リモネンは柑橘類の香り成分であり、果皮中に多く含まれていてます。オレンジからとれるオレンジオイルの主成分はリモネンです。
このリモネンはレモンのような爽やかな心地よい香りがあるため、香料として香水や食品に添加されることも多いです。また100%オレンジジュースは皮ごと抽出されるためリモネンが結構含まれています。
このリモネンは「発泡スチロール」を溶かすことを知っている人も多いと思いますが、こう見ると安全なのか?と疑問に思う人も多いですよね?除光液(アセトン等)の代わりにリモネンを使うこともあります。
除光液の成分 アセトンは安全?シンナーと同じ?代用品はあるの?
実はリモネンには発がん性があるのでは?と動物実験で疑われていた時期もありますが、これは人間には当てはまらないことが証明されています。一方で酸化されやすいのでこれが皮膚アレルギーの原因になる可能性もし提起されていますが、抗がん作用もあるという報告がされています。
本記事の内容
リモネンとは?
リモネンの安全性
リモネンの健康効果
リモネンとは?
リモネンはレモンやオレンジの皮に含まれている油性成分の主成分です。
リモネンの性質を知るために、化学構造を見てみましょう。
リモネンの化学構造中には炭素と水素しかありません。このような化学物質は炭化水素と呼ばれる物質で、脂溶性が高く(油系)、石油やガソリン、都市ガスなどの成分が仲間です。
よくある実験としてリモネン(オレンジオイル)を使って発泡スチロールを溶かす実験がありますが、これは発泡スチロールの成分(スチレン)がリモネンと性質が近いからというのが理由です。リモネンには光学異性体といって人間の右手と左手の形のように回転させても互いに一致しない形が存在します。D-リモネンのほうが
D-リモネンが強いレモン臭を保つ成分です。
リモネンの毒性と安全性
リモネンは身の回りのお菓子やジュースに添加物として使われたり、香水や化粧品などの製品に香り成分として添加されているため、実は柑橘類を食べていなくても体に触れたり、食べたりしています。
リモネンの安全性に関しては「安全であり、毒性は低い」というのが現在の一般的な見解です。
これに対して新たに発見されてきている健康への効果の良い面と悪い面を紹介していきます。
リモネンの毒性について
リモネンの毒性ってどのくらいなのか確かめられているの?というと
「オスのラットにおける腎臓の障害発生」が問題になってから結構たくさん研究されています。現状ではこれは人間には当てはまらないということになっています。こうした「化学物質の毒性を調べる試験」はたくさんあります。
毒と言うと「どのくらい食べたら死ぬのか?」というような致死性に興味が向くことが多いですが、急性毒性(致死性)などは比較的強い毒性を持つ化学物質の効果を見るのに使うもので、自然に摂取しているような安全性が高いと予測される化学物質の安全性を評価する試験としては適していません。
食品添加物などに使われる安全性の高い化学物質に関してはDNAを変異させたりがんを生じさせる「変異原性」「発がん性」あるいは免疫応答をみる「感作性」、長期投与の効果を見る「慢性毒性試験」などで評価するのが重要です。
例えば鉛はちょっと摂取したぐらいですぐには死ぬことはない(=急性毒性は低い)ですが、長期間摂取すると体に様々な不調をきたす毒性物質です。
リモネンの一日摂取量の見積もりは成人の体重1kgあたり0.27mgのリモネンを摂取しているという報告があります。
Flavor and Extract Manufacturers’ Association D-Limonene 3. Monograph, 1-4, Flavor and Extract Manufacturers’ Association; Washington, DC: 1991
結構多いですね。オレンジを日常的に摂取している人ではこれよりももっと多くなると思います。
リモネンは体に吸収されやすく、代謝も容易に受けます(リモネンの半減期24h)。代謝物は尿から行われ蓄積は無いと言われています1,2)。
1)Kodama, Ryuhei, et al. “Studies on the metabolism of d-limonene (p-mentha-1, 8-diene). IV isolation and characterization of new metabolites and species differences in metabolism.” Xenobiotica 6.6 (1976): 377-389.2)Crowell, Pamela L., et al. “Identification of metabolites of the antitumor agentd-limonene capable of inhibiting protein isoprenylation and cell growth.” Cancer chemotherapy and pharmacology 31.3 (1992): 205-212.
こめやん
急性毒性は意図的に大量摂取しなければ気にしなくても良いレベルですが、オスラットの腎臓障害を誘発することが研究で報告されましたが、これはラット特有のものであり、人間には当てはまらないという結論に至っています。
Whysner, John, and Gary M. Williams. “d-Limonene mechanistic data and risk assessment: absolute species-specific cytotoxicity, enhanced cell proliferation, and tumor promotion.” Pharmacology & therapeutics 71.1-2 (1996): 127-136.
人間への安全性は高く、慢性毒性試験でも低毒性という結果がでています。しかし、無毒というわけではないので、一日に大量にリモネンを摂取すると嘔吐や下痢などの症状が現れます(リモネンとして食べない限りは超えない量:最大許容経口容量8g/m2/day)。
Vigushin, David M., et al. “Phase I and pharmacokinetic study of D-limonene in patients with advanced cancer.” Cancer chemotherapy and pharmacology 42.2 (1998): 111-117.
Karlberg, Ann‐Therese, and An Dooms‐Goossens. “Contact allergy to oxidized d‐limonene among dermatitis patients.” Contact Dermatitis 36.4 (1997): 201-206.
リモネンの健康への効果 抗がん作用
これまではリモネンのネガティブな効果について紹介しました。次は、リモネンのポジティブな効果について紹介します。
リモネンはコレステロールをよく溶かすため、コレステロールを含有する結石を溶解するのに臨床で利用されています。
また、最近話題の逆流性食道炎などによる胸焼け症状を緩和するのに有効であるという報告もあります。
リモネンの胃粘膜を保護する作用があることが示唆されています。
また、部分的な結果ですが直腸がんや乳がんなどのがんに対しても有効であるという結果も出てきています。
乳がんに関してはin vitro, in vivo試験で乳がん抑制作用が報告されています。肝発がん抑制作用も報告されています。機構についてはタンパク質のイソプレニル化の抑制が関与していると考えられています。
また、疫学的な研究では日常的に食事から柑橘類の皮を食べる人たちは皮膚がんのリスクが低下し、そのリスクが食べる量が多いほど減少する「用量依存性」が確認されています。
Sun, Jidong. “D-Limonene: safety and clinical applications.” Alternative Medicine Review 12.3 (2007): 259.