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クリックケミストリーに使える反応(クリック反応)の種類とまとめ

クリックケミストリー(click chemistry)とは、click (カチっという音)の意味通りカチッと綺麗に進行する反応を利用した手法のことです。英語で”click”という言葉にはぴったりはまる音という意味があります。そのためクリックケミストリーでは高選択的・高収率な反応が用いられます。

このぴったりカチっとはまる化学手法を使うことで、機能性材料、高分子材料、ケミカルバイオロジー、医薬探索など様々なことに応用できます。

今回はそんなクリックケミストリーに使える反応(クリック反応)についてまとめてみました。

クリック反応に必要な条件

クリック反応には下記に示す条件が求められます。

  1.  熱力学的に有利で迅速に反応する
  2.  悪影響を及ぼす副生成物を出さない
  3.  水中においても反応できる

・・・などです。

基本的にコンセプトである高選択的・高収率という反応に必要な条件ですね。


クリック反応の種類

現在のところクリック反応といえば、最初に示すヒュスゲン環化反応とほぼ同義ですが、近年では他の反応もいくつか開発されています。

ヒュスゲン環化反応

ヒュスゲン環化反応 (Huisgen cycloaddition)は、アジドとアルキンを用いて1,2,3-トリアゾールを形成する1,3-双極子付加環化反応です。この反応自体の進行は比較的行きにくく、古典的なヒュスゲン環化反応ではクリック反応として使用できませんが、アルキンを活性化させることで有用なクリック反応になります。

この反応がクリックケミストリーにおいて優れている理由としては

  • アルキンを活性化してある場合の進行が迅速である
  • 生体内に含まれるような他の官能基とは反応しない(生体直行性(bioorthogonal)が高い)
  • 反応の副生成物がない
  • 水中でも反応できる
  • アジドの性質を利用して付け分けができる

などが挙げられます。

銅触媒を利用したアジド-アルキン反応(CuAAC)

銅触媒を用いるアジド-アルキン反応(Cu-catalyzed Azide Alkyne Cycloaddition: CuAAC)は2001年にシャープレスらによって開発されました。一般的なヒュスゲン環化反応と比較すると反応が数100倍にも加速されており、クリックケミストリーを一躍有名にした反応でもあります。

かつては反応機構として単純に銅アセチリドによるアルキンの活性化を経てアジドとヒュスゲン環化する機構が提唱されていました。しかしながら、現在ではアルキンがCuと結合して銅アセチリドになった後、さらに銅がアルキンに配位し活性化され、反応が促進されていることがFokinらによって報告されています。

CuAACはクリック反応の代名詞的な反応であり、すでに機能性材料、医薬探索、プローブ合成など様々な分野で応用されています。

歪を利用したアジド-アルキン反応 (SPAAC)

上記のCuAACは非常に強力な反応で、クリックケミストリーを一躍有名にした反応ですが、細胞等の生物系にこの反応を用いようとした場合に銅触媒の毒性がネックになってきます。そこで銅触媒を用いずに、アルキン自体を歪ませて活性化させるヒュスゲン環化反応がBertozziらによって開発されました。この反応は歪促進アジド-アルキン付加環化(Strain-Promoted Azide-Alkyne Cycloaddition: SPAAC)と呼ばれており、大環状のアルキンを用いることでアルキン自体を立体的に歪ませ反応を促進させます。実際にこの大環状アルキンを用いることで、銅触媒無しでも上記のCuAACと同様に様々な分野で応用できます。

歪を利用した逆電子要請型ディールス・アルダー反応(SPIEDAC)

SPAAC以外にも、歪を利用したディールスアルダー反応(Strain-Promoted Inverse Electron-demand Diels-Alder Cycloaddition: SPIEDAC)が知られています。歪を持たせた大環状アルケンおよびアルキンに対してテトラジンを用いることで迅速な反応を行うことができます。触媒等を必要せずに直行性が高い反応のため、有用であり、歪んだ大環状アルキンも反応に使えるのでSPAACとの比較も簡単です。

チオール-エン(イン)反応 (thiol-ene reaction)

チオール-エン反応は、チオール(R-SH)とエン(二重結合)とのラジカル付加反応のことです。この反応では、ラジカルの性質を利用して高収率、高選択性、穏和な反応条件で進むことが知られています。また、チオールとイン(三重結合)を利用したチオール-イン反応も開発されており、こちらではチオールとアルキンが反応してできたアルケンがさらにチオール-エン反応を起こすことで、1個のインユニットに対して2分子のチオールを付加することができます。また、アルキンの場合では、上記のヒュスゲン環化に使われるアジド-アルキンのアルキンユニットがそのまま使えるので、検討比較という点でも便利です。

硫黄(IV)-フッ素交換(SuFEx)反応

CuAACを始めて報告したK.B.Sharpless(シャープレス)が新たにクリックケミストリーに使えると報告したのが硫黄(IV)-フッ素交換(SuFEx)反応です。

この反応では適切な条件下にあるスルホニルフルオリド(R-SO2F)とアミンやアルコールなどの求核剤が反応してスルホニル化物(R-SO2Nu)を与えます。特にスルホニルフルオリドは基本的に熱的にも還元的にも安定な化合物であることが分かっているものの、水中条件では迅速に求核剤と反応する興味深い性質が知られています。この特定の条件による反応性を利用することで、特定の環境下でのみ反応させることができます。

スルホニルフルオリドの合成に関しては、毒性を持つ気体であるSO2F2を用いる必要があります。しかしながら、それ以外にもフッ化エテンスルホニル(ESF)を用いた簡便な合成法が知られており、ESFをマイケルアクセプターとして種々の求核剤と1,4付加を起こすことで簡便にスルホニルフルオリド基を導入することができます。

参考文献

1) H. C. Kolb, M. G. Finn & K. B. Sharpless : Angew. Chem. Int. Ed., 40, 2004(2001)

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