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ボラン還元 カルボン酸をアルコールに還元!

ボラン還元

ボラン還元はカルボン酸のアルコールへの還元反応に利用されることが多い還元剤です。

ボランはNaBH4やLiAlH4とは異なる官能基選択性を持つため、重用されています。特にカルボン酸、アミドの還元を酸塩化物やエステル、エポキシを含む構造中これらを侵さずに変換することができます。

有用性はそこまで高くないもののケトン やアルデヒドも還元と反応してアルコールを生成します。キノンの還元も可能です。

ボランとは?ジボランの性質・安定性

ボラン(BH3)単体は通常不安定なため、ジボラン(B2H6)の形で存在しています。

ボランとジボランの構造

ボランとジボランの構造|ジボランは3つの原子(2つのホウ素と一つの水素)で2つの電子を共有する三中心二電子結合という特徴てきな構造をしている。

ジボランは強い毒性をもつ沸点が-92.5℃の気体です。

ジボランは還元反応にあたってモノボラン体になってから反応します。

ジボランは不安定ですが、THFやジメチルスルフィドとの錯体の状態では比較的安定です。(THFは反応する)

THF-ボラン錯体の安定性

ジボランは気体であるため使い勝手が悪いので、錯体として溶液で用いるのが一般的です。特にTHF溶液は市販されており、良く利用されています。

ボランーTHF錯体

ボランーTHF錯体

THF溶液は不活性雰囲気下であれば室温で24時間後でも分解は数%程度で、冷蔵保存であれば数ヶ月は保存可能です。

ボランの分解は高温になるほど増加します。

また、室温であっても空気中であれば約24時間後に半減します。

ボランが失活していないかは他のヒドリド還元剤と同様に水あるいは希酸を加えて水素が発生・量を確認します。

ボラン溶液の調製方法

カルボン酸のアルコールへの還元方法としてはボランが有名ですが、市販のボランーTHF溶液が古かったりするとあまり進行しないことがあります。その場合は自分で調製すると上手く進行することがあります。
自分で調製する方法は気体のジボランをTHF中にバブリングする方法とin situで発生させる方法があります。

1) バブリング法

ブラウンらは3当量のNaBH4に対して、4当量の三フッ化ホウ素ーエーテル錯体を加えて気体ジボランを発生させて、THF中にバブリングさせて調製する方法を報告しています(G.Zwifel, H.C.Brown, Org. React., 13, 1 (1963))。
窒素雰囲気下、三フッ化ホウ素ーエーテル錯体1.9molに1MNaBH4(0.9mol)-ジグリム溶液を1hかけて加えた後、70℃~80℃にあたためてジボランを発生させます。窒素ガスを吹き入れてガスを氷浴に浸したTHF溶液(950mL)にバブリングさせます。THF溶液のフラスコには還流管を付けます。

2) in situ

150mLのTHFと90mmolの水素化ホウ素ナトリウムの溶液に0.3molの基質を加えた後に、20mLTHF中の0.12molのBF3ーEt2Oを25℃に保ちながら1時間かけて滴下して発生させます。


ボラン還元の官能基選択性

他のヒドリド還元剤(NaBH4やLiAlH4)などとは異なり、ヒドリドによる求核的還元反応ではなく、ジボランは強いルイス酸性を有するため、求電子的還元反応を起こします

ボラン還元の各種官能基に対する相対的な反応性は

カルボン酸>オレフィン>アルデヒド>ケトン>ニトリル>エポキシ>エステル>酸クロライドです。

ヒドリド還元剤の相対的反応性とは選択性が異なるのが利点です。

酸クロライド>ケトン>エポキシ>エステル>ニトリル>カルボン酸

ボラン還元(THF錯体)で還元される可能性のあるその他の官能基

酸無水物、アミド、アジド、ラクトン、アセタール、オキシム、イミン、ヒドラゾンなどがあり、

還元されない官能基

ニトロ、有機ハロゲン化合物、スルホン酸、スルホン、ジスルフィド、チオール、アルコール、アミン

です。

ジメチルスルフィドーボラン錯体

THF錯体よりもジメチルスルフィド錯体のほうが安定で溶解性が高く高濃度にすることができるため反応性を高めやすい利点があります。

欠点はジメチルスルフィド由来の悪臭です。

アルデヒド、ケトン、ラクトン、カルボン酸、第三級アミドは還元されますが、酸クロライド、エポキシド、カルボン酸塩、ニトロは還元が非常に遅いです。

カテコールーボラン

カテコールボランはスルホキシドやケタール・アセタール、ヒドラゾン、カルボン酸塩も還元します。

ほかのボラン錯体と比べてカルボン酸と第三級アミドの還元はずっと遅く、エステルは還元されません。

9-BBN

アルキルボランは有用な還元剤として使えます。特に9-BBNは安定性が高く有機合成でよく利用されます。

脂肪族カルボン酸をゆっくりと還元しますが、芳香族カルボン酸は還元しない特徴があります。
ケトン、エステル・ラクトン、第三級アミドは容易に還元されます。

ボランを用いた還元反応

ケトン・アルデヒドの還元

ケトンやアルデヒドの還元は他のヒドリド還元剤が優秀なのであまり出番はないかもしれません。

ボラン還元の利点ボランの選択性(酸クロライドやエステルを還元しにくい)や中性条件で反応できる点などです。

ケトンやアルデヒドに対する反応性は高く、立体障害の影響も受けにくいと考えられていますが、ベンゾフェノンなどの還元は遅めです。

電子豊富なアリールアルデヒドは脱酸素されてトルエン誘導体が生じる可能性があります。

電子供与基をもつアルデヒドのボラン還元

キノンに対してもはゆっくりとですがヒドロキノンに還元します。アントラキノンに対しては反応しにくいです。

カルボン酸のアルコールへの還元

ボラン還元はカルボン酸の還元が得意です。

1当量のカルボン酸に対して2当量のボランが使われます。

カルボン酸に対する還元反応性は他のヒドリド還元剤と比べて高く、アミド、エステル、ハロゲン化物、ニトリル、ニトロなどの化合物存在下、選択的に還元することが可能です。

特に酸クロライドに対して反応性が低く、カルボン酸選択的に還元可能です。エポキシも反応が遅いです。

脂肪族よりも芳香族カルボン酸のほうが反応性が低いです。

脂肪族カルボン酸は0℃でアルコールに還元されますが、芳香族カルボン酸は室温以上の温度で還元反応を行うことが多いです。

また、しばしば過剰量のボランを要します。

αケト酸はカルボン酸への反応性の高さを利用してカルボニル基を還元せずに酸のみをアルコールに還元することもできます。

カルボン酸のアルコールへの還元反応例1

ボラン還元-カルボン酸1

ボラン還元-カルボン酸1- Bruncko, Milan et al Journal of Medicinal Chemistry, 58(5), 2180-2194; 2015

カルボン酸(14.2 g、41.6 mmol)のTHF(100 mL)溶液をN2下で-15°Cに冷却しボラン-THF溶液(1 M、46 mL、1.1当量)を滴下し、反応混合物を室温に戻して16時間撹拌した。反応後混合物をメタノール(50 mL)でクエンチし、30分間撹拌し、濃縮。カラム精製により目的物を95%で得た。

エステルやアリールハライド存在下でカルボン酸のみを選択的に還元できます。アリールハライドはボラン還元に不活性で還元を受けません。

ピリジン・チオフェン等の複素環カルボン酸も還元可能です。ピリジンなど塩基性のある物質はボランと反応するので過剰に加えましょう。

ボラン還元ではよく利用されるニトロ基、Boc基、ベンジル基、TBS基、ピナコールボランなどは侵されませんが、ケトン・アルデヒドは還元を受けてアルコールにな可能性があります。

ボラン還元が進行しない?対策法は?

前述したように、ボラン還元は市販のTHF溶液では反応が進行しにくいときもあります。自前で調製するか、より安定で高濃度に利用可能なジメチルスルフィド錯体を使用します。ジメチルスルフィド錯体は芳香族カルボン酸に対する反応性が低い場合があります。

また、カルボン酸はしばしば水を含みやすくこれが反応を邪魔することがあります。トルエン共沸などで水分を十分に除きます。

アルコールやアミンはホウ素に配位して反応を邪魔します。これらの官能基を含む場合は、官能基分を考えて過剰量のボランを加えることによって反応を進行させることができます。

カルボン酸とは異なってカルボン酸塩はボラン還元が進行しにくいことが知られています。したがってカルボン酸塩は酸でカルボン酸にするか倍量のボランを加えて還元します。

まれにトリアルコキシボロキシンの加水分解が進行しにくいことがあり、その場合は酸性加水分解を行います。

アミドの還元

アミドはジボランによって還元されてアミンを生じます。アミドは第三級および第2級アミドは反応しやすく、第一級アミドは還元されにくいです。アミドの還元はより高い温度が必要ですが、定量的に進行します。ラクタムも同様に還元されます。

アミドもアミンやアルコールと同様にボランと反応して不活性化するために過剰量のボランを加える必要があります。

芳香族はより反応性が低く、より長い時間の還流が必要です。(THF中で還流でOK)。

アミドの還元反応条件例1

ボラン還元-アミド1

ボラン還元-アミド1 – Wanaski, Stephen P. et al  PCT Int. Appl., 2013059648, 25 Apr 2013

基質(270 mg、0.65 mmol)のTHF(5mL)の溶液に、ボラン-テトラヒドロフラン複合体(1.0 M溶液THF中、3.23 mL、3.23 mmol)を0℃で窒素雰囲気下で滴下して加えた後、室温に戻しながら一晩撹拌した。反応後水と2M HClを注意深く加えてクエンチして室温で30分各区版下あと、炭酸カリウムで塩基性にして、分液、精製して目的物を77%で得た。

第三級アミドはアミドの中でも還元を受けやすく、エステル存在下でアミドのみを室温で還元することが可能です。

第二級アミドは加熱還流が必要であることも多いですがエステルを還元せずにアミドのみを選択することも可能です。

ラクタムも還元可能です。

ホルムアミドを還元するとNメチルアミンを得られます。

αβ不飽和アミドはオレフィンも還元されます。

オキシムの還元

オキシムも還元を受けてヒドロキシルアミンを還元されます。

ニトロ基は脂肪族第一、ニ級は還元されてヒドロキシルアミンが生成する場合があります。

ニトリルの還元

ニトリルは室温下ボランと反応してボラジンを生成します。ボラジンは酸加水分解によってアミンを得られます。

ニトリルの還元

ニトリルの還元

エポキシドの還元

エポキシの還元にはあまり使われません、選択性などもあまり良くない。

アルケンとの反応

THFボラン錯体はアルケンをアルコールに変換するヒドロホウ素化を行うことができます。ボラン錯体に2-メチル-2-ブテンを加えてアルキルボランを調製した後に化合物と反応、塩基性条件下過酸化水素を作用させてアルコールに導きます。

アルケンハイドロボレーション

アルケンハイドロボレーション Liu, Ruzhang et al
Journal of the American Chemical Society, 134(15), 6528-6531; 2012

窒素雰囲気下、0°Cでオーブン乾燥したフラスコにBH3-THF錯体(1M、1.25mL、1.25mmol)を加え、続いて2-メチル-2-ブテン(THF中2M、 1.25 mL、2.50 mmol)を加えて、2時間撹拌した後、窒素下THF(2mL)に溶解した基質(40mg、0.20mmol)にボロン溶液を0℃で加えた。室温に戻してovernightした後、0℃に冷却し、3M NaOH水溶液(2.1mL)とH2O2(H2O中30%w / w、1mL)を加えて、得られた反応混合物を2時間かけて室温に戻して、分液、精製して目的物を83%で得た。

アミドは還元せずにアルケンをアルコールに変換することが可能です。

ボランの反応機構

ジボランのカルボン酸の還元反応機構

ジボランのカルボン酸の還元反応機構

カルボン酸の還元はまずボランと3当量のカルボン酸とでトリアシロキボランの生成から始まります。

トリアシロキボランは還元されて、トリアルコキシボロキシンです。トリアルコキシボロキシンは水で加水分解されてホウ酸とアルコールが生じます。

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