生物学的等価体(Bioisostere)とは?
生物活性発現に関与するある特定の物理化学的性質が、共通または類似している置換基あるいは部分構造を生物学的等価体という。
メディシナルケミストリー用語解説 260
用語解説だと難しいですね 笑
要するに生物活性(医薬品としての作用)を示す性質が似ている官能基や部分構造のことです。
もともとはLangmuirが広めたisosterism(等価性、等電子性)が元となった言葉です。
等価体の歴史年表
元々、等価体の概念は反応や物理化学的性質を理解するためのものでした、それが医薬品の生物活性化合物に応用されるようになったのはErlenmyerとFriedman以降の話です。
生物学的等価体がどのように移り変わっていったのかを見ると、全体の定義や考え方が分かりやすいと思います。
→ 生物学上の問題に対して初めて等価性を適用した。
- 周期表のそれぞれの列に含まれる全元素を互いに等価体とみなす。
- 疑似原子を互いに等価体とみなす。
- 環同等体を互いに等価体とみなす。
→ 現在メディシナルケミストリーで用いられる生物学的等価体の意味
生物学的等価体を導入する目的
分子のとある部分を生物学的等価体に変換させた場合、実際には同様な生物活性を有する化合物にはなりにくいです。むしろ同じような作用を目指すわけではなく、元となる化合物の大事な性質だけは保持して、他の性質を変化させるのが生物学的等価体を導入するメリットになります。
生物学的等価体を導入する目的
- ターゲットとの相互作用の向上
- 選択性の向上
- 生物学的利用率の向上(代謝安定性、透過性)
- 毒性の軽減
- 副作用の軽減
- 新規知的財産権
これらの大きなメリットから、見いだされてきたいくつかの化合物に対して等価体を導入します。
生物学的等価体を用いて変化させる
先程も少し書きましたが、生物学的等価体ではほんの少しの性質を変化させることで、上記のようなメリットを狙います。ここではその変化させる性質について分類してみます。
構造的パラメーターを変化させる
構造的パラメーターというのは分子のサイズや形、あるいは立体構造のような性質のことです。構造的パラメーターを変化させる例としては、三環形抗うつ薬で、イミプラミンとマプロチリンでは2つのベンゼン環の間の環で形成される二面角αの幾何学構造が55-65°になっていて、クロリプロマジンやクロロプロチキセンなどの抗精神病薬の場合の二面角は25°になっています。他の性質としてはかなり似ているはずなのですが、それぞれ逆の作用は示さないので、こういった構造的なパラメーターも選択性に重要で、生物学的等価体と呼べます。
電子的パラメーターを変化させる
電子的パラメーターは、分子内の電子的性質を変化させることで、活性に重要なpKa等を変化させます。例えば、メチル基とトリフルオロメチル基は同様に疎水性の小さな官能基ですが、ベンゼン環に導入された場合、CF3基の電子求引性によって電子的なパラメーターが変化します。
溶解度パラメーターを変化させる
溶解度パラメーターはその名の通り、化合物の脂溶性(あるいは親水性)のことです。リピンスキーのルールオブファイブなどからも分かるように、溶解度は生物学的利用率に対して重要なパラメーターなので、官能基を生物学的等価体に変換することによって、これらのパラメーターの向上を目指します。例としては、シアノ基(電子求引基)をトリフルオロメチル基(同じく電子求引基)に置換することで脂溶性を向上することができます。
生物学的等価体の分類
生物学的等価体は、等価体の概念によって以下の二種類に分類されます。
- 古典的生物学的等価体
- 非古典的生物学的等価体
古典的生物学的等価体
古典的生物学的等価体はその名前の通り、等価体の概念ができた当初の定義にそったもので、構造的にシンプルな一価、二価、三価、四価、あるいは環上のものを変換させる等価体です。
非古典的生物学的等価体
非古典的な生物学的等価体は、構造的に大きく異なる等価体で、ほとんどの場合原子数が異なっていることで、より複雑な調整が行えます。非古典的な生物学的等価体は、さらに二種類に分けることができて、一つが開環と閉環に伴う環上と非環状の生物学的等価体で、もう一方が交換可能基とよばれる特定のパラメーターが似ていて、構造的ににはほとんど関連性がないものです。
まとめ
以上のように生物学的等価体(バイオイソスター)の概念は医薬品を設計する時に重要です。特に既存の医薬品候補化合物をもっとより良い形で使いたいときに、等価体を数種類試すだけで、種々のメリットがあるため製薬会社を中心に研究が進められています。