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死斑とは?-死亡推定時刻を割り出す死体変化-

死斑とは、死後6-12時間にかけて現れる紫色のアザです。

ドラマや映画の中で警察が死体をみて「こいつは死後3,4時間ってところだ。犯人がまだ近くにいるかもしれない…」みたいなシーンを見たことありませんか?なぜそんなことがわかるのかというと、死亡後、時間が経つとともに死体に様々な変化(死体現象)が現れるからです。その一つが今回紹介する死斑です。

死斑とは?を簡単にまとめると?

死斑は「死後6~12時間後に現れる紫や赤色のアザ」のことです。死斑の正体は心臓停止によって溜まった血液です。そのため、倒れている地面側に死斑が現れます。

死斑で死亡推定時刻が割り出せるのは、死斑をつくる時間が共通しているからです。死後12時間経過すると死斑は完成して変化が少なくなります。12時間経過しているかどうかは死斑の部位を圧迫して色の変化が起こるかどうかを調べるとわかります。変化が起これば死後12時間以内であることがわかります

もちろん死斑は死体を動かしたり、気温などの環境、死亡の原因などによって変化します。死体発見した時はあまり動かさないようにしましょう。

また、死斑の色から死因を予想することもできるため捜査を進めるうえで重要な証拠になります。


死体現象とは?

死亡した被害者に現れる様々な変化を死体現象といいます。死体現象には死斑、死後硬直、体温低下、眼球の変化などがあります。

死体現象には早い変化と遅い変化があります。死斑や死後硬直などは死亡後比較的早く現れる変化で、白骨化などは遅い変化に分類されます。

死体現象は死後経過時間を推定するのに役立ちます。また、死亡推定時刻だけでなく、死因死亡の種類(窒息や失血死)を推定するのにも役立ちます。この死体現象は、個体差死体が置かれた環境で大きく変わるで注意が必要です。

死体現象は大きく分けて早い変化と遅い変化に分けられます。

専門用語で早い変化を早期死体現象と遅い変化を晩期死体現象と呼びます。

事件解決に役立つのは早期死体現象ですが、置かれた環境や時間経過とともに刻々と変化します。死体を移動したりせずに、現場を保存を心がけましょう。

早期死体現象とは

早期死体現象と呼ばれるものは主に4つあります。

  1. 死斑
  2. 死体硬直(死後硬直)
  3. 死体温変化
  4. 乾燥(主に角膜の混濁)

この4つが早期に起こる死体の変化です。それぞれの変化を観察することにより、死因特定、死亡推定時刻を割り出します。


死斑とは?

死斑とは、死後から6-12時間にかけて皮膚に現れる紫色のアザです。死亡後に出てくる斑点なので、死斑と呼ばれます。

死斑は地面側に現れやすいです。背中側に紫~赤色の死斑が浮かび上がっているのがわかります。

なぜ死斑がでてくるの?

紫色の斑点が死斑といいました。この死斑の正体は一体何かと言うと血液です。なぜ血液で斑点が出てくるかというと、心臓が止まってしまっているからです。

生きているときは心臓が血液を循環させていますが、死亡後は心臓が止まるため血液が循環しなくなります。

循環されなくなると身体の血液は重力によって下へ下へと移動していくことになります。

死体が仰向けの場合は顔面、腹面から重力に従って後頭部、背面のほうに血液が移動するため、死斑は脇腹下部、背面などに現れます。つまり、死斑の正体は滞留した血液です。

血液が死体の地面側に移動すると上側の皮膚は血液がなくなって蒼白になります。死亡後に仰向けに寝かせていると顔面が白くなるのも同じ理由です。

この死斑は血液の移動なので、仰向けの死体をうつ伏せに変えてしまうと、背中側に集まっていた血液がお腹側に移動してしまいます。こうすると死斑が移動してしまうので、死亡推定時刻の判断が狂るってしまいます。ですから死体はむやみに動かしてはいけません

死斑の形成は半日程度(約12時間)で完成して、それ以降は変化しにくくなります(色素が組織に浸透していくため)。死後12時間位経過したかどうかは、死斑を指で圧迫した時の色変化で判断できます。圧迫した時に色変化が起こる場合にはまだ死亡してから半日以内だということがわかります。

死斑の色調からわかること

死斑の正体は溜まった血液でした。ということは死斑の色は血液の色(ヘモグロビンの色)ということになります。血液の色も時間とともに変化することが知られています。よく動脈の血液は酸素を多く含んでいて鮮やかな赤色をしていて、不要物、二酸化炭素を多くふくむ静脈の血液は暗い赤色などというのを聞いたことがある人がいると思います。

ヘモグロビン(Hb)は死因(死亡した原因)によって状態が異なるため、死斑の色=ヘモグロビンの状態によって死因推定ができます。

・通常の死斑のHb=暗赤色
・シアン化物中毒(鮮やかな紅色、死斑は強く出る
・一酸化炭素中毒(チェリーレッドピンクっぽい
・寒冷暴露(酸素消費の低下により動脈血に近い鮮紅色に)
・硫化水素中毒(緑褐色
・亜硝酸中毒、塩素酸カリウム中毒(チョコレート色、メトヘモグロビン形成にともなう

死斑が弱く出る場合

失血死、敗血症、心不全、貧血の人、老人、新生児、溺死(出ないことが多い)、圧迫部位(コルセット等)、消耗性疾患(疾患末期)

死斑が強い

急死(血液が死亡直前まで流動していることによる)、急性虚血性心疾患、脳血管障害、窒息、向精神薬中毒、農薬中毒(有機リン化合物等)

死斑の模様からわかること

死斑は血液の滞留によって生じるため、血液の流れがせき止められる場合はそこに死斑は現れなくなります。

死亡時に圧迫されている部分、圧力がかかっている部分は皮膚表面が押されているため、血液がたまりにくくなり、死斑は弱くでます。

コルセットなどを着用している部分で死斑が出にくいのもその理由です。

死亡時のきつめの衣服(スーツ、ネクタイなど)を着ているとその部分に死斑が出にくくなることから、まるで絞められた跡のようになることがあります。そのため死亡時の衣服をみだりにいじってしまうと捜査を混乱させる一因になるため注意が必要です。

M. Tsokos, R.W. Byard, in Encyclopedia of Forensic and Legal Medicine (Second Edition), 2016

柵のような部分にのっているとそのような形に死斑が形成されます。死体が見つかった場所と死斑の形から死後に移動されたかどうかを知ることも可能です。

死斑の時間変化

死斑の変化の仕方を観察することによって、死亡推定時刻を推定するのに役立ちます。

  • 死後0.5-1時間:死斑が出現し始める
  • 死後1-2時間:死斑がはっきりと認められ始める。
  • 死後2-5時間:指圧で死斑が消失、体位変化で死斑が移動
  • 死後5-10時間:指圧で死斑が一部退色、体位変化で新しい死斑と古い死斑が混在
  • 死後10-15時間:指圧で死斑が退色しにくい、体位を変えても新しい死斑が生じない
  • 死後20時間以上:死斑が固定化する。

死斑に関わる豆知識

内蔵にも死斑ができる?

死斑は皮膚の表面だけでなく内臓にも現れます。直接みることができませんが、臓器の中でも特に肺によく現れます。

打撲との見分け方

撲殺等で皮下出血を生じている場合は部位によっては死斑と区別しにくいことがあります。その見分け方として、

死斑:体位の下部に生じる、指圧によって消失する(死亡から12時間以内)

皮下出血:外傷が認められる。体位下部ではない場所に生じている。指圧により消失しない。血液凝固が起きている

このように死斑もよく観察すればたくさんの情報が手にはいります。

死亡推定時刻は死斑だけで判断可能か?

死斑の形成は基本的に早期死体変化として現れるものであり、死後から30~40時間くらいまでしか有効ではなく、腐敗が始まると定量性は大きく低下します。

死斑のパターンや濃淡、部位、面積などは個体差が大きく環境要因など様々な因子に影響されるため、死斑のみで死亡推定時刻を決めるのは困難です。精確度の高い時刻を導き出すためには死体温や角膜の変化、死後硬直などの他の死体変化と合わせて推定する必要があります。

ヘモグロビンの色変化はなぜ起きるか?

ヘモグロビンの色変化が起きるのは、ヘモグロビンに含まれるヘムの構造変化によって引き起こされます。ヘモグロビンはグロビンというタンパク質とヘムという低分子化合物が合体したものが4つ集まった4量体の構造をしています。グロビン自体は赤くありません。赤いのはヘムの方です。ヘムは鉄とポルフィリンというピロールが4つ集まって大きな環構造をした大環状化合物が合体した錯体です。

酸素や一酸化炭素などはこのヘムの鉄に対して結合するのですが、このときポルフィリンの環の形が変化します。例えば、酸素が結合している時はポルフィリンの環が平面になっていますが、酸素が取れた時は平面の構造が歪んだ形(大げさに書いてます)になります。これによって吸収する光が変化して、血液の色が変化します。

死体温とは? ー 死亡推定時刻を割り出すために

死後硬直とは?ー 死亡時刻推定に役立つ

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