化学

飽和四員環を含んだ生物学的等価体(バイオイソスター)

生物学的等価体(バイオイソスター)は、活性の向上などの目的のために変換することが可能な官能基あるいは構造要素のことであり医薬化学においては重要な概念の一つです。

生物学的等価体(バイオイソスター): 医薬品設計の化学生物学的等価体(Bioisostere)とは? 生物活性発現に関与するある特定の物理化学的性質が、共通または類似している置換基あるいは...

近年の研究では、BCPやキュバンを含む飽和四員環の化合物がベンゼン環などの代替構造として用いられることが報告されています。

今回はそんな飽和四員環を含む生物学的等価体についてまとめてみました。

シクロブタン

シクロブタンは飽和四員環化合物の基本的な構造で、シクロブタンがオレフィンやベンゼン環の生物学的等価体となることが報告されています。その一例としては、アムジェン社によるホスホジエステラーゼ10A(PDE10A)選択的阻害剤の開発です。分子中央に存在するベンゼン環をシクロヘキサンとシクロブタンに変換したところ、シクロブタンが最も高い活性を示したことなどから、ベンゼン環の生物学的等価体としての有用性が報告されています。ベンゼン環との違いとしては、疎水性、距離が少し短くなる、共役が崩れる、完全な直線にはならない(立体で考えると)などが考えられます。

オキセタン

オキセタンは、酸素を含む飽和四員環で、タキソールなどの天然物にもいくつか含まれている官能基です。オキセタンはgem-ジメチル基やカルボニル基の生物学的等価体として応用できることが知られています。

アザスピロ環

アザスピロ環などのスピロヘプタン類が飽和ヘテロ六員環(ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリン)の生物学的等価体として応用できることが報告されています。研究者でいえばETHのCarreiraらや企業でいえばロシュ社を中心に合成法や生物活性に関する研究が行われています。飽和ヘテロ六員環は医薬骨格としてもよく使われているので、合成法が簡便になれば結構利用される気がします。

ビシクロ[1,1,1]ペンタン (BCP)

ビシクロ[1.1.1]ペンタン(BCP)は四員環が二つ共有してできた化合物ですが、シクロプロパン、シクロブタン、ベンゼン環、内部アルキンの生物学的等価体としての応用が報告されています。そもそもシクロプロパンやシクロブタンがベンゼン環の等価体ですが、特にベンゼン環の等価体としての報告例が多く、一例としてはγ-セクレターゼ阻害剤の探索におけるp-置換ベンゼンをBCPを置き換えることで、活性を維持したまま溶解性や疎水性の向上が報告されています。

内部アルキンへの変換に対しては、BCPが直線構造を取ることから、疎水性などの基本的なパラメーターの報告はされています。しかしながら直接の活性向上に関する報告は現状ありません。

キュバン

キュバンは8個の炭素原子が立方体の各頂点に配置された化合物で、炭素結合同士の結合角がほぼ90℃であることから、立体歪によって不安定化されて合成が不可能とされていた化合物です。全合成自体はシカゴ大学のイートンらによって達成されて、思ったよりも安定な構造であることが報告されています。

このキュバンはベンゼン環に対する生物学的等価体として考えられており、キュバンの立方体の対角線の長さ(2.72Å)とベンゼン環の直径(2.79Å)がほぼ同等であることが分かっています。実際に生物活性化合物へ応用した例としては、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、神経作動薬、鎮痛剤、殺虫剤などに対してベンゼン環とキュバンの置換が行われています。ほとんどすべての化合物に対して疎水性の向上が見られていることから、疎水性の向上には使えそうです。またニコラウらによってイマチニブのフェニル基を変換した化合物においても高活性を示したことも報告されています。

現状では合成法の出発原料がキュバンのジメチルエステル体のみであることが問題となりますが、今後簡便な合成法が確立されればもう少し医薬品候補化合物に用いられる可能性が考えられます。

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専門: 有機化学

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