たんぱく質は生物の体を形作り、動かしている重要な物質です。
このたんぱく質の正体や作られ方、よく聞く遺伝子とDNAの関係について紹介していきます。
たんぱく質はDNAの情報をもとに作られる
たんぱく質は生物が自ら合成して作っている物質です。皮膚も臓器も血管も筋肉もあらゆる体のパーツはたんぱく質からできています。
どのパーツも精密に作られているように見えますが、設計図もなしに生物はどうやって作っているのでしょうか?
実は設計図があります。それはDNA中に保存されています。DNAは細胞の核の中にあります。
DNAの構造を化学的に見てみると、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4つの分子からできていることが分かります。
このATGCの並び順に意味があります。といっても、すべてのDNAの情報がたんぱく質になるわけではなく一部分にたんぱく質の作り方が記載されています。例えば、…GACAATGACATCTCTCCAT….という並びのうちたんぱく質の情報が書き込まれている部位は…GACAATGACATCTCTCCAT….青の部分だけという感じです。このたんぱく質の情報が書き込まれている部位を「遺伝子」といいます。
遺伝子からたんぱく質ができる流れをセントラルドグマと呼ばれています。DNA→RNA→たんぱく質という流れでたんぱく質が作られていきます。
RNAの合成(転写)とたんぱく質の合成(翻訳)まで
たんぱく質はたった20種類のアミノ酸を複数組み合わせて作られています。
「どのアミノ酸をどんな順番でつなげていくのか?」がDNA上に書かれています。それではDNAからたんぱく質ができるまでの過程を見てきましょう。
- DNAの配列 5’…ATGACATCTCTCCAT….3′
- DNA相補鎖 3’…TACTGTAGAGAGGTA….5′
- RNAの配列 5’…AUGACAUCUCUCCAU…3′
- たんぱく質 …Met(M)–Thr(T)–Ser(S)–Leu(L)-His(H)…
1と2はDNAの二重らせんの各々の鎖です。AはT、GはCとペアを組んでいます。一方の鎖の配列が分かればもう一方の配列はわかります。
RNAはDNAの情報をもとに作られます。RNAを作る酵素には読み取る方向があるため、3’→5’の鎖をもとにしてRNAを合成していきます。RNAにはTの代わりにウラシル(U)が使われます。DNAからRNAを作る過程を「転写」といいます。
合成されたRNAを3文字ずつ区切ります。この3文字をコドンといいます。実は塩基配列3文字分で一つのアミノ酸を指定しています。
AUGはメチオニン(Met:M)を意味しています。大体、開始はメチオニンで始まるのでこれを開始コドンと呼んでいます。M-T-S-L-H…の順番につなげていけばたんぱく質が合成されます。RNAからたんぱく質が作られる過程を翻訳といいます。
コドン対応表
アミノ酸 | コドン |
アラニン | GCU、GCC、GCA、GCG |
アルギニン | CGU、CGC、CGA、CGG、AGA、AGG |
アスパラギン | AAU、AAC |
アスパラギン酸 | GAU、GAC |
システイン | UGU、UGC |
グルタミン | CAA、CAG |
グルタミン酸 | GAA、GAG |
グリシン | GGU、GGC、GGA、GGG |
ヒスチジン | CAU、CAC |
イソロイシン | AUU、AUC、AUA |
ロイシン | UUA、UUG、CUU、CUC、CUA、CUG |
リシン | AAA、AAG |
メチオニン | AUG |
フェニルアラニン | UUU、UUC |
プロリン | CCU、CCC、CCA、CCG |
セリン | UCU、UCC、UCA、UCG、AGU、AGC |
トレオニン | ACU、ACC、ACA、ACG |
トリプトファン | UGG |
チロシン | UAU、UAC |
バリン | GUU、GUC、GUA、GUG |
開始コドン | AUG、(AUA)、(GUG) |
終止コドン | UAG、UGA、UAA |
コドンには開始コドン以外にもたんぱく質合成の終わりを意味する終止コドンもあります。
細かい部分は省いていますが、大まかな流れは上記のようになっています。
翻訳はリボソームで行われる!
たんぱく質合成はDNAから合成されたmRNAの情報をもとに行われます。
たんぱく質合成は細胞内の「リボソーム」という細胞小器官で行われます。
核から飛び出たmRNAはリボソームに結合し、mRNAのコドンの塩基配列に対応する相補塩基鎖(アンチコドン)を持つtRNAがコドンに対応するアミノ酸を運んできてくれます。tRNAはmRNAのコドンと結合して、アミノ酸をリボソームに渡してたんぱく質が合成されていきます。
DNAからたんぱく質が作られるまでの過程を制御する化学物質は薬になります。例えば、リボソームによるたんぱく質の合成を阻害する化学物質は細菌を抑える抗生物質になります。また、ステロイドホルモンやビタミンA、Dなどの脂溶性物質は核内に侵入して核内受容体に作用して転写を直接制御しています。これらのアゴニストやアンタゴニストは医薬品として利用されています。