カラムクロマトグラフィーを成功させるのに一番重要なことは「展開溶媒の選択」です。きちんと展開溶媒を検討することが失敗を減らすのに一番重要です。ここでは、なぜ展開溶媒が重要なのか?どのように展開溶媒を選択したら良いか?
展開溶媒の検討はカラム成功の鍵
カラムクロマトグラフィーを行うには展開溶媒が必要です。展開溶媒は分離したい化合物が別々に回収できるようなものを選択する必要があって、場合によっては、二種類三種類くらいの展開溶媒を順番に流すこともあります。
こめやん
カラムの展開溶媒はTLCを使って決めます。TLCでRf値が高い化合物がカラムでは先に出てきます。
こめやん
良い展開溶媒とは分離したい化合物同士のスポットが重ならず、できるだけ離れる溶媒です。そして分離したいスポットのRf値が0.3くらいになるように極性を調節します。手順は、
- 様々な展開溶媒の組み合わせを試してスポットができるだけ分離する展開溶媒をTLCで見つける
- 見つけた展開溶媒の極性を調節してRf=0.3くらいにもってくる。
のような手順で展開溶媒を決定します。1と2は同時にやってしまうことが多いです。
溶媒の選択性とは?色んな組み合わせを検討する意味
Rf値が0.3くらいの溶媒を見つけることはできたけど、スポット同士が分離する溶媒が見つからない!
ということがよくあります。これに関しては本当にたくさんの溶媒の組み合わせを試して、なるべく良さそうな展開溶媒を選ぶしかありません。
実際に、溶媒の種類が異なれば、化合物と溶媒の相互作用の仕方も異なります。例えば、同じ極性溶媒のメタノールとアセトニトリルとでは、メタノールはヒドロキシ基に由来するプロトンをもっていますが、アセトニトリルはもっていません。これによって水素結合の仕方が異なるので、展開の仕方もお互いに異なります。このように溶媒には選択性があります。
だから、様々な展開溶媒の組み合わせを試す必要があるのです。
化合物AとBをジクロロメタン/メタノールの組み合わせをTLCで検討したら上からA,Bと展開されたが、ジクロロメタン/アセトにトリルの組み合わせとでは上からB,AとRf値が逆転することもあります。
効率的に展開溶媒を検討するには?
展開溶媒の試し方にはコツがあります。それは「似ていない溶媒同士を検討する」ということです。
似ている溶媒とは例えば、メタノールとエタノールなどです。
似てない溶媒は、メタノールとアセトニトリルです。
そのため、「ジクロロメタンとメタノール」「ジクロロメタンとエタノール」とで比較するよりも、「ジクロロメタンとアセトニトリル」を比較した方が違いが大きいので、効率よく検討できます。
こめやん
溶媒の選択性は8つのグループ分けができます。
- ジエチルエーテル
- エタノール、メタノール、プロパノール
- THF
- ジクロロメタン
- 酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル
- トルエン
- クロロホルム
- ヘキサン(無極性グループ)
Lloyd R. Snyder, et al. Introduction to Modern Liquid Chromatography Third Edition, Wiley.より
スポットが重なって分離できない時は、上記の溶媒グループの中で試していないグループの溶媒同士の検討をしてみましょう。
逆に極性が高すぎる、低すぎてRf値の検討ができない時は、同じグループの溶媒の中で極性の違いで使い分けます。例えばトルエン/酢酸エチルでは酢酸エチルを100%にしてもスポットが上がらないという時、酢酸エチルよりも極性の高いアセトンやアセトニトリルを試します。
試したほうが良い溶媒は、THFやジエチルエーテル(MTBE,イソプロピルエーテル等)などエーテル系です。これらの溶媒を使用したことこが無い場合は、検討してみてはいかがでしょうか?
Rf値とカラムの展開の仕方はどう変化する?
良い展開溶媒の組み合わせが見つかったら、混合比率を調整して目的の化合物がRf値0.3くらいになる溶媒を見つけます。別れにくい化合物の場合はRf値を下げるとカラム内に保持される時間が長くなり、分離しやすくなります。
カラムではカラムボリューム(CV)という考え方があります。カラムボリュームはRf値から変換可能で
CV=1/Rf
となります。Rf値=1の時 CV=1 Rf値=0.5→CV=2 Rf値0.1→CV=10です。CVが意味するのは、カラム体積(シリカゲルが詰まっている体積)で、Rf=1→CV=1の化合物はカラムの体積分のその展開溶媒流すと出てくるということを意味します。Rf=1ということはほとんどシリカに保持されずに出てくるので、体積分流したら出てくるということですね。
Rf値が0.5ならシリカ体積の2倍量の溶媒を流すと出てくるということです。このようにRf値をCVに変換すると直感的に化合物の挙動が想像しやすいのでよく使います。
分離したい化合物とのスポットは離れていたほうが分離しやすいですよね?これをCV値に変換すると少し印象が変わります。
- 化合物AのRf値=0.8
- 化合物BのRf値=0.5
- ⊿(A-B)=0.3
のようにRf値の差は0.3です。では別条件にしたら
- 化合物AのRf値=0.4
- 化合物BのRf値=0.1
- ⊿(A-B)=0.3
こちらもRf値の差は0.3です。これをCVに変換するとどうなるでしょうか?
- 化合物AのRf値=0.8→CV値=1.25
- 化合物BのRf値=0.5→CV値=2
- ⊿(A-B)=0.75
⊿CV=0.75でした。では別条件では?
- 化合物AのRf値=0.4→CV値=2.5
- 化合物BのRf値=0.1→CV値=10
- ⊿(A-B)=7.5
こちらの⊿CV=7.5で、十倍もこちらのほうが大きいです。これをカラムのイメージで捉えると最初の条件はAの化合物が出てきてから、シリカ体積0.75倍分の溶媒を流すとBが出てくる。
二番目の条件ではAの化合物が出てきてから、シリカ体積7.5倍分の溶媒を流すとBが出てくる。
どちらのほうがAとBが分けやすいでしょうか?圧倒的に二番目の条件が分けやすいですよね?最初の条件ではAが分けきる間にBが出てきてしまう可能性が高いです。
Rf値は低い部分での差のほうが、カラム上では大きく分離するというのが理解できたとおもいます。だからカラムの展開溶媒はRf値0.3以下に設定しろというのです。Rfが低ければいいのかというと、低すぎると沢山溶媒を使わないと出てこないので時間も溶媒も無駄になります。だから大きくRf値が離れていたりする場合は、Rf値0.3にこだわる必要はないのです。
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