コロナウイルスやインフルエンザウイルスなど様々なウイルス感染症が話題になっています。
ウイルス感染を防ぐ方法について気になるかたも多いのではないでしょうか?
人混みを避けて、手洗いをしっかりするのが予防に重要といわれていますが、手指が触れる場所などを消毒したいというニーズもあると思います。
ウイルスを不活化させる消毒薬としてはエタノールが有名ですが、その効果はどのくらいあるのでしょうか?なぜウイルスがエタノールで消毒できるのか?そのメカニズムやエタノール以外の消毒方法があるのか?について紹介していきます。
ウイルスの消毒
消毒薬というとエタノールが思いつきやすいと思いますが、実は消毒薬にはたくさんの種類があります。
消毒薬は3種の効能レベルに分類されています。高水準消毒薬が最も強力な効果を発揮します。ちなみにエタノールは中水準消毒薬です。
効能レベル | 有効な微生物 | 消毒薬 |
高水準消毒薬 | 大部分の細菌, 結核菌, 芽胞, 真菌, ウイルス | グルタラール, フタラール、 過酢酸 |
中水準消毒薬 | 細菌, 結核菌、真菌, 芽胞, 一部のウイルス | 消毒用エタノール、 イソプロパノール、変性アルコール、ポビドンヨード、次亜塩素酸ナトリウム |
低水準消毒薬 | 細菌, 真菌, 一部のウイルス | 塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩 |
こめやん
消毒薬によって効く病原体と効かない病原体がいます。高水準消毒薬は確かに強力ですが、安全性や使いやすさの面で劣っている部分があります。
エタノールで消毒できるかできないか?はウイルスの種類(構造)によって変わります。
エタノールが消毒効果を発揮する理由
エタノールが殺菌できるウイルスと殺菌できないウイルスの違いはなんでしょうか?
エタノール消毒に弱いウイルスにはインフルエンザウイルスやHIVウイルスがあります。一方で強いウイルスにはノロウイルスなどがあります。
両者のウイルスの違いは「エンベロープ」を持つか持たないか?です。
エンベロープを持つウイルスはエタノールに弱いです。
エンベロープとはウイルスの外側を覆う膜で細胞膜と同じく脂質からできています。そのため、エタノールのような油を溶かすような液体にさらされると膜が簡単に破壊されてしまいます。ほかにも石鹸にも弱いです。
こめやん
エタノール濃度による消毒効果の違い
消毒用のエタノールというと70%濃度が最も有名かと思いますが、実は70%が一番殺菌力が高いわけではありません。
もともと70%が殺菌力が高いというのはブドウ球菌で試験した実験から得られた結果です。しかし、実際は殺菌したいウイルスの種類や条件によって有効なエタノール濃度は異なることが報告されています。
その研究によると言われてみれば当たり前のようですが、吐しゃ物など水分量が多い場所での使用に関しては95%エタノールのほうが高い殺菌効果が期待できます。逆に乾燥した痰など水分量が少ない試料に対する消毒に関しては水分が多めな50%エタノールで消毒効果が高くなることが報告されています。
野田伸司, et al. “アルコール類のウイルス不活化作用に関する研究ウイルスに対する各種アルコールの不活化効果について.” 感染症学雑誌 55.5 (1981): 355-366.
なぜ100%エタノールの消毒効果は低いの?
エタノールの消毒効果は直感的にはエタノールの濃度が100%に近い、濃いほうが消毒効果が強そうに思えますが、実際は75%前後が最も効果が高いといわれています。
純粋なエタノールの殺菌効果があまり高くないのは、たんぱく質を変性させる力が小さいためと考えられています。ウイルスが細胞の中に入り込めるのはウイルスの表面にある「タンパク質」が働いているからです。エタノールはこのたんぱく質を変性(壊す)することによって感染力を失わせます。このたんぱく質の変性効果は水が少し入っているほうが高いといわれています。ですから、少し水が入ったエタノールのほうが効果が高いのです。
エンベロープを持たないウイルスへの殺菌効果
エタノールなどのアルコールは脱脂効果(脂質を溶かす)があるため、脂質からなるエンベロープを持つウイルスに対しては、これを破壊することにより殺菌効果が得られます。
こめやん
一般的にエンベロープを持たないウイルス(ノンエンベロープウイルス)に対してはエタノールなどのアルコール消毒薬の効果は薄いとされています。ノンエンベロープウイルスにはノロウイルスなどがあります。
したがって、ノンエンベロープウイルスに対しては別の消毒薬を利用する必要があります。
マウスノロウイルスを使用した場合は、次亜塩素酸ナトリウム(200ppm、30秒)等の塩素系消毒薬が有効であることが分かっており、さらに70%エタノールなどのアルコール消毒薬もウイルスを不活化可能であることが報告されています。
清水優子, et al. “ヒトノロウイルスの代替としてマウスノロウイルスを用いた消毒薬による不活化効果.” 日本環境感染学会誌 24.6 (2009): 388-394.
李宗子, et al. “ノンエンベロープウイルスに対する効果が改善されたアルコール手指消毒剤の手肌への影響.” 日本環境感染学会誌 29.3 (2014): 164-171.
アルコールの種類による消毒効果の違い
消毒薬にはエタノールだけでなく、イソプロパノールや変性アルコール(メタノール)などがあります。
アルコールの種類の違いによって殺菌効果は微妙に異なります。
病原体によって異なりますが、エタノールよりもイソプロパノールなどのほうが殺菌力が高いとされています。しかし、毒性に関してはエタノールが一番安全性が高いです。
白石正, 丘龍祥, and 仲川義人. “エタノール, イソプロパノール, メタノール変性アルコール製剤に関する殺菌効力の検討.” 環境感染 13.2 (1998): 108-112.
コロナウイルスに対する消毒効果
インフルエンザウイルスはエタノールによる消毒が有効なウイルスですが、コロナウイルスには有効でしょうか?
こめやん
コロナウイルスはインフルエンザウイルスと同じRNAウイルスに分類されるウイルスです。
また、コロナウイルスはエンベロープを持つウイルスです。
そのためアルコール消毒やせっけんによる手洗いが有効です。
感染予防のためには、せっけんを使った手洗いと70%以上のアルコールで消毒が有効です。0.05~0.5%次亜塩素酸ナトリウムも有効です。
参考 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)|厚生労働省取得できませんでした
コロナウイルスとは?危険性は?
コロナウイルスは毎年冬季や春先に流行する風邪の15~30%を占めると言われている一般的なウイルスです。
しかし、コロナウイルスにより引き起こされるSARS(重症急性呼吸器症候群)など、単なる風邪では片づけられない重篤な症状を引き起こすものもあります。新型コロナウイルスやSARSに限らずコロナウイルスは新生児や高齢者、持病持ちの人にとっては肺炎などを引き起こす危険があるので、感染の予防が重要です。
Fehr, Anthony R., and Stanley Perlman. “Coronaviruses: an overview of their replication and pathogenesis.” Coronaviruses. Humana Press, New York, NY, 2015. 1-23.