アルキルハライドは反応性の高い分子で水酸化物イオンと置換反応を起こしてアルコールが生成します。アルキルハライドだけでなく、アルコールから誘導されるスルホン酸エステルなどの脱離基全般が有効ですが、第二級、第三級ハライドは脱離反応が進行しやすいのでこれを抑える合成方法が鍵になります。
アルキルハライドの置換反応でアルコール合成
第一級〜第三級アルキルハライドやベンジルハライド、ハロカルボニル化合物などは水、水酸化物イオンによる置換反応により加水分解を起こしてアルコールを与えます。
しかし、意外と反応が進行しないことも多く、塩基性を上げすぎると脱離反応が進行しやすくなるため、そういった基質には
- 亜鉛やマグネシウムで有機金属化合物を作って酸素酸化する
- 酸化銀や硝酸銀などの銀塩で処理する
- エステル化した後加水分解してアルコール化する
- 水溶液を使う場合はTBAIなどの相関移動触媒を使う
- KIやLiIによりヨード化してから加水分解する。
- 炭カリ(KO2も良い)などを使う場合はクラウンエーテルを入れる
- トリブチルスズによるハロゲン引き抜きからの空気酸化法
などの方法があります。
ヨウ化物塩を加える方法は簡便でよいです。クラウンエーテルの添加も同様です。いったんヨウ化アルキルとしたのちに反応させる方法もありです。
銀塩を使った方法は穏やかな条件下でアルコールに変換できます。
有機ハロゲン化合物→有機金属試薬(Mg, Zn)→アルコール合成
有機ハロゲン化合物はエーテルなどの溶媒下マグネシウムと反応して有機金属化合物を作ります。これはグリニャール試薬と呼ばれる代表的な有機金属化合物です。
グリニャール試薬の合成概要グリニャール試薬・有機リチウム試薬をアルデヒドに変換
マグネシウムの代わりにRieke亜鉛を使えば有機亜鉛試薬が調製できます
有機亜鉛試薬を用いた合成 – Rieke亜鉛でケトン 根岸カップリング
これらを酸素酸化することで対応するアルコールを合成できます。
銀塩で加水分解
銀はハロゲンと反応しやすいため、アルキルハライドを活性化して加水分解しやすさせる作用があります。
銀塩としては硝酸銀や酢酸銀を用います。ベンジルブロミドを用いたエーテル化反応でも、強塩基を使いにくい条件では銀塩を用いてエーテル化を行います。
アセトン-水(1:1、5 mL)のアルキルハライド(330 mg 1.0 mmol)溶液に、23°CでAgNO3(340 mg 2.0 mmol)を加えて2日間撹拌した後、濾過、抽出して精製処理を行い目的物を目的物を91%で得た。
アルキルハライドを脱水DMSO(18 mL / mmol)の溶液にH2O(1当量)Ag2O(1当量)を攪拌しながら加えました。反応後、濾過し濃縮、精製処理を行い目的物を83%で得た。
銀塩を用いた反応ではベンジル・アルキルハライド(Cl, Br, I)を中性条件でアルコールに変換できます。しかし反応は長時間を要することも多いです。反応は遮光して行います。酸化銀を使う場合は硝酸銀から調製したほうがよいです。
ギ酸エステル化→加水分解してアルコール
ハロゲンに対してギ酸や酢酸を作用させてエステル化した後に加水分解してアルコールを合成する方法もあります。強塩基性条件では基質の他の官能基が加水分解してしまうような場合にはエステル化を介したほうが、分解が少なく抑えられるかもしれません。
クロロアルキル(0.1 mol)、ギ酸ナトリウム(0.2 mol)、およびテトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB;0.005 mol)を加えて125℃で1.5時間攪拌し、反応後抽出、し目的物を96%で得た。
ギ酸ナトリウムを用いた場合は塩基などを加えなくても加熱するだけでエステル化できます。ギ酸を用いる場合はトリエチルアミンや炭酸カリウムなどの塩基を加えると良いです。相間移動触媒としてTBABを加えていますが、TBAIなどでもOKです。溶媒は加えていませんが、クロロホルム、DMF,アセトニトリルなどでもOKです。
エステルはKOHやK2CO3などの塩基とアルコール溶液中で撹拌すれば容易にアルコールを与えます。