという動きです。
科学的根拠に基づいた医療(EBM)が1992年に導入されて以来、様々な分野で「科学的根拠に基づいた実践」が浸透してきています。
直感や伝統、主観的な判断や実践が悪いというわけではありませんが、科学的根拠を考えることで無意味な慣習や差別などが排除されてきた歴史があります。例えばハンセン病は
- 呪いや天罰といった宗教観に基づく差別
- 感染力が非常に低いにも関わらず取られた強制隔離政策
- 菌により汚染された血液を抜くという伝統的な瀉血療法
などがありますが、科学的根拠には基づいておらず不要な差別を生みハンセン病の根治には繋がりませんでした。後にハンセン病に対する科学的な研究が進み治療薬としてスルホン系の医薬品プロミンが開発され現在はハンセン病に対する差別は減少し、不治の病ではなくなっています。
体系的でない経験や直感、伝統を打ち破り新しい効果的な方法を導き出すのに科学的手法は役立ちます。これは医療に限らず教育にも同じことが言えるでしょう。
Slavinは科学が医学や農学でもたらした変革が教育分野にもようやく波及し始めていると指摘しています。
Slavin, Robert E. “Evidence-based education policies: Transforming educational practice and research.” Educational researcher 31.7 (2002): 15-21.
科学的な根拠に基づいた教育に対する否定的な意見
「科学的な根拠に基づいた教育」に対する批判もあります。
そもそも教育に対して科学的手法を用いることが可能なのか?という批判もあります。
- 何をもって成果とするか?(アウトカムの設定の難しさ)
- ランダム化比較試験の実施の困難さ
- 教科間の違い
- 被験者の背景(国籍や年齢、学習経験、家庭環境等)
とはいえ、これまでに教育研究はたくさんありその中にはエビデンスレベルが高いとされるメタアナリシスなどもあります。
メタアナリシスはエビデンスレベルの高い研究ですが、小さいサンプルサイズや短い実施期間、バイアス管理が甘い研究は信頼性が低いためこれらの研究を統合したメタアナリシスは信頼性が低いため注意が必要です。
また、研究により見いだされた効果が高いとされる教育手法も目の前の環境にそのまま適用できるか?というとそういうわけでもないです。教師や生徒、学校の違いがあるからです。したがってあくまで指標として用いるべきで、コスト的に現実的に利用可能か?自分のクラスに対する適用は妥当か?という部分を考えて現場に最適なものを選択しなければならないでしょう。
効果的な教育にはどのようなものがあるのか?
どうせ学習するなら科学的に裏付けされていた効果的な方法を用いたい
と思うのは当然だと思います。
しかし、これまでの膨大な教育研究を調査するのは大変です。そこでおすすめの書籍があります。
メルボルン大学 教育学教授のJhon Hattieの著書である「Visible Learning」はこれまでに蓄積されてきた教育学研究のなかでもエビデンスレベルが高いメタ分析を調べた書籍です。
この書籍の特徴は科学の世界でしばしば議論の的となる「統計的有意差」だけで議論するのではなく、その効果の大きさの指標である「効果量」を算出して各研究を比較している点です。つまり、効果の有無を有意差の有り無しではなく、どの程度差があったのか?ということを議論しています。
この本は日本語訳本「教育の効果: メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化」もあります。*訳本では原本にあった効果量の算出方法の誤りが訂正されている。
どんな教育に効果があるか?詳しく知りたい方は書籍をよんでみてください。
効果的な教育の特徴
効果が高い教育に共通の特徴とはどんなものがあるでしょうか?「Visible Learning」で述べられている効果が高い教育に共通する特徴を挙げてみると
- 明確な学習目標が共有されている
- 詳細な学習計画がある
- 生徒個別に調整された適度な難易度が設定されている
- 頻繁かつ素早いフィードバック(解法など)
- 自主性が発揮される
がありそうです。
当たり前ですが学校教育において「教師」の影響は大きいです。教師は生徒の学習目標や計画を決定し、フィードバックを与える立場だからですね。
教師の良し悪しは教育に大きな影響を与えるということが分かっています。まあ当然のこととも言えます。
指導者に必要な要素
教師・指導者に必要な要素には下記があります。
- 指導内容に関する広く深い知識
- 適度な難易度の学習内容を提供
- 複数の異なる視点からの解説の提供
- 間違いできる環境を提供
- 指導に対する情熱
実はそんなに学力に影響がないことが示されているもの
教育効果が全くないわけではないが検証してみたところ影響が少ないものもあります。
例えば学級の規模などがあります。
もちろんマイナスの効果が有るわけでないので効果がないというわけではなく、実施する意味がないということを示しているわけではありません。教育方法の組み合わせによって大きな効果を発揮する可能性もあります。効果が有る人もいるのでその違いには何があるのか?ということを考えたり検証してみたりすることが良い教育につながるといえます。