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反応後の分液が不要な時はどんな時?

実験にある程度なれてきた頃、一つの疑問が浮かんできたことがあります。それは、「反応後、分液する時としない時の違いは何だ!」ということです。似たような反応でも分液する時としない時があってどうやって判断しているのかということです。

分液が必要なときは、分液しないと困る時!

質問したらこう言われました。「したほうが良ければ分液しろ、大体するでしょ」

「答えになってねーよ」って思いましたが、考えるしかありません。

では分液しないと困る時、しなくても良いときとはどんな時か考えてみましょう。

そもそも分液は何のためにやるのか考える

分液とは何のためにやるのか?それは精製のためです。混合物から目的物を得るための操作の一つです。詳しいことは下のリンクを見てください。

分液ロートの使い方 分液・抽出操作のやり方!原理やコツ

化合物が水と有機溶媒どちらに溶けやすいのか?という違いを利用する方法です。では、分液をやる必要がない時はどんなときでしょう

分液が必要の無いときとは?

1.化合物がすでに純粋な時

反応が綺麗に収率100%で進行した。他に不純物もまったくない。そんな時は分液する意味はないですよね?どんな時かというと、反応後の化合物の使用した溶媒に対する溶解度が落ちたことによって、反応後、綺麗な結晶が沈殿して得られた時とか、Pd/Cのような固体触媒を使って100%反応が進行した時などです。これらの反応ではろ過、溶媒除去で純粋な化合物が得られます。こんなときは分液しなくてもよいです。ちなみにきれいに反応が進行したかどうかはTLCを使って確認します。

TLCの原理と基本 | 薄層クロマトグラフィーって何?

2.化合物が溶媒に溶けない時

水にも有機溶媒にも溶けない。溶けてもDMSOやメタノールなどの極性有機溶媒にしか溶けないときは分液したくてもできません。こんなときは諦めるしかないですね

3.分液で取り除けるものがない時

分液によって取り除けるものがなければやる必要無いですよね。例えば、トルエン溶媒で酢酸エチルの合成を行ったとします。収率は100%で酢酸も、エタノールも無いとします。トルエンと酢酸エチルだけです。除去したいものはトルエンですが、これは分液で取り除けるでしょうか?

答えは「No」です。トルエンは水層に溶けないからです。もちろん酢酸エチルも水層にはとけません。このような時は分液しても意味がありません。

4.水に弱い化合物を取り扱う時

たとえ分液によって取り除きたい化合物、取り除ける化合物があったとしても分液をしないときもあります。それは目的物が水に弱いときです。高反応性物質(グリニャール試薬などの有機金属化合物、酸ハロゲン化物、イソシアネートとか様々)を取り扱う時は分液はできません。ただし水とは反応するけど、短時間なら…という化合物で不要物が結構あるという時は、分液だけするという場合も結構あります。経験的な話になるので前例に従いましょう。

5.化合物が水に溶ける時

水に溶ける時は基本的には分液しません。場合によっては水層に目的物だけ溶ける時は分液して水層を取り出して、水層を飛ばすということも有りえますが、基本は分液はしないです

分液が必要な時とは?

反応系に水を加えた時

有機合成では反応を進行させるためにしばしば反応性の高い化合物を使います。反応後にこれらの「高反応性物質」が残ったままでは危険なので反応性を低くする作業(試薬を潰すとか、クエンチとか言う)が必要です。高反応性物質は大抵水と激しく反応するので、水を加えて試薬を潰すことが多くあります。この時、中和するために炭酸水素ナトリウムや塩化アンモニウム水溶液を加えることもあります。水はエバポレーターで飛ばしづらいですし、多く残っていると次の精製段階(カラムクロマトグラフィー・再結晶)で邪魔になります。しかも中和によって塩が大量にあるならこれを除いておきたいですよね。つまり「反応後に水を加えた時」は分液が必要なとき、分液したほうが良さそうな時ということです。分液のほうがエバポで飛ばすよりも何かと楽ですし、水溶性化合物が不要物なら除去もできますからね。

分液で取り除きたい化合物が取り除ける時

当たり前の話ですが、分液で取り除きたいものが簡単に取り除けそうなら分液をします。精製方法の中では、分液は操作が楽ですから(条件検討といった下準備や後処理がない)これだけで綺麗になるなら積極的にやるべきです。

分液しても良いのにしない時

分液しても良いけどしない時もあります。時間の節約を考えるときです。分液を工程に加えると(極性溶媒のエバポの時間)、分液の時間、溶媒乾燥の時間、エバポの時間、真空乾燥の時間というように多くの時間と洗い物が増えます。反応後、エバポで溶媒を飛ばしてそのままカラムクロマトグラフィーにかけるという操作をしている事を見たことがあると思います。

基本的にカラムクロマトグラフィーでは不純物が少ないほうがやりやすく綺麗に分けやすいです。ですから、カラム前にはできるだけ綺麗にしておくというのが基本です。しかし、分液で取り除けるような不要物は水に溶けるくらいだから、相当に高極性です。このような高極性化合物はカラムの上端に引っかかって全然展開されない=簡単にカラムで除去できるとも言えます。ただし、高極性化合物が多いと、その物質が展開溶媒のような働きをして、分離を邪魔することが有りえます。カラム時にチャージする試料をメタノールで溶かすことはしませんよね?高極性化合物が混じっているということはこれと同じようなことをしているとも見えるわけです。この判断は不純物の量と目的化合物の精製難易度によります。極性が低い時とか、TLC上で目的物周辺の不純物がない場合はカラムも簡単なので上記に示したような問題は起こりにくいです。

実験操作に正解を探さない

有機合成実験はこのように様々なパターンによってやるべきことが変化しますし、どっちが正しいとか正解がない部分が多いです。人によって、指導者によって言うことが変化したり好みの操作とかもあるので新人は大変だと思います。でも、シンプルに考えれば、目的物をとってこられれば良いのです。そしてそれにかかる労力と時間は最小限のほうが楽ですよね!その当たりを意識していろんな操作を実行していればどんな方法をとっても良いと個人的には思います。ですから、私は新人を指導する時は、こんな時はこうしろというような、一対一の対応で操作を覚えるような教え方はしないようにしています。実験する人もまずは操作の意味を考えて、実行してみて、結果は予想と比べてどうだったか考察する、を繰り返してみましょう。指導する側も自分の頭で考えろとだけ言って突き放さずに、うまく自己成長をアシストするような指導をしていきたいものですね。

実はお米とか植物の栽培も同じようなものなんです。

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