キノンは生体分子のなかにも含まれている重要な物質です。ビタミンKにはナフトキノン環、ミトコンドリアの電子伝達系ではユビキノンが関わっています。
ヒドロキノンの酸化によるベンゾキノンの合成
キノン類の合成方法としてはフェノール類の酸化によりベンゾキノンとする方法が一般的です。
o-ベンゾキノンと比べてp-ベンゾキノンのほうが安定なため合成しやすいです。
フェノール類は以下の酸化剤を用いることでキノンに変換できます。
- 酸化銀(Ag2O)
- CAN
- DDQ及びクロラニル
- 二酸化マンガン
- 超価ヨウ素試薬(PhI(OAc)2, etc)
- FREMY’S SALT(K2[NO(SO3)2])
Maurya, Hardesh K. “Oxidizing Agent Applied for Quinone Synthesis.” Organic Chemistry: An Indian Journal 12 (2016).
Abraham, Ignatious, et al. “Recent advances in 1, 4-benzoquinone chemistry.” Journal of the Brazilian Chemical Society 22.3 (2011): 385-421.
キノン酸化を行う際は分子内あるいは添加する試薬中に求核性のある部分があると求電子的なキノンと反応してケタールなどを生成することがあるので注意しましょう。
酸化銀はマイルドな酸化剤
酸化銀を用いると温和な条件でキノンに変換できます。
Saeed, Muhammad, Eleanor Rogan, and Ercole Cavalieri. “Novel spiro-quinone formation from 3′-hydroxydiethylstilbestrol after oxidation with silver oxide.” Tetrahedron letters 46.26 (2005): 4449-4451.
アルキルハライドは反応するので注意
超価ヨウ素試薬
ヨードベンゼンジアセテートなどの超価ヨウ素試薬によってキノンに酸化することも可能です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Phenol_oxidation_with_hypervalent_iodine_reagents
アルコールのカルボニル類への酸化やデスマーチン試薬の前駆体として用いる
IBXはフェノールを酸化してキノンに変換できます。
Stack, Douglas E., and Bejan Mahmud. “Efficient access to bisphenol A metabolites: Synthesis of monocatechol, mono-o-quinone, dicatechol, and di-o-quinone of bisphenol A.” Synthetic Communications 48.2 (2018): 161-167.
フレミー塩で酸化
フレミー塩は長寿命なフリーラジカルの塩で有機化合物でいうTEMPOのような無機ニトロキシラジカルです。
TEMPOなどの有機ニトロキシラジカルと比べて有機溶媒への溶解性の低いので水系で反応させます。酸性中不安定で中性付近で緩衝液中で反応させます。
Teuber, H‐J. “Use of Dipotassium Nitrosodisulfonate (Fremy’s Salt): 4, 5‐Dimethyl‐o‐Benzoquinone: 3, 5‐Cyclohexadiene‐1, 2‐dione, 4, 5‐dimethyl‐.” Organic Syntheses 52 (2003): 88-88.
石井永. “Fremy’s Salt による酸化.” 有機合成化学協会誌 30.11 (1972): 922-941.
他にもCANを用いた酸化、二クロム酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、二酸化マンガン、臭素酸カリウム、オキソン、TEMPO/NaOCl, など多くの酸化剤が利用できます。
キノンの副反応には注意
ベンゾキノンの二重結合が酸化されてエポキシドなどを生じることがあるので反応時間や温度などを注意します。
ベンゾキノンはαβ不飽和ケトンとして、あるいは電子不足なオレフィンとして付加反応を起こすほか、キノンに特徴的な酸化還元反応も起こすことから反応性の高い分子です。
ヒドロキノンおよびアルコキシベンゼンの酸化
ヒドロキノンは合成の都合上、ヒドロキシ基をメトキシ基などで保護したアルコキシベンゼンとすることがあります。
メトキシで保護されたベンゼンもCANなどの酸化剤でそのままキノンに酸化できるのでよくCANを酸化に使います。
アルコキシベンゼンの酸化によりキノンを得る方法
水(10 ml)に過剰量のCAN(11 g、20mmol)を加えた溶液を基質(1.6 g、6.6 mmol)のアセトニトリル(10 ml)溶液に0℃で滴下しました。混合物を室温で1時間撹拌した。水(10 ml)を加えてCH2Cl2(20 ml)で抽出した。精製操作を行い92%の収量で目的物を得た。
CANはヒドロキノンもメトキシベンゼンも酸化してキノンを得ます。オルトキノンは生成しにくくp-キノンのほうが熱力学的に安定で生成しやすいです。溶媒は基本的にアセトニトリルを使います。
酸化剤はCANが有用ですが、他にジアセトキシヨードベンゼン、DDQも使われます。
反応機構を教えて頂きたいです。
下記のような機構でキノンに酸化されます。
https://www.researchgate.net/profile/Fabrizia-Fabrizi-De-Biani/publication/266461363/figure/fig11/AS:668573810819072@1536411826037/Scheme-1-Oxidation-of-hydroquinone.pbm
Redox Behaviour of Pyrazolyl-Substituted 1,4-Dihydroxyarenes: Formation of the Corresponding Semiquinones, Quinhydrones and Quinones
モノベンゾンとは?
メラノサイト破壊が不思議です。
ミイデラゴミムシの高熱ガス(過酸化水素とヒドロキノン)の化学物質反応によるメラノサイト破壊ですか?
ヒドロキノン酸化物質とメチルアルコールを反応させ生成するのですか?
ご質問ありがとうございます!
>ミイデラゴミムシの高熱ガス(過酸化水素とヒドロキノン)の化学物質反応によるメラノサイト破壊ですか?
→メラノサイトにはメラニン色素を作り出すチロシナーゼという酵素が存在します。
このチロシナーゼにより、モノベンゾンが酸化されヒドロキノン酸化物質(キノン体)に変換されます。
ヒドロキノン酸化物質が下記2つの作用を持つため、メラノサイト破壊を引き起こすと考えられています。
➀ヒドロキノン酸化物質は、メラノサイト破壊を起こす酸化ストレスとなる(②の作用より優位)
②ヒドロキノン酸化物質は、メラノサイト内にあるチロシナーゼの阻害活性を有している
【参考】
・Van Den Boorn, Jasper G., et al. “Skin-depigmenting agent monobenzone induces potent T-cell autoimmunity toward pigmented cells by tyrosinase haptenation and melanosome autophagy.” Journal of Investigative Dermatology 131.6 (2011): 1240-1251.
・https://www.jidonline.org/article/S0022-202X(15)34482-1/fulltext