ゴキブリを殺すための殺虫剤としてほう酸団子を作るという話は聞いたことがないでしょうか?殺虫作用のある化学物質としてかつてはよく利用されていたようです。
こめやん
生命力の高いゴキブリを殺してしまうというと毒性が高いイメージが持たれやすいですが、実際は哺乳類に対しては毒性が低く、安全性が高いそうです。では一体なぜゴキブリはほう酸を食べて死んでしまうのでしょうか?ここではその理由を紹介します。
ほう酸とは?
ほう酸はホウ素(B)の酸化物でB(OH)3の構造をしています。あまり身近では無いかもしれませんが、ほう酸の水溶液は弱酸性を示し、温泉の成分としても多く含まれています。新潟県の松之山温泉は国内でもほう酸含有量が多い薬泉として有名です。
ボロン酸は有機合成化学でも鈴木宮浦カップリング反応などで使われる化合物として重要です。
意外と身近なほう酸ですが、ほう酸を含ませた団子を食べるとゴキブリが死亡するため、殺虫剤として使用されています。
Amazonでもゴキブリ駆除用として「フィプロニル」という新しい殺虫剤を含むものが有るにもかかわらず、ホウ酸団子は評価が高く利用されています。
ほう酸がゴキブリに毒性を示す理由
ホウ酸はゴキブリに対して神経毒性(コリンエステラーゼ活性阻害)と消化管毒性(消化管組織を破壊)を示します。これによって最終的にゴキブリは飢餓により死亡するようです1)。この毒性は人間やマウスなどの哺乳類に対しては弱く、昆虫にのみに作用するようです。
実際にほう酸の経口急性毒性は、ラットでは半数致死量LD50が2660-5140mg/kgであり、食塩(3000mg/kg)と同じくらいの毒性を示します。このようにほう酸の人間に対する毒性は昆虫と比べてかなり低くなっています。
食品添加物として利用されたほう酸
ほう酸は無臭、無色、無味でありながら、防腐作用があるために、かつては食品添加物として大いに利用されていました。英国では様々な製品に使われていましたが、1927年には禁止されました。日本では現在も食品衛生法でホウ酸を食品添加物として利用するのは禁止されていますが、混入事件はときどき発生しています。比較的安全性が高そうなほう酸が禁止されているのは、かつてよく使用されたほう酸でたびたび中毒が発生し、特に乳幼児の死亡事故が多かったことが原因の一つです。ほう酸の毒性は年齢や個体差が大きく致死量を一義的に定義することが難しいですが、大人では15-30g,子供では3-6gと言われています。中毒症状は嘔吐や下痢などを起こして衰弱し、数日後に死亡します。中毒症状はゴキブリの例と似ていて消化管症状を起こすようです。ほう酸の怖いところは白色粉末で砂糖や塩と間違いやすく大量に混入しても無味無臭であるために気づかない点です。
ほう酸は実は危険性が高く死亡例もあるため注意が必要です。スライムで使用するホウ砂も同様に注意が必要です。
参考文献
1) Habes, Dahbia, et al. “Boric acid toxicity to the German cockroach, Blattella germanica: Alterations in midgut structure, and acetylcholinesterase and glutathione S-transferase activity.” Pesticide Biochemistry and Physiology 84.1 (2006): 17-24.
2)冨安行雄; 榎本則行. 食品に添加されるホウ酸について. 食品衛生学雑誌, 1963, 4.5: 253-259.