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ハロホルム反応 ヨードホルム反応とは?頻出疑問を簡単に解説!

ヨードホルム反応

ハロホルム反応は高校や大学の学生実験でよくやられる実験の一つです。

結構うまくいかないことが多いので、実験を成功させたい教員にとっては避けたい実験のようです。

実験ではハロゲンとして「ヨウ素」を用いた「ヨードホルム反応がよくやられます。

この記事ではハロホルム反応、ヨードホルム反応とは何か?実験操作と考察(ヨードホルム反応を示す化合物と示さない化合物との違い)などよくある疑問についてわかりやすく回答します。

ハロホルム反応 ヨードホルムとは?

ハロホルム反応アセチル基(メチルカルボニル、メチルケトンを含む)を持つ(生成する)化合物に塩基性条件下ハロゲン化試薬との反応によりトリハロメタン(ハロホルム)を生じる反応です。

ハロホルム反応の例

ハロホルム反応の例

 

ハロホルムの「ハロ」は「ハロゲン、17属元素」のことを意味しています。

また、「ホルム」は「CH」の意味です。

クロロホルム CHCl3はハロホルムの仲間です。ヨードホルムはハロゲンがヨウ素のハロホルムです。

ハロホルム

ハロホルムの構造

水酸化ナトリウムとアセトアルデヒドのヨードホルム反応の反応式は、

CH3COH+4NaOH+3I2 → CHI3+HCO2Na+3Nal+3H2O

となります。


ヨードホルム反応を示す化合物は?

ハロホルム反応のうち、ヨウ素を使ったヨードホルム反応が最もメジャーなのでこれ以降はヨードホルム反応を取り上げます。

ヨードホルム反応を示す化合物は

  1. アセトアルデヒドやアセトンなどのアセチル基を持つケトンやアルデヒド類
  2. エタノールや2-プロパノール

ヨードホルム反応を示す化合物一覧

ヨードホルム反応を示す化合物一覧

です。

ヨードホルム反応がうまく進行しない、反応しない時どうする?

ヨードホルム反応は「独特のにおいヨウ素由来の黄色を持ち、水に溶けない物質」が生成します。

ヨードホルム反応の反応式

ヨードホルム反応の反応式

ヨードホルム反応をうまく進行させるためには、

  1. アセトアルデヒドやアセトンなどの試験品の量は少なくする
  2. ヨウ素はなるべく濃い溶液にする
  3. アルカリ溶液は炭酸ナトリウム溶液(1M)が良い?
  4. 加温する(60℃くらい)

のがコツのようです。

ヨウ素との反応であるため、ヨウ素を濃いめにしたほうが反応が進行しやすいようです。

ヨウ素液の調整:ヨウ化カリウム-ヨウ素溶液はヨウ素10gに対してヨウ化カリウム20gと水80gを加えてヨウ素溶液を調整する。

参考:片江安巳. “ヨードホルム反応実験における一考察.” 化学と教育 43.5 (1995): 329-330.



ヨードホルム反応の機構

アセトアルデヒドなどのカルボニル化合物(C=O)はヨウ素と反応してヨードホルムを生成します。ヨードホルムは水に難溶なため分離します。

ヨードホルム反応は以下のようなメカニズムで進行しています。

ヨードホルムの生成の反応機構

ヨードホルムの生成の反応機構:水酸化ナトリウムなどの塩基によって、エノラートが生成します。このエノラートは求核性を持っているためヨウ素に攻撃してヨウ素化されます。これが2度繰り返したのち、ハロホルムが生成します。

アルコールとケトン・アルデヒドがヨードホルム反応を示す機構は違う!

2-プロパノールやエタノールなどのアルコールはカルボニル構造を持っていないのにヨードホルム反応が進行します。

実際アルコールはケトン・アルデヒドは性質が全くことなるためそのままではヨードホルム反応は進行しません

ヨードホルム反応が進行しない?

しかし、ヨードホルム反応が進行するのはアルコールがヨウ素によって酸化されてアルデヒド・ケトンが生成しているからです。

アルコールがヨードホルム反応を示す理由

アルコールがヨードホルム反応を示す理由

例えば、ヨウ素によって2-プロパノールはアセトンに、エタノールはアセトアルデヒドに酸化されます。

アルコールがヨウ素によって酸化される推定反応機構

実際はアルコールの酸化とハロホルム反応は同時に行いますが、分けて考えると以下のようにまず酸化によってカルボニル化合物が生成します。ヨウ素によるアルコールの酸化

Ge, Wenlei, Xun Zhu, and Yunyang Wei. “Iodine-catalyzed oxidative system for cyclization of primary alcohols with o-aminobenzamides to quinazolinones using DMSO as the oxidant in dimethyl carbonate.” RSC Advances 3.27 (2013): 10817-10822.
酸化反応は塩基なしでも進行するが加熱が必要
二段階にわたらず一段階で酸化する反応も考えられます。

ヨウ素によるアルコールの酸化反応機構例2

ヨウ素によるアルコールの酸化反応機構例2

ヨードホルム反応では塩基が加わっているので生じる酸(ヨウ化水素)は中和され、反応が促進されます。

加わる塩基の強さによってはアルコールの水素が引き抜かれてアルコキシドが生成する機構、α位水素の引き抜き機構も考えられます。

乳酸は例外?ヨードホルム反応を示す理由

乳酸がヨードホルム反応を示す例外として言われていますが、なぜ乳酸は例外的にヨードホルム反応を示すのでしょうか?

それは乳酸の構造を見ればわかります。

乳酸が例外の理由

乳酸が例外の理由

乳酸は「ヒドロキシ酸」と呼ばれる化合物の分類で、カルボン酸(COOH)とアルコール(OH)とのハイブリッド化合物です。

アルコールの部分を見るとイソプロパノール(2-プロパノール)と同じ構造であるのがわかります。

つまり、イソプロパノールと同じく酸化されてC=Oになります。こうするとメチルケトン構造が現れるので乳酸はヨードホルム反応を示すわけです。

この規則がわかれば、構造式を見るだけでどの化合物がヨードホルム反応を示すかがわかります

こめやん

乳酸を例外として考えると聞いたこと無い化合物に対応できなくなります。メチルエチルケトンや2-ヘキサノールなどもヨードホルム反応が起こります

テトラヨードメタン(四臭化炭素)は生成しないの?

ヨードホルム反応の最後に水から水素を奪ってヨードホルム反応を生成します。

しかし、この反応でさらにヨウ素と反応して4つのヨウ素を持つ炭素、「テトラヨードメタン」は生成しないのか?

という疑問を持たれるかもしれません。

テトラヨードメタンの生成は可能?

テトラヨードメタンの生成は可能?

しかし、このテトラヨードメタンは生成しません。なぜなら、テトラヨードメタンは不安定な物質だからです。

テトラヨードメタンは水と反応してヨードホルムに分解する

テトラヨードメタンは水と反応してヨードホルムに分解する

水中ではテトラヨードメタンは反応してヨードホルムを生成します。

なぜテトラヨードメタンが不安定化というと、

  1. 炭素-ヨウ素結合が弱い
  2. ヨウ素原子が大きく、立体的に混んでいる

ことが原因です。

テトラヨードメタンの立体構造

テトラヨードメタンの立体構造

テトラヨードメタンの立体構造を見るとヨウ素(紫)に覆われて炭素がみえません。

なぜヨウ素溶液にヨウ化カリウムが入っているの?

なぜヨウ素溶液にヨウ化カリウムをいれる必要があるのでしょうか?

実はヨウ素は水には溶けにくく脂溶性が高い分子です。つまり油のほうが溶けやすいということです。

ヨウ素のlogP

ヨウ素のlogP:log PやCLog Pは脂溶性が高い分子ほど値が大きい。ヨウ素はベンズアルデヒドと同等くらいの脂溶性の高さを持つ

実際にヨウ素は水100gに対して0.02gしか溶けません(ベンゼンは水100mLに0.18g)。ヨウ素が固体なのも原子が大きいためファンデルワールス力が大きいことが理由です。

ヨウ化カリウムを加えている理由とは、

ヨウ素を水に溶かすためにヨウ化カリウムを加えています

ヨウ化カリウムはヨウ素と反応して三ヨウ化物イオンを生成します。

K+I + I2 → K+I3

イオンの形になったヨウ素は水中に溶解するようになります。

参考 ヨウ素とは | ヨウ素学会ヨウ素にはどんな物理化学的性質があるか?

ヨードホルム反応を使った最近の論文は?

ヨードホルム反応は実際の有機合成反応にはあまり使われるものではありませんでした。しかしヨウ素の入手容易性、安全性などからヨウ素を使った反応は注目されています。

2017年にはNature系のオープン雑誌Scientific reportから論文がでています。日本人で東大の内山グループの報告ですね。

Kawasumi, Ryosuke, et al. “One-step Conversion of Levulinic Acid to Succinic Acid Using I 2/t-BuOK System: The Iodoform Reaction Revisited.” Scientific reports 7.1 (2017): 17967.
この報告ではエタノールやアセトアルデヒドなどの定性試験としての利用例が中心だったヨードホルム反応を実用的な有機合成手法として応用可能であることを示しました
この研究では、工業で重要なコハク酸の合成をとりあげることによって、工業的な重要性も示しています
古典的なKOH/水系を使ったヨードホルム反応では副反応が多く、目的の物質を得ることが難しかったことから、酸化に耐性があるアルコールのtert-BuOHとt-BuOKを塩基として用いることによって選択的で高収率に目的物を得ることできました。

改良ヨードホルム反応

改良ヨードホルム反応

この反応を別の基質でためして有機合成における有用性を調べたところ、ケイ皮酸や2-チオフェンカルボン酸などが合成できています。

従来法では困難だった電子豊富なアリールケトンの変換も可能で、シクロプロパンや芳香族ブロモなども侵されませんでした。

こめやん

こういう有名で基礎的な反応が未だに研究されているって面白いですね!高校でも出てくる教科書てきな反応でもちゃんと最先端の研究につながっています

参考

1) 安楽貢. “ヨードホルム反応を手早く確実に (ワンポイントアドバイス, 小・中・高のページ).” 化学と教育 38.1 (1990): 110.

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